お前の罪を――
「ははは……っ! グルートとビランもやられたか。残すは俺だけだな」
海上で起きた爆発と、叩き斬られた海。その二つを目にしたゴメスが自嘲気味に笑いながら呟く。
仲間たちが全滅したことを悟った彼はユーゴへと視線を向けると、静かな声で言った。
「お前の仲間は必死に戦っているぞ、ユーゴ。お前は、俺を相手に手を抜いていていいのか?」
「くっ……!!」
孫娘が人質に取られていると聞いてから、ユーゴの動きは明らかに悪くなった。
ゴメスが根っからの悪人ではなく、脅されて犯罪に手を染めたと知ったから、彼も本気で戦えなくなっているのだろう。
「ゴメスさん……もう、止めよう! あんたの仲間は全滅した! これ以上、戦う必要なんてないはずだ!!」
「あるさ。最後の最後まで戦う理由が、俺にはな」
そう答えた後、握り締めた拳をユーゴへと繰り出すゴメス。
その拳を受け止め、踏ん張ったユーゴであったが、強引に体重と腕力を活かして腕を振りぬいたゴメスによって吹き飛ばされてしまう。
「ぐあっ!?」
「甘いぞ、ユーゴ! そんなことで、ヒーローを名乗れると思っているのか!? ……ん?」
「!?!?!?」
吹き飛んだユーゴを指差し、説教をしていたゴメスは、突如として響いた破裂音に顔を顰めた。
なんと、ユーゴを殴り飛ばし、彼へと伸ばしていた右腕から、血が噴き出してきたではないか。
「ゴメスさん、今のは……!?」
「ふふっ……! どうやら限界らしい。殴られる痛みには耐えられても、能力の負荷はそうじゃないようだ」
「っっ……!」
自嘲気味なゴメスの言葉を受けたユーゴは、何があったのかを瞬時に理解した。
あれはクリアプレートに与えられた能力の副作用……ゴメスの体が、強化の負荷に耐え切れなくなっているのだ。
傷を受ければ受けるほどに強くなる能力。それは即ち、弱った体を無理矢理ドーピングして強くしているということ。
全身が傷付いて肉体が弱っていくというのに、そこにかかる負荷はどんどん増していく。その歪な反比例は、必ずどこかで崩壊する。
強靭なタフネスを持つゴメスでも……いや、そんな彼だからこそ、その限界が危険域を超えるレベルで発現してしまった。
ユーゴが本気を出せず、トドメとなり得る強烈な攻撃を叩き込めなかったことも原因の一つなのだろう。
魔鎧獣となったゴメスの腕の筋肉が突如膨張して弾ける様を目にしたユーゴは、限界を迎えた彼の肉体がじきに崩壊することを察知すると共に叫ぶ。
「もういいだろ……! もう、いいだろ!? あんたが死ななくても、孫娘さんを助け出す方法はあるはずだ! むしろ、あんたがここで死んだとしても、無事に人質になってるその子が解放される保証なんてないんだぞ!?」
「ならば、お前に聞こう。もしもお前がフィーを人質に取られていたとしたら、俺と同じことをするんじゃないのか?」
「……!!」
ゴメスのその問いかけに、兜の下でユーゴが目を見開く。
一瞬、押し黙った彼であったが……静かに首を振ると、否定の意見を述べてみせた。
「……いいや、しないね。確かにあんたの言う通り、人質を取られて不条理な命令に従うことはあるかもしれねえ。だけど……人質のために死を選んだりはしない。そこで俺が死んだら、仮に人質が助かったとしても、そいつが一生俺の死を背負って生きなくちゃならなくなる。それはヒーローとして、絶対にやっちゃならないことだ」
「なら、どうする? 人質を見捨てるのか?」
「それもNOだ。俺は仲間を信じる。仲間のピンチに俺が駆け付けるように、俺のピンチにもあいつらが駆け付けてくれるはずだと信じてな」
「ふはは……っ! 青臭い、いい答えだ。俺にも信じられる仲間がいれば、そう答えられたのかもしれん。だが――!!」
どこまでも青臭く、そして真っすぐな答えだった。
若いユーゴが信じる、甘くも正しいヒーローの条件に笑みを浮かべたゴメスであったが……その体が一回り大きくなる。
ただでさえ巨体を誇っていた彼の体は今や三メートルを超える大きさになり、腕や脚もそれに応じた太さになっていた。
クリアプレートの能力を限界まで解放したのだと……自らの肉体にかかる負荷を完全に無視したゴメスの暴走を目の当たりにしたユーゴが息を飲む中、彼が拳を甲板へと叩き付ける。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
すさまじい衝撃と破壊音がサンライト号に響いた。
巨大な遊覧船が激しく揺れ、衝撃によって船の一部が粉砕され、海へと崩れ落ちていく。
「ユーゴ……お前が俺を殺してくれないというのなら、俺は自ら死を選ぼう。ただし、この船の乗客を道連れにしてな」
「なっ……!?」
「見ての通りだ。このまま攻撃を続ければ、俺の肉体と共にこの船も崩壊を迎える。お前が俺を倒さなければ、まだ脱出できていない乗客や船員たちが犠牲になるぞ。それでもいいのか、ユーゴ!?」
「っっ……!!」
そう叫ぶ間にも、ゴメスの肉体の崩壊は進んでいる。
体の至るところの筋肉が膨張のあまりに破裂し、それを強引に回復させたことでさらなる強化が施され、その負荷によってまた肉体が――という破壊と再生のループを、ゴメス自身の覚悟を目の当たりにしたユーゴは、強く拳を握り締めると共に息を吐いた。
「……一つ、俺はあんたの覚悟を見誤った。本気の思いを受け止めることを恐れて、逃げ回っていた」
「……!」
ユーゴの体からゆらりと立ち上る闘気を目にしたゴメスが、彼の雰囲気が変わったことを感じ取る。
静かに、だが確かな覚悟を決めた彼を見つめるゴメスの前で、ユーゴが言葉を続けた。
「二つ、戦いの覚悟を決めることができなかった。三つ……そのせいであんた自身と、沢山の人たちを傷付けた」
ゴウッ、という音と共にユーゴの左拳に紫色の炎が灯る。
彼の周囲を飛ぶ微粒子金属が、徐々に彼の体に纏わりついていく様を見守るゴメスへと、ユーゴは視線を向けた。
「……俺は自分の罪を数えたぜ。ゴメスさん……次はあんたの番だ」
緩く握り、銃のような形にした右手をゴメスへと向ける。
その目に覚悟の炎を灯しながら、ユーゴは瞳の中に映したゴメスへと言った。
「さあ……お前の罪を、数えろ……!」
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