クリアプレートの副作用

 ――シージャック事件から、数日が過ぎた。

 ウインドアイランドを震撼させた大犯罪はユーゴたちや警備隊の活躍によって無事に解決し、同時に事件の裏で暗躍していたギャングも壊滅させられたというおまけも付いてきて、想像以上のハッピーエンドを迎えたことを、誰もが喜んでいる。


 それからも散発的にクリアプレートを拾った者たちによる犯罪が起きてはいたが、どれも前述のシージャック事件どころか最初のシャンディア島襲撃事件すらを超える規模の事件には発展していない。

 大半が警備隊員たちによって制圧されるか、ばったり遭遇したユーゴたちによって倒され、同じくお縄につくといった顛末を迎えることが多かった。


 この時点で二十六枚はあると言われていたクリアプレートの半分以上が確保され、警備隊に押収されている。

 同時に、段々と矮小化していくクリアプレート所有者たちの犯罪行為の流れを見ていた島民たちは、事件の脅威のピークは過ぎたという認識を持ち始めていた。


 無論、そう考えていない者たちもいる。シェパードをはじめとする警備隊の面々や、幾度となくクリアプレート所有者と戦ってきたユーゴたちがそうだ。

 クリアプレートの力を得て変身した魔鎧獣の脅威は決して見くびることなどできないし、何より、この事件の首謀者とでもいうべきプレートを製作し、それをばら撒いた人間の正体もわかっていない。


 どのようにしてクリアプレートを作ったのかはもちろん、どうしてこんな代物をウインドアイランドにばら撒いたのかという目的すら判明していないのだ。

 仮に全てのクリアプレート所有者を倒し、二十六枚のプレートを回収できたとしても、また新たなクリアプレートがばら撒かれないという保証はない。

 一刻も早く事件の首謀者を突き止めることを急務とする警備隊であったが、それと並行してクリアプレートの調査も重要な任務として位置付けていた。


 今現在、クリアプレートを破壊する方法どころか、傷付ける手段すら判明していない。

 あってはならないことだが、万が一にも警備隊が回収したクリアプレートが犯罪者たちに奪われたとしたら、またしてもウインドアイランドは脅威に晒されてしまうだろう。


 そうならないためにも、できればプレートを破壊してしまいたい。

 研究用に数枚を残しておくだけで十分だし、万が一のリスクを軽減したいというのは当然の考えだ。


 しかし、警備隊の必死の研究も虚しく、現時点では魔法でも物理でもプレートの破壊は不可能という結果しか出ていない。

 こうなればやはり、プレートを製作したであろう首謀者を見つけ出して破壊方法を聞き出すしかないと……警備隊がそう方針を定めつつあった頃、クリアプレートについて驚愕の事実が判明した。


「クリアプレートの副作用が判明したんですか!?」


『ああ、そうだ。これが想像以上に厄介でな……』


 ユーゴがその報せを受けたのは、宿泊先のホテルで休息を取っていた時のことだった。

 ゴメスに比べれば楽な相手ではあるものの、魔鎧獣との連戦で疲れた体を休めていた彼に、シェパードから連絡が来ているとの報告がくる。


 また事件かと思いつつも、警備隊の本部ではなくホテルの通信機(備え付けの電話のようなもの)を通じての連絡ということは緊急性はないと考え直した彼がスタッフに案内されてその通話に出てみれば、クリアプレートの研究を行っていた警備隊が副作用を見つけ出したとの報告を聞かされた。


『副作用が判明したとは言ったが、我々の研究でそうなったわけではない。わかりやすく言えば、時限爆弾が発動したといった感じだろう』


「時限爆弾ですって……?」


 意味深なシェパードの言葉に、眉をひそめながら同じ言葉を繰り返すユーゴ。

 確か、自分が知るクリアプレートとよく似た怪物への変身アイテムにも重大な副作用があったなと考える彼へと、シェパードが判明した事実を伝える。


『クリアプレートには、使用した者の魔力を強制的に発散させてしまう副作用があるようだ。プレートを使用して魔鎧獣になった人間は、一定期間を過ぎると死なないギリギリのところまで魔力を搾り取られてしまうらしい』


「それってつまり、半永久的に魔力を搾取され続けるってことですか!? ちょっと待ってください! じゃあ、実験に協力してくれた隊員さんたちや、ゴメスさんたちも……!?」


『彼らは大丈夫だ、少なくとも今のところはな。今言った副作用は、魔鎧獣に変身した人間がそこから一定期間、クリアプレートを使用しないでいると発動するものだ。つまり、定期的にプレートを使用すれば、副作用は発現しない』


「そうですか……良かった、のかな……?」


『だが、楽観視はできない。徐々に副作用が発動するまでの時間は短くなっている。今のところは大丈夫だと前置きしたのは、この特徴が原因だ』


 シェパードからの報告を受けたユーゴが、小さく息を飲む。

 クリアプレートを使用しても暴れる心配のないゴメスたちはまだいいが、自分たちが倒し、捕まえた犯罪者たちが死ぬよりも苦しいであろう副作用を味わっていることに複雑な表情を浮かべる彼へと、通信機越しにシェパードが質問を投げかけてきた。


『ここまでの話を聞いて、君はどう思った? ユーゴくん、君の考えを聞かせてくれ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る