side:ウォズ(覗きを目論む男たちが失敗する話)
「はぁ、はぁ……! こ、この先に、裸の女子たちが……!!」
荒い呼吸に気持ちの悪い表情、欲望を隠そうともしない言葉。
どう足掻いても気色悪いという感想しか出てこない雰囲気を醸し出しているウォズは、露天風呂の塀を見つめながらごくりと息を飲んだ。
楽園を覗き見れる場所との距離は、もう十数メートルくらいまで近付いている。
露天風呂の周囲にある茂みに身を隠し、こそこそと移動してはそのイベントを楽しむ妄想を膨らませている彼の周囲には、同じような欲望を抱いた男たちの気配があった。
ざっと数えて十名ほど。両手の指を使ってギリギリ数えきれるかどうかといった人数。
この全員が女風呂を覗くために集まった英雄候補と呼ばれる生徒(転生者)なのだから、もう笑うしかない。
……いや、全くもって笑える状況ではないのだが、改めてこそこそと露天風呂の周囲に設置されている罠(設置されているとは言ってない)を掻い潜りながら女風呂へと近付く彼らの執念というか、そういうものを目の当たりにすると乾いた笑いが出てしまう。
一応はイケメンと呼ばれる容姿の男子たちが、こぞって女子たちの裸を覗くためにこんな真似をしているというのは、シュールというよりも異様な光景であった。
(こ、声が聞こえてきたぞ! 今のはメルトとアンの声だ……!!)
そうして女風呂へと近付いていった彼らの耳に、きゃっきゃと騒ぐ女子たちの声が響く。
その楽しそうな声が人気キャラであるメルトとアンヘルの声であることに気付いた彼らが興奮に生唾を飲み込む中、次々と他の女子たちの声が聞こえてきた。
「うわっ!? アン、おっぱいでっか~っ!! すご過ぎでしょ!?」
「はっはっはっはっは! アタシが最強ならぬ、最胸だな!」
「むむむ……! これは拙者も素直に負けを認める以外にないでござるな……!」
「まあ、大きければいいってわけじゃないからね。大きいことはいいことだけど、デカければデカいほど良しってわけでもないから、うん」
「ぴ、ピーウィー……? 目が死んでるけど、大丈夫……?」
「胸が大きいのに身軽に動ける皆さんは本当にすごいと思います。私たちは小さいので、その辺のことは気にしなくていいですし……ですよね、ピーウィーさん?」
「ミザリー、地味に刺すの止めてあげなさい」
「あ、悪意のない刃って本当に深くまで人を傷付けるんだね……」
「う~ん! みんなで体の洗いっこするの、楽しいね~! 私、こんなに沢山の友達とお風呂に入ったの、初めて!!」
(むほほほほほっ! むほ~~~っ!!)
次々と聞こえてくる女子たちの声に興奮を隠せなくなったウォズが心の中で変な叫びを上げる。
幼児体型の貧乳からすらりとしたモデル体型の女子、さらには正統派の巨乳美少女にロリ巨乳、現実世界ではなかなかお目にかかれないレベルの爆乳まで取り揃えられているとなれば、男として興奮せざるを得ない。
あの塀の向こうに、天国が広がっている。憧れた女の子たちのあられもない姿を、ゲーム内のスチルや立ち絵では見ることができなかったもっとすごい部分を、この目で見ることができる。
揺れる胸や丸いお尻、さらにもっとすごい部分まで……現実では見ることなんてできなかった女の子の裸が、もう少しで見ることができるのだ。
それも全員がとびきりの美少女たち。やり込んだゲームの中で憧れ、本気で惚れた女の子たちの全裸が、文字通りもう目前にまで迫っている。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……! は、裸……! メルトや他の女キャラたちの、裸……っ!!」
もう、居ても立っても居られなかった。それはウォズだけでなく、他の英雄候補たちも同じだったようだ。
脳内で妄想を繰り広げるだけでは我慢ができなくなった彼らは、慎重に、されど素早い動きで塀へと近付いていく。
そして、ゲーム内でも存在していた覗き用の穴へと近付きつつ、他の英雄候補たちの数も考えるとそれだけでは足りないと判断した彼らは、その手に用意してあったナイフを握りながら塀のすぐ傍で動きを止めた。
(つ、ついに、この時が……!)
手にしたナイフを使い、木製の塀に穴を空ける。
他の英雄候補たちも同じように覗き穴を作り、全員が揃って緊張と興奮を抑えるようにして深呼吸をしていた。
ウォズもまた、そうしながら近くにいたトリンと視線を交わらせ、なんとも形容し難い笑みを浮かべる。
この後、覗きの実行犯として女子たちに上手いこと突き出す形にして裏切る予定ではあるが……まずは憧れの女キャラたちの裸を堪能するのが先だ。
健康的なメルトの裸を、綺麗な肌と優れたプロポーションを誇る戦巫女たちの裸を、作中随一の大きさとエロさを誇るアンヘルの裸を、存分に覗き見る。
その目的を達成するまでは自分たちは仲間だと……スケベさによって生まれた不埒な絆によって結ばれている英雄候補たちは、全員がほぼ同じタイミングで塀に空けた穴へと顔を近付けていった。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」
見える。ついに天国を覗ける。【ルミナス・ヒストリー】の人気キャラたちの裸を見ることができる。
全員が興奮に息を荒げ、股間を固くしながら血走った目で湯煙の中を食い入るように見つめたウォズたちは、そこに人の姿を見つけて固唾を飲み、そして――!
「……えっ?」
――何かがおかしいと、そこで気付いた。
湯煙の中に見えた人影は、明らかにメルトたちのものではない。というより、女子のものですらない。
そもそも広がっているはずの露天風呂の光景はどこからどう見ても屋内のシャワー室のようで、タイル張りになっているそれを目にしたウォズたちがそのことに気付いた瞬間、ムキムキの男たちが彼らの目の前に現れた。
「オー、イエー……!」
「今日もいい訓練だったぜ……!!」
「お前の筋肉もいい感じに育ってるな。この島の平和を守る男の体だ」
「そうだ。俺は筋肉モリモリマッチョマンの警備隊員だ」
「お、お、お……おげええええっ!?」
妄想とはかけ離れた男臭い光景に、予想外の衝撃を受けた英雄候補たちが吐き気を催しながら背後に倒れ込む。
女の子たちのむちむちとした大きな胸や尻を楽しむつもりが、筋肉質かつ全身に毛が生えた成人男性たちのムキムキのボディを至近距離で見る羽目になってしまった彼らは大声で悲鳴を上げながら、全く理解できない状況に混乱していたのだが……?
「ゴラァ! てめえら、何してやがんだ!?」
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