一方その頃、外の男子三人組は……
「メルトたち、頑張ってくれてるな。犯人の注意を引くためにあそこまで騒いで……」
少し離れた位置からも聞こえる女子たちの話す声を耳にしたユーゴが小さく呟く。
詳しい内容はわからないが、囮としての役目を果たそうと頑張ってくれていることは伝わっているユーゴは、彼女たちの頑張りに心の底から感謝していた。
「女の子たちがあんなに頑張ってるんだ。俺たちも気合を入れて自分たちの役目を果たさないとな! そうだろ? マルコス! リュウガ!」
警備隊とホテル側の協力で安全を確保されているとはいえ、相手は詳しい能力が不明のクリアプレート所有者、万が一ということもある。
それを承知した上で、囮という役目を引き受けてくれたメルトたちに感謝しているユーゴは、彼女たちを守るためにも気合を入れようと同じく作戦に参加している好敵手と相棒に声をかけたのだが……?
「ええい! 何故、エレナがこの作戦に参加している!? あいつはルミナス学園の生徒ではないだろうが!」
「マルコス……それ、何度目だい? 言いたいことも気持ちもわかるが、少し落ち着けよ」
「あ、あれ? マルコス? リュウガ?」
……声をかけた二人は、なんだかちょっと落ち着かない雰囲気というか、若干の言い争いのようなことをしていた。
マルコスの愚痴というか、半ば怒っているような声を聞いたユーゴが表情を引き攣らせる中、リュウガが彼へと言う。
「君の性格を考えれば、魔導騎士見習いでもなんでもない普通の女の子であるエレナがこの作戦に参加するってのは看過できないだろうが……それでも、彼女は僕たちの力になりたいと協力してくれているんだ。彼女を心配するのなら、全力で守ってあげればいい」
「当然だ! エレナに限らず、卑劣な犯罪者の魔の手から人々を守ることが貴族である私の役目なのだからな!!」
少しばかり苛立っている様子のマルコスが、堂々とリュウガの言葉にそう返す。
実に彼らしいなとユーゴがほくそ笑む中、そんなマルコスをからかうようにリュウガがこう続けた。
「ふふっ……! 普段よりやる気に満ちているように見えるのは、エレナが居るからかい?」
「なっ!? 何をっ!? どういう意味だ、それは!?」
「言葉通りの意味だよ。シャンディア島では彼女といい雰囲気だったじゃあないか」
「それは関係ない! いいか? 私はな、エレナの身に万が一のことがあれば、御父上であるカルロス殿に申し訳ないと思っているだけだ! 断じて、エレナだけが特別というわけでは――」
「わーわー! 落ち着けって、マルコス。そんな大声出したら、覗きに来た奴にバレちまうぞ?」
少しばかり興奮気味のマルコスへと、慌てて落ち着くように言うユーゴ。
その言葉に押し黙ったマルコスは、咳払いをした後で反撃としてリュウガへとこう言った。
「リュウガ、そういうお前こそライハとどうなんだ? 彼女が囮になると言った時、不機嫌になったのを見逃さなかったぞ?」
「マルコス、僕に質問するな」
「貴様、ズルいぞっ! それでなんでもかんでも押し通せると思うなよ!?」
「マルコス、だから落ち着けって。リュウガも、一方的に仕掛けておいて自分はごまかす、ってのはちょっとズルいんじゃねえか?」
「ちっ……!」
わかりやすく不機嫌になったリュウガの反応に苦笑を浮かべるユーゴ。
デリケートな話題ではあったし、触れるべきじゃなかったかもなとマルコスを不憫に思って加勢してしまったことを少し後悔するユーゴであったが、ため息の後にリュウガはこう答えた。
「……別に、あいつのことはどうだっていい。僕が気にしているのは、奴の胸の傷だ。今は何かの術で隠しているらしいが、もしもあれが誰かに見られたら……それこそ、とんでもない騒ぎになるだろう?」
「ああ、まあ、確かにな……」
数日前に水着姿を披露していた時から薄っすらと心配していたが、ライハの胸には暴走した際にリュウガの父に付けられた大きな傷がある。
無論、対策はしているのだろうが……あの傷が誰かに見られると困るというリュウガの意見には、ユーゴも納得できた。
「だから、あいつだから心配しているわけじゃない。決して、断じて、僕があいつのことを気に掛けているとか、そういうわけじゃあないんだ。わかったな? わかったらもう二度と同じ質問をするな」
「う、う~ん……わ、わかったよ」
正直、そこまでムキになる方が怪しいとは思ったが、これ以上はリュウガも触れてほしくないんだろうなと考えたユーゴは相棒の気持ちを考えて深く追求しないことにした。
これで一旦は落ち着く……と思った彼であったが、二人の矛先は今度は自分へと向けられて……?
「……そういう君の方はどうなんだ、ユーゴ? 間違いなく、僕たちの中で一番モテているのは君だろう?」
「えっ? はっ?」
「私もそこは気になっていた。お前が誰を選ぶのか、実に興味深い」
「えっ、ええっ!?」
突然の追求に困惑を隠せなかったユーゴが声を漏らす。
最後は自分かと焦る彼へと、マルコスとリュウガからの質問が浴びせかけられる。
「一番長い付き合いなのはメルトだが、ブラスタの改造でアンにも世話になっているからな。どちらの想いにも応えてやりたいところだろう?」
「僕としては、君がコガラシ家かアマミヤ家の当主になってくれると嬉しいんだけどね。そうすれば自ずと、ヤマトに来てくれるわけだしさ」
「そ、そんなこと、急に聞かれたってよぉ……!?」
半ばハーレム状態になっている自分が誰を選ぶのか? 男友達二人は興味を持っているようだ。
多分、ここまでの話を聞かれたことに対する反撃の意味もあるのだろうが、予想だにしていなかった事態にユーゴもタジタジである。
色々と自分にも事情はあるし、そんな即決で誰だなんて選ぶことはできないと言おうとするユーゴであったが……一陣の風がその頬を撫でた瞬間、三人の様子が変わった。
「……どうやら、おしゃべりはここまでのようだな」
「ああ。だがしかし、思ったより気配の数が……」
こちらへと迫る気配。それも一つや二つではない多くの邪気を感じ取ったマルコスとリュウガが浮ついた雰囲気を掻き消して神経を集中させる。
ユーゴもまた感覚を鋭敏にすると共に、息を潜めながら二人へと声をかけた。
「……予想外の事態が起きてるかもしれねえが、やることは変わらねえ。俺たちを信じてくれてるみんなのために……絶対、覗き魔を捕まえるぞ!」
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