海中のリュウガ
「キシャシャッシャッ!! 勢いよく飛び込んできたはいいが、手も足も出せてねえなあ! 今、どんな気持ちだ? ああっ!?」
(ちっ……!!)
一方、海中ではリュウガがビランと死闘を繰り広げていた。
とはいっても、魚類であるピラニアの能力を持つビランとただの人間であるリュウガとでは水中での戦闘能力に圧倒的な開きがある。
縦横無尽に海の中を泳ぎまわり、ヒレや牙で攻撃を仕掛けてくるビランに対して、リュウガはどうにかボートから離れつつその場を凌ぐのが精一杯であった。
(楽な戦いになるとは思っていなかったが、やはり厳しいか……)
塩水への対策用魔術はかけられているとはいえ、海の水に長い時間愛刀を浸けていたくはないリュウガは、自分たちとボートとの位置関係を確認しながらそう思った。
ビランの嘲笑と挑発を無視し続ける彼は、厳し過ぎる戦いでどう動くかを考えていく。
正直な話、周囲の被害を考えなければ飛び込んだ時点でこの状況をどうにかすることはできた。
それをしなかったのは、仲間たちや人質となっていた人々が乗っていたボートがすぐ近くにあったからだ。
彼らを守るためにこんな無茶な真似をしているというのに、その彼らを戦いに巻き込んでしまっては元も子もない。
そのため、まずはボートからビランを引き離すことを優先し、見事にその目的を達成したリュウガであったが、代わりにもう一つの条件を満たせなくなってしまっていた。
「キシャシャッシャッ!! お前の考えはわかるぜぇ……! そろそろ海面に出て、呼吸がしたいよなぁ? もう息が限界だよなぁ!?」
そう、自分の様子を見たビランの言葉に、リュウガが顔を顰める。
彼の言うことは半分正解だが、もう半分は不正解だ。自分は呼吸をしたいとは思っているが、限界だとは思っていない。
肺活量、という部分に関してはリュウガも人並外れたものを誇っている。
息継ぎをする瞬間というのはどうしても攻めの手が緩む。その隙をできるだけ少なくするためにも、心肺機能と直結している運動神経を底上げするためにも、肺活量はしっかりと鍛えてあった。
だからまだ限界というわけではないが……どうしたって大技を出すには息が足りない。
魔力を高め、気を練り、技の威力を十分に引き出すためには息継ぎが必要だ。少なくとも、この状況を打開するために技を出すには今のリュウガに残っている酸素では足りそうにない。
多分それを、ビランもわかっている。いや、ここまで正確にはわかっていないのだろうが、「こいつに息継ぎをさせてはダメだ」ということは本能的に理解しているだろう。
魚の魔鎧獣である彼と違って、人間は呼吸ができなければ死ぬ。
何をしようとも、リュウガが限界を迎えるまで呼吸をさせなければ勝つのはビランだ。
そこを理解できないほど間抜けな相手ではないと……そう考えたリュウガは、静かに刀を構えながら敵を見やる。
魚の魔鎧獣を相手に海面に浮上することは難しいだろうし、逆に海底に溜まっている酸素溜まりを探すのもリスクが高い。
それでも、勝つにはどうにかして技を繰り出すために呼吸をするしかないのだ。
「だがまあ……そろそろ相方がボートの連中と遊ぶのに飽きてきてる頃だろうからな。とっとと合流するために、お前をぶっ殺してやらないとなぁ! キシャシャッシャッ!!」
「……っ!!」
しかし、やはりそう簡単にはいかなかった。
勝負を決めるために、あるいはリュウガの目論見を阻止するために、ビランは一気に彼に近付くとそのまま体当たりを叩き込んでくる。
自分を海底へと押し込むようにタックルをしてくるビランの攻撃をどうにか龍王牙で防ぐリュウガであったが、海面はどんどん遠のいていくばかりだ。
不幸中の幸いといえば、ボートからまた離れられたということだけ。しかし、状況的には厳しくなっている。
「絶望したか!? 苦しいかぁ!? 息継ぎがしたいっていうのに海面からどんどん離れていくなんて、ただの人間であるお前には絶望的な状況だよなぁ!?」
(さっきから本当に、うるさい奴だ……!!)
ここが水の中でなければ、バシッと言い返してやるものを……と思いながらも、状況のマズさに険しい表情を浮かべるリュウガ。
どうにか隙を作り、ほぼ海底と言って差し支えないこの位置から海面まで浮上しなければと、彼がそう考えた時だった。
「んっ!? な、なんだっ!?」
「……!!」
自分たちの頭上、海面よりまた少し上で大きな爆発音が響いた。
突然の事態に余裕綽々といった笑みを浮かべていたビランは驚きにその笑みを引っ込め、直後に最悪の事態を想像して血相を変える。
「まさか、グルート……!? お前がやられたっていうのか!?」
(今だっ!!)
相棒が倒されたことを察知したビランの動揺を、リュウガは見逃さなかった。
硬直状態を崩した彼はそのままビランの顔面を蹴り付け、海面へと浮上するための踏み台として利用して一気に跳び上がる。
無論、位置から考えてもこの一回で海面まで辿り着けるわけはない。
隙を突かれたビランも体勢を崩しはしたが、即座に振り返ってリュウガを追ってきている。
「うおおっ!? お前っ、させるかっ!!」
(ここしかない。ここが勝負所だ……)
どの道、あのままでは自分が限界を迎えるのは明白だった。分が悪かったとしても、賭けに出る以外に勝つ道はなかったのだ。
そして自分は今からもう一回、分の悪いギャンブルをしようとしている。
残る酸素を振り絞って一度だけの技を繰り出し、ビランの動きを止める。
その瞬間に再び彼を踏み台として蹴り飛ばしつつ、海面へと浮上する。
無茶が過ぎる作戦だが、もうこれしかない。この賭けに勝つ以外に道はない。
覚悟を決め、刀の柄に手を伸ばしながら、迫るビランを見つめながら、タイミングを計るリュウガ。
気を練り、技を繰り出すための準備を整えた彼が龍王牙を抜こうとしたその瞬間、彼とビランに黄金の雷光が襲い掛かった。
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