一歩先の犯罪

「……気になることはたくさんあります。まずは、どうしてクリアプレートの副作用を即座に出るようなものにしなかったのか? って部分ですね」


 自分の特撮知識も併せつつ、クリアプレートについての考察をシェパードへと話していくユーゴ。

 はっきりとした答えは出せないがと前置きしつつ、こう述べていく。


「例えばですけど、同じ魔力を吸い取るにしたって、そいつが倒された直後に一気にそうするって形でもいいわけじゃないですか。そうじゃなくて、プレートを使わなくなって暫く経ってから副作用が発現する……つまり、これは敗北者へのペナルティとして仕掛けられたものじゃないとは思うんですよ」


『私もそこが気になっていた。見せしめとはまた違う意味がある気がする』


「だから、これはデモンストレーションみたいな感じなのかもなって……ウインドアイランドの人たちを使って、クリアプレートの力を大勢の人たちに見せつけようとしてるんじゃないですかね?」


 ユーゴの考えをまとめるとこうだ。


 このウインドアイランドで行われているクリアプレートのばら撒きとそれを拾った人々による犯罪は、黒幕による宣伝のための行為。

 この島で数々の犯罪を起こさせ、クリアプレートの強大な力を裏社会の犯罪者たちにアピールすることで、自身の儲けにつなげようとしているのでは……? というものだ。


 しかし、シェパードは通信機の向こうで首を振ると、ユーゴの意見を否定してみせた。


『あり得なくはない考えだが、可能性は低いと思う。麻薬や武器のような危険な品を売り込む時にまずアピールするのは、買い手ではなくそれを仲介するブローカーだ。いきなり裏社会の組織そのものと話すのではなく、そこへのコネクションを持っている人間を説得する方が話は早いからな』


「そうですか……だとするとやっぱり、なのかもしれませんね」


『うむ……やはりユーゴくんもそう思うか……』


 これが宣伝行為ではないとすれば、可能性は一つだ。

 これまでの考え方を逆転させたユーゴが、同じ可能性に思い至っていたシェパードへとこう続ける。


「クリアプレートは人間を強大な力を持つ魔鎧獣に変身させ、その代償として疑似的な中毒状態に陥らせる……と、見せかけて、本当は副作用としての魔力の吸い上げこそが真の機能なんじゃないですか?」


 一定期間変身していないと魔力を吸い取られるというクリアプレートの副作用こそが、このプレートの真の能力であり、これをばら撒いた人物が狙っていた状況なのではないか?

 一見すると無理がありそうな話ではあるが、これが意外と様々なピースと噛み合っているのである。


「クリアプレートは壊れない。ってことは、何度だって再利用が可能です。使用者ごとに違う能力が発現することを踏まえても、使用者を固定する物ではないと想定しているはずです」


『プレートを拾った人間に暴れる場を用意するのも、魔鎧獣に変身させた上でその力を伸ばそうとしているように見える。力が強まれば魔力も増える。そうすれば、吸い上げられる魔力も増える……段々と短くなっていく副作用の発動間隔も併せて考えれば、使用者が強くなればなるほど、吸い取れる魔力の量は多くなっていくだろう』


「黒幕は魔力を吸い上げ、何かをやろうとしている……クリアプレート使用者たちによる犯罪も、前座に過ぎないってことですか……」


 本番はこの後、クリアプレートを回収し終えても、そこから先にさらに恐ろしい犯罪が待っているかもしれない。

 今でも黒幕が着々と計画を進めている姿を想像したユーゴがごくりと緊張に息を飲む中、同じく抱いている焦りや恐怖を押し殺しながらシェパードが言った。


『……今現在も恐ろしい計画が進んでいる可能性は十分にある。しかし、我々警備隊がやることは変わらない。一刻も早くクリアプレートを集め、これ以上の犯罪を防ぐ……市民の安全を守るのが、私たちの役目だからな』


「はい……俺たちもできる限りの協力はします。シェパードさんたちも、どうか気を付けて」


 事件の裏にどんな思惑が隠されていようとも、暴れる魔鎧獣を放置しておくことなんてできない。

 後手に回ることにはなってしまうが、クリアプレート所有者を倒し、その身柄とプレートを確保する……不特定多数の人々がクリアプレートを使ってしまったら、それこそ黒幕の思惑通りになってしまうだろう。

 それを阻止するためにも、地道にだが確実に犯罪を取り締まるという基本的な行動指針はブレることはないというシェパードの言葉に同意しつつ、協力は惜しまないと言いつつ、ユーゴは彼との通信を終えた。


 警備隊との情報共有を終えた彼は、仲間たちへと今の話を伝えるために、部屋へと戻っていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る