見えないC/お前の正体は見切った!

「ちぃっ‼ 魔鎧獣め、姿が見えないからといって好き勝手してくれるっ!」


「えっ? ちょっ⁉ な、なにが起き、へぶうっ⁉」


「わ、わ~っ⁉ わわわ、わぐえええっ‼」


 ほぼ勘と迫る気配で攻撃を回避していくユーゴたちに対して、未だに何が起きているのか理解できていない英雄候補たちは次々と魔鎧獣の餌食になっていった。

 敵の位置はわかるが、どういう動作をしているのかがわからないから対処がしにくい。

 ということがどれほどまでに厄介なのかを実際に己の身で体験するユーゴたちは、どうにかこうにか相手の攻撃を回避しながら反撃の糸口を探し続ける。


「相手の動きが見えないと、どういった攻撃をしてきているのかも全くわからん! 対策ができないぞ、ユーゴ!」


「わかってる! でも、何もわからないってわけじゃないはずだ! 断片的にでも情報を集めて、相手の能力と攻撃方法を突き止めるぞ!」


 相手の動きはわからない。攻撃方法もわからない。だが、何もわからないというわけではない。

 一つ一つ、相手の攻撃を回避しながら情報を得て、答えを見つけ出す……二人で一人の探偵ではないが、掴んだキーワードを元に頭の中の本棚で検索を行えば、必ず相手の能力を突き止められるはずだと叫ぶユーゴに対して、リュウガが言う。


「なら、いい方法がある。覗きの罰ってわけじゃないが、こいつらに役に立ってもらおう」


「ちょっ⁉ おい、リュウガ⁉」


 そう呟いたリュウガが、ひょいと近くに転がっていたウォズとトリンの背中を掴む。

 そのまま彼らを強引に立ち上がらせ、その背を押して魔鎧獣の方へと押し出したリュウガへとユーゴが驚いた表情を向ける中、無慈悲な攻撃が実験体となったウォズとトリンを襲った。


「へっ? な、なにを――ぶええっ⁉」


「や、やめっ! うごぉおっ‼ ごええっ‼」


 困惑した様子で怯えるウォズの顔面に何かが叩き込まれ、続けて頬を張られたかのように横を向いた彼がその勢いのままにくるくるとバレリーナを思わせる回転を見せながら吹き飛んでいく。

 その様を目にして自分に待ち受ける運命を悟ったトリンが怯える中、及び腰になっていた彼は腹を攻撃され、体を「くの字」に曲げたまま後方へと吹き飛ばされていった。


「お、お前、流石にあれは可哀想じゃねえか……?」


「犯罪を未然に防ぐための尊い犠牲だ。僕も悲しいが、星になった彼らの死にも意味があったと思おう」


「いや、まだ生きてるんだから殺してやるなって……」


 吹き飛んでいったウォズとトリンを見送り、そのままパニックになって逃げ惑う英雄候補たちが見えない攻撃に倒されていく様を目の当たりにしたユーゴがリュウガへとツッコむ。

 まあこれくらいのお灸は据える必要はあるかもしれないとは思いながらも、微塵も惜しさや悲しさを感じていない相棒の口ぶりに引き攣った表情を浮かべる彼へと、真剣な面持ちのマルコスが声をかける。


「ユーゴ……今のを見たか? 奴ら、順番に吹き飛ばされていったぞ」


「あ? あ、ああ……見たけど、それがどうした?」


「あの二人は同時に攻撃されたのではなく、順番に攻撃を受けた……それも、ただ吹き飛ばされるのではなく、横っ面を殴られたり、腹を叩かれたりと、様々な方向から様々な部位を攻撃されて吹き飛んでいる。つまり魔鎧獣の攻撃は、ある程度の自由自在さと射程距離は有してはいるが、攻撃範囲自体は広くないということだ」


「……!」


 少しばかりウォズとトリンに同情していたことで見逃していた情報をマルコスから聞かされたユーゴが一気に真剣な表情を浮かべる。

 彼の言う通り、魔鎧獣は離れた距離から動かずに攻撃をしてはいるが……同時に二人、三人といったように複数の相手を攻撃できてはいない。

 最初にウォズを仕留め、次にトリンを倒したといった感じに、一人ずつしか攻撃はできていないのだ。


「遠距離から目に見えない魔法……例えば風属性の魔法で攻撃を仕掛けているとしたら、これは辻褄が合わん。それならば、一気に複数人を攻撃できるはずだ」


「つまりは鞭みたいな武器で攻撃してるってことか。だが、手で持って使ってるわけじゃなさそうだな。もしそうだとしたら、武器の姿が見えるはずだ」


 透明人間でも着ている服は見えてしまうように、もしも手に何か武器を持って攻撃をしているとしたら、その武器が自分たちに見えているはず。

 仮に手に持っている武器や身に着けているものも一緒に消せる能力だとしたら、顔にこびり付いた染料を消すことだってできるはずだ。


 それをせずに放置していることから考えても、相手は自分の体しか透明にできない能力である可能性が高い。

 そして、攻撃に使っている鞭のような武器の正体も、おそらくは魔鎧獣へと変異した体の一部なのだろう。


(透明になれる。伸縮自在の体の一部を持つ。あと、他の能力は……)


 頭の中に思い浮かべたキーワードを元に、推理を深めていくユーゴ。

 一つ、また一つと脳内に浮かび上がった本が消えて、敵の正体に近付いていく中、彼は最後に必要なキーワードを見つけ出す。


『人みたいな形をした何かが、壁に張り付いてたんだって!』


 被害に遭った女子たちが目にしたその情報に、答えに辿り着くために必要なカギがあった。

 想像の中で本棚の前に立っていたユーゴは、自分の目の前に舞い降りてきた本を手に取り、その中身を確認した後……ゆっくりと目を開き、言う。


「姿を消せる、伸縮自在の部位を持つ、そして壁に張り付ける……わかったぜ、テメーの正体が!」


 瞬間、自分の顔面目掛けて飛んでくる何かをユーゴは感じ取る。

 焦ることなく顔を動かし、耳を掠めて飛んでいったそれをユーゴが両手で掴んだのと、リュウガが鞘から刀を抜いたのはほぼ同時だった。


「ぎいやああああああああああっ!」


 生暖かく、ぬめっとした触感。湿っている柔らかい何かを両手で掴んだユーゴが、夜空に響く悲鳴を耳にしながらその声がした方へと顔を向ける。

 どさりと何かが崩れ落ちた音を響かせながら、虹色の塗料の周囲から少しずつ緑色の肌を現わしていく魔鎧獣を睨みつけたユーゴは、鋭い声で相手へと言い放った。


「やっぱりな。お前、だな?」

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