宿泊先でも気は抜けない!?プチ・風呂・パニック
動き出すコンダクター
「ねえねえ、大丈夫なの~? 結構ヤバくな~い?」
「………」
――暗闇の中で話をしている人の姿が三つ。
椅子に深々と座っているアビスと、彼へと煽るように声をかけるドロップ。そして、そんな二人を一歩引いた位置から見守っているロストの三名だ。
無言のまま、椅子に座った状態から一歩も動かないアビスへと、ドロップは意地の悪い笑みを浮かべながら話を続けていく。
「この間のシージャック事件で倒されたメンバー、クリアプレートを拾った人間の中でも上澄み中の上澄みだったんじゃないの? そいつら全員倒されちゃってさ、残ってるのはあれ以下の小者ばっかりじゃん!」
「私もちょっと不安視してるかな。君はこのシナリオで英雄候補たち……転生者たちを潰すと大々的に宣言した。だが、どうも流れとしてはそんなふうにはなっていない。マイヒーローの活躍を見れるのは嬉しいけど、彼に思惑を妨害され続けているこの状況は、君にとって良くないものなんじゃないかな?」
「これもあなたの想定通りの展開なの~? どうするつもり? コンダクター・アビスさ~ん?」
先日のシージャック事件にてユーゴたちが相対したクリアプレート所有者たちは、ここまで確認した中でもとびきりの腕利きや成長率を誇る者たちであった。
しかし、そんな彼らもユーゴたちに倒され、プレートと一緒に身柄を拘束されてしまっている。
残すプレート所有者は小粒ばかりで、魔鎧獣に変身しても大した力を発揮できるとは思えない。
まだ発見されていないプレートや所有者もいるにはいるが、戦いをこなして成長していくということを考えると、出遅れている彼らがゴメスたち以上の力を得られるとは考えにくい。
ここで物語を終わりにすると宣言し、肝入りの策であるクリアプレートという特殊なアイテムを使って魔鎧獣を生み出すというアイデアを実行したまでは良かったが、その先の展開は決して順風満帆とは言えないものだ。
確かにクリアプレート所有者が英雄候補を何名か痛めつけたりもしたが、彼ら全員を再起不能にするには程遠く、そうなる未来が見えない状況だ。
多分、至る所でクリアプレート所有者を倒しているユーゴたちがいなければ、アビスの作戦は上手くいっていたのだろう。
彼らによって魔鎧獣の育成を邪魔されているアビスは、かなりマズい状況に追い込まれているのでは……と、ほんの少しの心配と大多数の愉悦を抱きながら彼へと話しかけるアビスとドロップの二人であったが、そんな二人の前でアビスは高らかに笑い始める。
「ふふふふふふ……! あははははははははっ!!」
突然の高笑いに驚き、目を丸くする二人。
まさか、思い通りに話が進まないストレスにアビスが壊れてしまったのではと心配する彼らであったが、それは杞憂だったようだ。
「ご心配をおかけして申し訳ありません。しかし、大丈夫です! ここまでの展開はほとんどこの、コンダクター・アビスの想定通りの内容ですから!」
「えっ? マジぃ? 実は強がってんじゃないの~?」
「まさか! ただプレートをばら撒き、敵となる魔鎧獣を育成するだけで物語をエンディングに導けるというのなら、こんな物は用意しませんし……プレートも一枚、手元に残しておく必要もないでしょう?」
「……!!」
ひらひらと手にしている黒いチケットを揺らしながら、ニヤリと笑みを浮かべてこちらを見やったアビスの言葉に、ロストがフードの下で目を細める。
彼が決して強がりでこんなことを言っているのではないと理解したロストの前で、椅子から立ち上がって軽やかに数歩歩いたアビスは、何もない頭上の空間を見上げながら語っていく。
「ただ相手を殲滅するだけなら、いとも簡単に行えます。大事なのは、その破壊の中でどれだけのドラマを作れるか? ということ……ここまでの行動は、全てそのための下準備に過ぎないんですよ」
「二十六枚のクリアプレート全てが、君の作戦のための囮のようなものだったってことかい?」
「ノン、ノン、ノン……二十五枚ですよ、アビス。さっきも言った通り、私は手元に自分用のクリアプレートを残している。このプレートこそが最強のクリアプレート……他のクリアプレートは、この力を引き立てる前座に過ぎません」
最初から、そうするつもりだったのだろう。アビスは物語に介入し、自分の手で全てに終止符を打つつもりだった。
薄々勘付いてはいたが、こうして改めて話を聞いたロストは、彼の思惑を察知するも、具体的に何をするつもりなのかはわからないでいる。
「決して全てが順調というわけではありませんが……まあ、いいでしょう。そろそろ私も動くべきだ。このゲームのラスボスとしての力を見せつけるためにもね」
そう呟いたアビスの手から、チケットが消滅していく。
黒い粒子となり、徐々に崩壊していくそれを黙って見つめたロストは、満足気に笑うアビスへと静かに言った。
「……チケットを使ったということは、それなりの覚悟があると判断するよ。言いたいことは色々あるが……幸運を祈るとだけ言っておく」
「ふふふっ! 覚悟など必要ありませんよ、ロスト。私には、絶対的な勝算がある。迷うことも心配も必要ありませんから」
「で、どうすんの? ついに物語に介入するラスボス兼コンダクターであるアビスさんは、まず最初に何をするつもり?」
「さっきも言ったでしょう、ドロップ。私の力を見せつける、その相手に打ってつけの相手をあなたたちに用意してもらったじゃありませんか」
自信たっぷりにドロップに答えたアビスが手を振れば、暗闇の中に真っ黒な穴が出現した。
それを一瞥し、振り返った彼は、自分を見つめる二人へと弾んだ声で言う。
「では、まず……観客たちに私の力を見せつけるために、噛ませ犬に会ってきます。ロスト、ドロップ……あなたたちも私が指揮する舞台を、最後まで楽しんでくださいね」
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