一件コンプリート!あとはお風呂でのんびり~と!
「いや~、マジで疲れたわ~……ホント、色々どっと来た……」
「お、お疲れ様、兄さん。無事に犯人を確保できて良かったね」
――その後、駆け付けた警備隊員によって覗きをしていたカメレオンの魔鎧獣は逮捕され、無事にクリアプレートも回収された。
大方の予想通り、犯人の男は軽犯罪の前科持ちの小悪党であり、クリアプレートを手に入れて調子に乗り、再び犯罪に手を染めた……ということらしい。
覗き魔を確保しようとしたらよくわからない大量のおまけ(英雄候補たち)も一緒に捕まえる羽目になったり、最後の最後でとんだラッキースケベに遭遇してしまったりといったハプニングこそあったが、無事に犯人を確保できたことは喜ぶべきだろう。
姿を消せる(正しくは保護色を用いて周囲の風景に溶け込むだが)能力という、使いこなせばかなり凶悪な力を持つ魔鎧獣を早期に捕まえられたことは、間違いなく後に起きるであろう大犯罪を未然に防いだことになるのだから。
というわけで、犯人確保に大きく貢献したユーゴたち三人+フィーは、ご褒美というわけではないが四人で露天風呂を堪能していた。
彼らの他には客の姿もなく、ちょっとした貸し切り状態である。
負傷こそしていないものの色々あった戦いの疲れを癒すように温泉に浸かるユーゴたちは、のんびりとしながら話をしていった。
「犯人は無事に確保。クリアプレートも回収完了。これにて一件コンプリートって感じだな……」
「まあ、確保された覗き魔の数が膨れ上がったのは予想外だったがな。ちなみにあいつらはどうなった?」
「今頃、キャッスル先生にこってり絞られてるんじゃないか? やってることは普通に犯罪だからね」
「ほ、本当に色々大変だったんだなぁ……」
カメレオンの魔鎧獣と一緒に捕まった(?)ウォズたち英雄候補の面々は、警備隊に逮捕こそされなかったものの学園側から大目玉を食らっている。
リュウガの言うとおり、規律と人々の平和を守る魔導騎士見習いという立場にありながら覗きという犯罪に及んだこともそうだが、今回もまた下手したら警備隊の作戦を妨害するかもしれなかったという状況もまた見逃すことはできない。
修学旅行中ということもあり、正式に処罰や処分を言い渡すことはできていないが……ルミナス学園に帰ったら、彼らにも何らかのペナルティが課されるだろう。
「やっぱこう、覗きなんかするもんじゃねえよな……いや、覗きに限らず、犯罪なんてしちゃいけねえんだけどさ」
という、ユーゴの呟きにマルコスとリュウガがうんうんと頷く。
なんにせよ、事件は無事に解決した。今はそのことを忘れ、露天風呂を楽しもう。
そう結論付けたユーゴは、湯船から立ち上がると共にフィーへと言う。
「フィー、たまには兄弟水入らずのコミュニケーションといくか! 頭洗ってやるよ!」
「ええっ!? そんな、いいよ。恥ずかしいし……」
「何遠慮してんだ。滅多にない機会なんだし、いいじゃねえか!」
といった感じで、恥ずかしそうにしている弟を連れて洗い場の方へ向かったユーゴが、シャワーを手にフィーの髪を洗い始める。
備え付けのシャンプーを泡立て、わしわしと綺麗なフィーの黒髪を丁寧に洗い始めた兄へと、目を閉じている弟が言った。
「なんかすごいなぁ……兄さんもマルコスさんもリュウガさんも、すっごい鍛え上げられた体してる。僕だけ貧相で恥ずかしくなっちゃうよ」
「はははっ! んなこと気にすんなよ。俺たちはほら、鍛えてますから!」
「それはそうだけどやっぱり僕は体が弱いし、兄さんみたいな体に憧れちゃうな……」
腹筋はバキバキ、腕も脚も引き締まった鋼のように鍛え上げられている兄たちの姿を見たフィーが、自分の体と彼らを比較して小さくため息を吐く。
全身に生傷を刻んだ兄たちの体は、戦う人間のそれといった感じで……どうしても貧相な自分の体と比較してしまう。
コンプレックス、というわけではないのだろうが、やはり気になる部分があるのだろう。
そんな弟の髪を洗いながら、某光の国の№6的な弟を思わせる三本角の形に髪形を変えて遊びながら、ユーゴが口を開く。
「フィーは確かに俺たちみたいな戦闘要員じゃあねえが、これから成長期に入って、体もどんどん大きくなる。そっから鍛えればいいんだよ。だから、焦るなって。お前たちが健やかに育つ未来を守るのが、俺たちの役目だからな」
「僕たちの、未来……?」
「ああ。子供たちの笑顔と未来は、ヒーローが守るべきものの上位に君臨するもんだからな! あとまあ他にも、居場所とか夢とか過去とか心の中の音楽とか、色々守るべきものはあるけどさ!」
この島のヒーローだったゴメスが守り続けた子供たちが今のウインドアイランドを守る警備隊員になったように、ヒーローが守った誰かの今が、その人の未来へとつながっていく。
そうして未来へと歩んだ人間がまた憧れたヒーローのように幼い誰かの今を守って……そうやって、想いは繋がっていくのだ。
「……大丈夫。お前だっていつかは自分の手で大切な誰かを守るようになる日がくる。その日まで大切な弟を守るのが、兄でありヒーローを目指す者でもある俺の役目だ」
「……うん、わかったよ。僕も早く大きくなって、兄さんを助けられる男になるから!」
「はははっ! 頼もしいな! でも、今でも十分助かってるぜ? いつもありがとうな、フィー!」
「わぷっ!? もう! 流すならそう言ってよ!」
ザバ~ッ、と泡を流すようにお湯をかけてきた兄へと抗議するフィーと、そんな彼のふくれっ面を見つめながら楽しそうに笑うユーゴ。
微笑ましい兄弟のやり取りが繰り広げられる中……不意に、本当に唐突に露天風呂の扉が開く音が響く。
驚いてそちらへと顔を向けた男性陣は、そこに立つ面々を目にして、ぎょっとしたような表情を浮かべた。
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