この島のヒーローたち

「んなこと、させるかよっ!!」


「んっっ!?」


 完全に落ちるつもりだったゴメスは、自分の腕を掴んできたユーゴの行動に驚きを隠せなかった。

 膨大な熱量を誇る紫炎の鎧を纏ったままではゴメスにダメージがいくことを理解しているユーゴは、変身を解除した状態で落ちようとする彼を必死に引っ張り上げようとしている。


「手を放せ、ユーゴ! これは俺が着けなくちゃならないケジメだ!」


「言っただろ……お前の罪を数えろって! 俺はまだあんたの罪を聞いてない! 死んだらもう、罪を数えられない! 本気で償いをするつもりなら、生きて償ってくれ!!」


 ユーゴがゴメスを倒したのは、彼を殺すためではない。クリアプレートが与える力の副作用でゴメスが限界を迎える前に、彼を止めるためだ。

 生かすためにゴメスを倒したユーゴが、目の前で死のうとしている彼を止めないはずがない。

 その説得に心を揺らがせるゴメスであったが、拳を震わせると共に呻くような声で言った。


「……どうしようもないさ。今更、そんなものを数えても意味がない。俺がこうしなければ……孫娘が死ぬんだ」


「あるさ、方法なら! あんたが諦めさえしなければ、お孫さんとまた会える!!」


「気休めなど、聞きたく――!!」


 この島の犯罪組織に囚われている孫娘を解放するためには、もう自分が死ぬしかない。

 それ以外の方法など、ありはしないと……気休めにしか聞こえないユーゴの言葉に、ゴメスが反論しようとした時だった。


『おじいちゃん!!』


「っっ!? こ、この、声は……!?」


 突如として聞こえた声に、ゴメスが目を見開く。

 周囲を見回し、その声の主の姿が見えないことに気付いたゴメスが幻聴を聞いたのかと考える中、再び同じ声が響いた。


『おじいちゃん! もう、大丈夫だよ!!』


「こ、ココア……!?」


 再度響いたその声が、囚われの身になっている孫娘の声であることを悟ったゴメスがさらに驚く。

 彼女の声はどこから聞こえているのか? いったい、何が起きているのか? それがわからずに困惑するゴメスの耳に、また違う人物の声が響いた。


『遅くなってすまなかった、ユーゴくん。しかし、君のおかげでゴメスさんのお孫さんは無事に奪還できたぞ』


「その声は……! お前、クルーガーか? どうしてお前が……!?」


『事情は全て、通信機を通じて把握しています。ココアちゃんは無事ですよ、ゴメスさん』


「……っ!?」


 本当に何が起きているのかを理解できないでいたゴメスであったが、ただ一つだけ、自分の孫娘が無事に奪還されたことだけは理解できた。

 未だに状況が把握できていない彼へと、通信機越しにシェパードが説明を始める。


『ユーゴくんたちが船に乗り込む前に、通信機を一つ渡されたんです。絶対にゴメスさんから事情を聞き出すから、もしもそれが島に残る我々で解決できることならば、警備隊を代表して動いてほしいと……そう頼まれました。そして、ユーゴくんはその約束を守ってくれた。あなたがシージャックを起こした理由を知った我々は、すぐに特殊部隊を結成して動きました』


 ユーゴたちが持っていた三つの通信機。一つはユーゴ自身に、もう一つはアンヘルに、最後の一つは遊覧船に乗り込む前にシェパードが持っていた。

 海上のトラブルは自分たちが引き受ける。その代わり、自分たちが対処できない島での事件は警備隊に対処してほしいと……その願いと共に通信機を託されたシェパードは、ゴメスの孫娘がギャングに囚われていることを知り、即座に動いたのである。


「しかし、どうしてこんなにも早く動けた? お前がどれだけ頑張ろうとも、ここまで迅速に人質を奪還することなんてできるはずが……!?」


『あなたに倒された突入部隊の隊員たちのおかげで、犯人の身元は割れていました。ビランとグルート、この二人が所属しているギャングに関する情報も、他の管轄の隊員が提供してくれた。他にも潜入捜査官や腕利きの隊員、警備隊員ですらない情報屋やただの島民までもがこの作戦に協力してくれたんです』


「そんな奴らが、どうして……!?」


『……決まっているじゃないですか。私も含めて、この作戦に参加した人間は全員……この島のヒーローであるあなたに救われた者たちだからですよ』


「……!!」


 美しい島とそこに住まう人々を守るため、魔物や災害と戦い続けたゴメス。

 彼に救われ、その姿に憧れた者たちの心の中に、正義の魂は受け継がれていた。


 彼がかつて救った人々が、巡り巡って今度は彼の窮地を救う沢山のヒーローとして成長を果たしていたのである。


『おじいちゃん! 私はもう大丈夫だから、悪いことは止めて! もう、そんなことしなくていいんだよ!!』


「ココア……!」


『……ゴメスさん。俺たちは、あなたのヒーローになれましたか? 少しでも、あなたに恩を返せたでしょうか?』


「……十分過ぎるさ。助かった、ありがとう……!」


 全ての憂いはなくなった。死ぬ理由もだ。

 それを理解して顔を上げたゴメスへと、彼を引っ張り上げようと踏ん張るユーゴが言う。


「もう、死ぬしかないだなんて言わないよな? あなたはやり直せる! だから、大切な人を泣かせるっていう罪を重ねないでくれ!」


「……ああ。そうだな、その通りだ……」


 拳を解いたゴメスが、ユーゴの腕を握り返す。

 船の縁を掴み、彼と力を合わせて甲板へと上がったゴメスは、力を出し切ってへたり込むユーゴを見つめながら言った。


「……俺の負けだ。お前は俺の想像を遥かに超えた、立派なヒーローだよ、ユーゴ」


―――――――――――――――

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一週間ほど前からラブコメを書いているので、できたら読んでほしい……!

ロリ巨乳ヒロインとの身長差ラブコメ(ざまぁ有り)です!どうぞよろしく!!

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