間抜けは見つかったようだな!

「げえっ⁉ ゆゆゆ、ユーゴぉ⁉ どうしてお前がここに……⁉」


 大きな怒鳴り声と共に自分たちの前に現れたユーゴに、既に混乱状態であったウォズたちはさらにパニック度合いを深め、素っ頓狂な叫びをあげてしまった。

 どうしてユーゴがここにいるのか? まさか彼も自分たちと同じように覗きを……? とウォズたちが考える中、怒りと呆れを同居させたような表情を浮かべたユーゴが嘆きながら呻く。


「マジで何やってんだよ、お前ら……? 修学旅行の夜にはっちゃけたくなる気持ちはわかるけどさ、女の子たちを傷つけるような真似はダメだろ……?」


 ユーゴも男子高校生、修学旅行に来たことでテンションが上がり、友達と馬鹿をやりたくなる同年代の男子の気持ちはとてもよくわかる。

 しかし、だからといって覗きなどという犯罪行為が許されるわけがないだろうと、しかもそんな馬鹿げた行いをこれほどまでの大人数の男子たちがやろうとしていたというのだから、もう怒るを通り越して呆れるしかない。


(しかもこいつらおなじみの英雄候補たちじゃねえかよ! まったく、本当にこいつらは……⁉)


 一様にびっくりした表情でこちらを見つめる男子たちが、ウォズやトリンといった英雄候補と呼ばれる生徒たちであることに気付いたユーゴは、怒りを通り越した呆れを通り越して悲しくなってきた。

 仮にも多くの生徒たちから一目置かれている男たちが、こぞって女子の裸を覗きにくるだなんて……とユーゴが嘆く中、はっとしたウォズが口を開く。


「な、なにがどうなってるんだ⁉ まさか俺たちが見たむさ苦しい男たちの裸は、お前たちが……⁉」


「そうだよ。俺たちはお前らの上位互換的な覗きを捕まえるために、ここで待機してたんだよ……!」


「この塀には仕掛けが施してある。穴から覗こうとすると、特殊な魔法で視点が警備隊の男性用シャワールームに移動し、その中を見る羽目になるというわけだ」


「つまり、お前らみたいな馬鹿が覗きをしようとして血眼になって覗き穴から中を見ようとしても、見えるのは女子の裸じゃなくてムッキムキの警備隊員さんたちの裸ってことだよ」


「うええっ⁉ な、なんでそんなイベントが……⁉」


 ユーゴの返答を聞いたウォズたちが困惑した様子で頭を抱える。

 クリアプレート所有者を捕まえるはずが、同級生のスケベな馬鹿男子たちが罠に引っ掛かってくれたと……何がどうなったらこうなるんだとユーゴたちがため息を吐く中、何かに気付いたウォズたちが今度は目を押さえ始める。


「痛っ⁉ いだだだだだっ!」


「目、目がっ! 目がああああっ‼」


「もしかしてだけど……今さら気付いたのか?」


「こ、これもお前らの仕業かよぉぉぉぉっ⁉」


 自分たちの目の辺りに吹きかけられた、虹色のカラースプレー。

 その染料が目に入ったことに今さら気付いたウォズたちが地べたを転げまわる様を目にしたユーゴたちが再び大きなため息を吐く。


 本当に余計なことばかりしてくれるなと、必要のないおまけの覗き魔たちの犯行現場を押さえてしまったユーゴは、マルコスと顔を見合わせながらここからどうしようかと視線で相談していたのだが……そこでリュウガが口を開いた。


「ユーゴ、マルコス……馬鹿どもに構うのはここまでにして、本命の相手をしよう」


「あ? 本命って……?」


 唐突なリュウガの言葉に、目を細めながら反応するユーゴ。

 そんな彼を一瞥しつつ、リュウガは【龍王牙】である一点を指し示す。


 ユーゴとマルコスがそこをよく見てみれば、キラキラと輝く虹色の塗料がびくびくと痙攣しているではないか。


「どうやら……間抜けは見つかったようだな」


「引っ掛かったのは大馬鹿どもだけではなかった、ということか!」


 探していたクリアプレートの所有者は、確かにこの現場にいた。

 ウォズたちと同じように、まんまとこちらが仕掛けた罠に引っ掛かっていたのだ。


「おい、そこのお前! いるのはわかってるんだ! その塗料はそう簡単に落ちねえ! 諦めて、大人しくお縄に付け!」


 姿は見えないが、そこにいるであろう覗き魔へと投降を呼びかけるユーゴ。

 これで素直に捕まってくれればいいのだが、もちろん相手がそんな殊勝な考えを持っているはずがなくて……次の瞬間、爆発する敵意を感じた三人は、咄嗟にその場から飛び退き、回避行動を取った。


「な、なにが起きて……ぶべえっ⁉」


「っっ⁉」


 目の痛みでのたうち回っていた英雄候補たちは、状況を全く呑み込めていないようだ。

 一人の男子はなにがなんだかわからないといった表情を浮かべてぽかんとしていたのだが、唐突に彼が悲鳴を上げたかと思えば、大きく吹き飛ばされてしまった。


 攻撃を受けている……爆発する敵意を感じ、今まさに攻撃を受けて吹き飛ばされた男子生徒を見たユーゴたちは相手がやる気であることを確信する。

 しかし、姿の見えない敵がどんな方法で攻撃をしてきているかわからず、彼らがその動きが見えないことに困惑する中、魔鎧獣は次々と攻撃を叩き込んできた。


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