side:ウォズ(覗きは犯罪です)

 ――人間、ヤケクソになった時というのは欲望に正直になるものだ。

 それが失う物のない人間の場合、特にその傾向が顕著に出やすい。


 今、ここにいるウォズ・スターという男もその一人で、彼は部屋の中で一人、とある決意を固め……ている感じではなく、やや軽めかつそわそわとした態度で何かを呟いている。


「つ、ついに来たぞ、この時が……! クソみたいな修学旅行だが、ここだけは間違いなく神イベントだ……!!」


 落ち着かない様子で拳を握り締めるウォズが、期待に満ちた声でそう呟く。

 ごくりと生唾を飲み込む彼の表情は若干の緊張と歓喜に満ちており、ほぼ全てを失っている人間とは思えない明るさがあった。


 さて、大体の人々は想像できているような気がするが……ここらでどうしてウォズがこんなふうに楽しそうなのかを解説しておこう。

 その答えは彼が発した、【神イベント】というワードの中にあった。


 彼がプレイしていたゲーム【ルミナス・ヒストリー】では、様々なイベントが発生する。

 パーティメンバーとの掛け合いはもちろん、こういった様々な学校行事イベントの中で仲間たちと交流し、親密になっていくこともこのゲームの醍醐味の一つであった。


 無論、この修学旅行中にも数々の限定イベントが発生する。

 ユーゴが体験した、女子たちの水着お披露目イベントや夜の肝試しなんかがそれだ。


 そういう、ちょっとエッチだったり女の子との青春を味わえるラブコメ的イベントに飢えていたウォズたち英雄候補からしてみれば、ユーゴにそのイベントを奪われたことは血涙を流さんばかりに悔しく、そして恨めしいものであった。

 しかし、修学旅行でのイベントはそこで終わりではない。ゲームの中だからこそ体験できる、最高の神イベントが残っている。


 それこそが特定の一日にのみ夜のホテルで発生するイベント……通称、だ。

 もう説明するまでもないだろうが、このイベントは露天風呂に入っている異性のキャラクターたちの姿を覗き見できるというものである。


 男性主人公を選択した場合は女子たちの、女性主人公を選択した場合は男子の裸体を拝める、【ルミナス・ヒストリー】をプレイした人間たちがこぞって神イベントと崇める内容のそれを、ウォズは心を躍らせながら待ち望んでいた。


(余談ではあるが、同性の風呂を覗き見ることはできない。あくまで異性の入浴シーンを覗けるというイベントが発生するだけである)


 ちなみにこれは本来、覗いていることがバレたら異性の仲間たち全員からの好感度が下がる諸刃の剣的なイベントであるはずだが……既に学友たちからの評価が下がり切って底辺にまで達しているウォズにはそんなことは関係ない。

 というか、仮に高かったとしてもこの神イベントに参加しないなんて選択肢を、童貞の彼が持ち合わせているはずもなかった。


(本当はメルトやアンたちにめっちゃ好かれて、二人きりで入浴するイベントとかを発生させるつもりだったけど……今回は諦めるしかねえ! むしろボン・キュッ・ボン! な女キャラたちの裸をノーリスクで山ほど見れて、ラッキーだと思おう!!)


 ウォズの考えている通り、好感度が一定以上の女性キャラとは個室風呂で一緒に入浴するイベントが発生したり、その後も甘酸っぱいイベント(R18ではない。【ルミナス・ヒストリー】は健全なゲームなので)が発生したりするのだが、今の彼がその発生条件を達成できているはずもなかった。


 というわけで、無理矢理にポジティブな思考に切り替えた彼は、脳内でゲーム内の情報を整理し、ほぼ確実に覗きイベントを成功させられる選択肢を振り返っていく。


 ほぼ成功できる、というのには理由があって、どうしても運要素が絡む部分が存在していた。

 この部分に関してはゲーム内ではセーブ&ロードを繰り返すことで突破することが可能だったが、今の自分たちにはそれができないため、一発限りの本番勝負となる。


 ここだけが不安要素ではあるが……仮に失敗しても、最初からゼロに等しい女性キャラたちからの好感度はもう下がりようがないし、実質ノーダメージだ。

 本来ならばとても悲しい状況なのではあるが、彼はそれを無視して考えないようにしていた。


(メルト、アン、セツナにサクラにライハ! 他にもいっぱい……女子たちの裸を覗きまくってやるぜ~っ!)


 既にゲーム内スチルで彼女たちの裸は幾度となく見てきたが、現実に近い形で覗くのは当然初めてだ。

 綺麗な肌に爆から巨、美に貧まで揃った大小様々なサイズの胸に、丸々とした尻。

 そしてさらに、健全なゲームである【ルミナス・ヒストリー】では見ることができなかったもっとすごい場所も見れるかも……!? と期待に胸を躍らせるウォズは、自分の中の昂りを抑えるようにベッドに倒れ込むと、深呼吸をしてから口を開く。


「大丈夫だ……! このイベントに関していえば、邪魔する奴はいねえ。ほぼ確実に、神イベントを楽しめるはずだ……!」


 憧れの女性キャラたちの裸を鑑賞できるこのイベントを邪魔する奴なんて、転生者の中には一人もいないだろう。

 今回だけは、このイベントの最中だけは……全員で協力できる。

 ゲーム知識と高い能力を持つ主人公たちが結託すれば、どんな問題も確実に突破できるとウォズは考えていたのだが……?


―――――――――――――――


※【ルミナス・ヒストリー】をプレイする皆への注意!

わかっているとは思いますが、覗きは犯罪です!

現実では絶対にしないでくださいね! ゲーム開発スタッフ一同より

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