えっ!?俺たちが女風呂の警備を!?
「女風呂の警備を、俺たちがするぅ!?」
「ああ、そうだ」
一方その頃、ユーゴはホテルの会議室で素っ頓狂な叫びを上げていた。
彼の前には何故だかこのホテルの従業員に扮したシェパードの姿があり、冷静に頷きを見せている。
少し前、ユーゴからの連絡を受けたシェパードは警備隊として堂々とこの場にはやって来ず、こうして変装して調査にやって来た。
そのことを訝しみながらも秘密裏に仲間たちと共に彼の呼び出しを受けたユーゴは、部屋に到着して早々、こんなことを言われて驚いている……という状況だ。
「どうしてそうなるんですか!? ここは安心安全の警備隊にお任せする場面でしょう!?」
「いや、この事件に我々が堂々と関わるのはマズい。今回、女風呂に潜入した相手が警備隊の介入を知れば、もう同じ場所は狙ってこないだろう。そうなった場合、我々は姿の見えないクリアプレート所有者を完全に見失ってしまう」
「……その口振りだと、シェパードさんは警備隊さえ介入しなければ覗き魔がまた戻ってくると考えているようですね」
「その通りだ。十中八九、犯人はこの場に戻ってくる」
リュウガの質問に対して、そう答えるシェパード。
どうして? と視線で尋ねられた彼は、その理由を述べていく。
「今回の犯人は言うまでもなく小悪党だ。これまで君たちが戦ってきたクリアプレート所有者のような大規模な犯罪をせず、覗きという軽犯罪に手を染めていることがそれを証明している。そういった奴は往々にして、強大な力を手に入れたことに対する驕りを持つものだ」
「……なんとなくですが、わかる気がします。弱い奴だからこそ、すごい力を手に入れたら調子に乗りやすいってことですよね?」
「そうだな。そして、そういう人間は執着しやすい。器が小さいからこそ、自分の失敗を認められずにリベンジを果たそうと躍起になることが多いんだ」
「ああ……ちょっとわかりました。なんか、知り合いにそういう奴がいたもんで……」
シェパードの話を聞いたユーゴたちが揃って頭の中に思い浮かべたのは、修学旅行前に退学になったシアンだ。
彼は失敗を重ね、次に問題を起こしたら退学だと警告されていたが……そんな彼は大人しくするのではなく、ユーゴやネリエスに復讐することを選んだ。
シェパードの言う通り、器が小さいからこそ自分の失敗を認められずに他者に責任を転嫁し、彼らに執着してしまったが故に破滅した元同級生のことを考えた一同は、今回の覗き魔もシアンと似たような思考に陥っている可能性が高いという話に理解を示す。
「犯人は今、できることならばリベンジしたいと思っている。今回はバレたが、次こそは完璧に覗きをやり遂げてみせると意気込んでいるはずだ」
「普通に考えて、最悪の意気込みでござるな」
「サクラ、ちょっと黙ってて」
「しかし、そんな犯人も警備隊が事件に介入し、女風呂やホテル全体の警備を行うことになったと知ったら、リスク管理のためにリベンジは断念するだろう。そうなった場合、次に犯人がどこを狙うのかは皆目見当が付かない。我々は、姿の見えない犯罪者の足取りを完全に見失ってしまう」
「そうならないよう、ここでクリアプレート所有者を確保しておきたい……ということですね?」
「それはわかりましたけど、どうして俺たちが女風呂の警備を担当することになるんですか?」
警備隊が堂々と事件に介入したくない理由と、シェパードがどうして変装してここにやって来たのかという理由はわかったが、どうしてそれが自分たちが女風呂の警備を担当する理由につながるのかがわからない。
覆面調査員でも配置すればいいじゃないかと思うユーゴに対して、シェパードがその理由を語っていく。
「犯人は小悪党とはいえ、クリアプレート所有者だ。しかし、今回の場合は確保のために人数を割くわけにはいかない。覆面捜査員を増やせば、それだけ相手が警備隊の存在に気付くリスクが高まるからな。できるだけ手練れで、少人数。そして、仮に警備にあたっているとわかっても警戒されにくい人間に女風呂を守ってほしい……となれば、君たちがうってつけだ」
「まあ、それはそうなんでしょうけど……」
犯人が追い詰められて暴れ始めた場合でもユーゴたちなら対処できるし、仮に女風呂を警備していることがバレても警備隊の介入を疑われにくくもある。
そういった意味では確かに自分たちが適役かと納得したユーゴに対して、シェパードはこう話を続けた。
「無論、我々も完全に君たちに犯人の確保を丸投げするわけではない。既に今回の事件の情報統制を行っているように、できる限りのバックアップをするつもりだ。その上で、最後のピースとなる役目を君たちに任せたい。どうか、我々に力を貸してもらえないだろうか?」
「……わかりました。覗き魔を捕まえるために、俺たちもできることをやらせてもらいます!」
シェパードの協力要請に対して、大きく頷くユーゴ。
姿も正体もわからない敵を確保できるチャンスがここしかないのならば、そこに全力を尽くそうという彼の考えには仲間たちも同意しているようで、反対意見が出ることもなかった。
こうして、警備隊の協力を受けながら女風呂の警備を担当することになったユーゴたちは、詳しい作戦についてシェパードと話し合っていく。
「それで、どうするつもりなんですか? 女風呂の警備って言っても、どうするべきなのかよくわかんないんですけど……」
「うむ。犯人がリベンジを望んでいるとはいえ、流石に連続して大浴場に潜入するということはしないだろう。可能性が高いのは、こっち……露天風呂への覗きだ」
犯人は小悪党だ。リベンジを果たそうと考えてはいても、どこかでリスク管理のことを考えてしまう。
ならば失敗のイメージが付きまとう大浴場でなく、屋外にあるが故に逃げやすいイメージのある露天風呂を狙うというのが警備隊の考えのようだ。
「故に、ここに罠を仕掛ける。その罠を以て姿の見えない覗き魔を確保するんだ。名付けて、『クリア・レインボー作戦』……その概要を解説するから、よく聞いてくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます