運命のクリアプレートは引かれ合う

「なるほどな……魔力を奪い取る副作用、そんなものがクリアプレートに搭載されていたとは……」


「やっぱりあれは、僕たちの想像を遥かに超えた危険な代物みたいだね。シェパードさんの言う通り、一刻も早く回収すべきだ」


 部屋に戻ったユーゴは、同室のマルコスとリュウガに今聞いた話を報告した。

 副作用とそこから思い至る警戒すべき点には二人とも即座に気付いたようで、神妙な表情を浮かべながら呟いている。


「わかっていたことだが、プレートを回収してそれで終わりというわけではないのだろうな。あれを作った人間がいる以上、大本を潰さないと同じ事が起きるだけだ」


「そうだね。ただ、その黒幕を表舞台に引っ張り出すためにも、まずは全てのクリアプレートを回収しなくちゃならないだろう」


「その時までに相手側の計画の準備が整ってないことを祈るしかない、か……」


 クリアプレートを使って人間を魔鎧獣にし、それを育成することで魔力を吸収する。そしてそうやって吸収した魔力を用いて、次なる計画を実行する。

 そういう絵図を描いているであろう黒幕の計画を阻止するためにも、まずはクリアプレートを全て集めるしかない。相手が望んでいる量の魔力が集まるよりも前に、だ。


「あとは、我々が学園に帰るまでに決着をつけたいな。ここまで関わって、事件解決まで至らないままにウインドアイランドを離れるというのはいい気分がしない」


「確かにな……俺たちが修学旅行だったからこうして事件の解決に当たれるけど、ずっとここに残るわけにもいかないしな……ん?」


「どうかしたのか、ユーゴ?」 


「いや、クリアプレートを使った魔鎧獣が出始めたのって、俺たちが修学旅行に来てすぐだったよな? なんか、偶然じゃない気がしてきてさ……」


 改めてここまでの日々を振り返ったユーゴは、自分たちの到着とクリアプレート事件の勃発がほぼ同時期であることに気付き、そのことに不信感を抱いた。

 それまでは平和だったであろう島に、突然出現した謎のアイテム……その登場と自分たちの到着が同じというのには、何かきな臭いものがあると感じるユーゴであったが、そんな彼へとマルコスが言う。


「お前のその考えは間違いではないだろうが、完全なる正解というわけでもないだろう。黒幕は我々の到着を待っていたというより、この島に人が集まるのを待っていた可能性が高い」


「人を集める、か……確かに、注目されたいのなら観光客が集まったタイミングがベストだよな」


「いや、多分それだけじゃあない。僕の予想だが、クリアプレートはの手に渡るようになっているんじゃないか?」


「なんだって?」


 リュウガの唐突な意見に、マルコスが顔を顰める。

 彼らしくないオカルトな考えではあるが、リュウガは大真面目にその話を続けていった。


「決しておかしな話じゃない。ヤマトにも、名刀や妖刀といった刀が運命としか思えない形で所有者と出会ったという伝承が残っている。そういうオカルトチックな話じゃなく、クリアプレートを作った人間がそんな仕掛けを施していてもおかしくないってことさ」


「……あり得ない話ではない、か。私も、身に覚えがある」


 リュウガの話は一度聞いただけでは意味不明だが、改めて聞いた上で自分がシャンディア島にてカルロスが作った槍と運命的な出会いを果たしたことを思い返したマルコスは、先の考えを翻して同意の姿勢を見せた。

 ユーゴもまた、彼の話と共に大好きな特撮作品の設定を思い出し、リュウガの意見に賛成する。


「リュウガの言う通りかもしれない。クリアプレートは、所有者となる人間と。思えば、ゴメスさんとクリアプレートの相性は異常なレベルで良かった。あの力が引き出せたのも、あの人が【S】のプレートを手にしたからだ」


「明日にでもシェパードさんに頼んで、これまで逮捕したクリアプレート所有者についての詳しい情報を聞かせてもらおう。もしかしたら、何かわかるかもしれない」


 もしもこの考えが本当に正しかったとしたら、残るクリアプレートの所有者を突き止める大きな手掛かりになるかもしれない。

 不安要素だらけの闇の中で、一抹の希望を見出したユーゴは、大きく頷くと共に小さな声で呟く。


「……メルトたちにもこのことを伝えないとな。ちょっとタイミングが悪かったのが残念だ」


 現在、メルトたち女性組は入浴のために部屋を留守にしていた。

 人数が人数であるため、何グループかに分かれての入浴となっており、彼女たちはもうしばらくは帰ってこない。


 彼女たちがいてくれれば、この話し合いの中でより良い意見が出たかもしれないのにな……と、間の悪さを惜しむユーゴであったが、その瞬間に部屋の扉が勢いよく開き、うわさのメルトたちが飛び込んできた。


「ゆ、ゆ、ゆ、ユーゴっ! 大変だよっ!!」


「どわぁっ!? 急にどうしたんだよ!? っていうかお前ら、風呂はどうした!?」


「それどころじゃないんだって! 出たんだよ!!」


「出たぁ? 何がだよ?」


 ドタドタと慌ただしい様子のメルトたちが発した言葉に、怪訝な表情を浮かべるユーゴ。

 そんな彼に対して、息を切らせた女性陣が大声で叫ぶ。


「覗きが出たの!! 私たちの前のグループの女子たちが、被害に遭ったんだよ!!」

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