俺にはきっと、半熟くらいがちょうどいい
「事情は聞いたよ、ゴメスさん! やっぱあんたは望んであんな真似をしたわけじゃなかったんだな!」
「すぐに出てこれるよう、島民みんなで働きかけるから! 待っててくれ!」
「ご家族のことは心配しないでくれ! ちょっとだけの辛抱だよ!」
「みんな……」
クリアプレート所有者たちによるシージャック事件は、犯人グループ最後の一人であるゴメスの投降により終わりを迎えた。
事件を裏で操っていた島のギャングメンバーたちも同様に逮捕され、人質に取られていたゴメスの孫娘も無事に解放されたことを踏まえると、完全解決と言えるだろう。
ただ、何もかもがハッピーエンドというわけではない。
孫娘のためとはいえ、ゴメスが犯罪に手を染めたという事実に変わりはなく、彼も逮捕は免れられなかった。
しかし、かつてヒーローとしてこの島の人々のために戦ったゴメスへの信頼は、全く揺らいでいないようだ。
警備隊に連れられて歩く彼の周囲には事情を知った人々が押し寄せ、励ましの言葉を贈っている。
その中には奪還された人質であるココアと、彼女の両親の姿もあり……彼女たちからすれば逮捕されるゴメスの姿を見るのは酷なことであろうが、ゴメスは最愛の孫娘の無事を確認できて、心から安堵していた。
「ゴメスさん、大丈夫かな……?」
「心配ないさ。事情が事情だし、情状酌量の余地は十分過ぎるくらいにある。すぐに、ってわけにはいかねえだろうが……釈放されるまでそう時間はかからないって、シェパードさんも言ってたからよ」
不安気に連行されるゴメスを見つめながら呟くフィーへと、ユーゴがそう答える。
彼もまたゴメスが一刻も早く釈放されることを望んでいるのと同時に、その願いは間違いなく叶うだろうと確信していた。
警備隊の人間も、この島の人々も、家族だって……ゴメスが早く戻ってくることを望んでいる。
これが人々を守るために戦い続けたヒーローに寄せられる信頼なのだと、ゴメスが本物であることを証明するその光景に頷くユーゴへと、シェパードに連れられたゴメスが声をかけてきた。
「ユーゴ……色々と世話になったな。本当にありがとう」
「俺一人じゃ何もできませんでしたよ。他の犯人たちを倒してくれた仲間たちと、お孫さんを助け出してくれたシェパードさんたちのおかげです」
「ふふっ……そうだな。お前の言う通りだ。仲間の手を借りると言ったお前の判断は正しかった。冷徹な鉄の男になれという俺のアドバイスは、余計なお世話だったようだ」
ヒーローの心得として、戦いの最中に何度も述べたその言葉を改めて言いながらゴメスが笑う。
自嘲気味な笑みを浮かべた彼は顔を上げると、ユーゴを見つめながら改めて口を開く。
「……お前はそれでいい。何事にも動じない、鉄の男になる必要なんてない。それが弱さにつながろうとも……心を燃やす熱さと誰かを思いやる優しさを忘れるな。それが、抱えるであろう弱点以上の強さをお前に与えてくれる」
「……自分でも、格好いいハードボイルドな男なんて似合わないと思ってます。俺には、煮え切らないハーフボイルドくらいがちょうどいいっすよ」
「ははっ! ハーフボイルド、か……! いいじゃないか。お前らしいと、心からそう思えるよ」
そう、笑いながら同意したゴメスが、今度はフィーを見る。
孫に向けるような優しい笑みを浮かべながら、ゴメスは彼へとこう言った。
「フィー……君は俺に『兄さんは俺の望みを叶えてくれない』と言ったが……半分は正しかった。ユーゴは俺を殺さなかったが、本当の望みは叶えてくれたよ。君は本当に、お兄さんのことを理解しているんだな」
「兄さんなら絶対にそうするって、わかってました。だって兄さんは、あなたと同じヒーローですから」
「……いい兄弟だ。お前たちともう一度会えるかはわからないが、これからも幸せに暮らせよ。ユーゴ、フィー……達者でな」
そうして、最後の会話を終えたゴメスが、護送用の馬車に乗り込む。
走り出したそれを追いかけ、見つめる大勢の人々に巻き込まれながら、ユーゴは静かに敬礼の構えを取った。
(会えますよ、絶対に。その時は、俺に色々なことを教えてください。ヒーローを目指す者として、その日を楽しみに待ってますから……!!)
ゴメスはああ言ったが、きっとまた会えるとユーゴは信じている。修学旅行中は会えずとも、これが今生の別れになるとは思っていない。
その時こそ、戦う相手としてではなく、ヒーローとしての魂を持つ者同士として、言葉を交わしたいと……そう願いながら、ユーゴは静かに自分にとって大切なものを守り続けた先輩へと敬意を示し、馬車を見送り続けるのであった。
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