吹き荒れる、暴風警報!

(マズいぞ……! どうするべきだ……!?)


 そのセツナの言葉通り、今度はグルートが思い悩む番だった。

 一度離脱し、ビランと合流した上で次のチャンスを待つべきか? もしくは、多少の被弾は覚悟で相方が復帰するまでどうにか粘り続けるか?


 自身の行動をどうするべきかと悩むグルートであったが、彼と違ってセツナは考える時間を与えてなどくれない。


「いつまでそうしているつもりかしら? ずっと同じ場所で止まっているのは、わよ」


「っっ!?」


 特に矢を番えもしていなかったセツナが薄い笑みを浮かべながら呟いた次の瞬間、グルートの周囲の空気が変わった。

 何か重みを持ったような、体にへばりついているような……そんな風の流れを感じたのとほぼ同時に、空気が重りとなってグルートを襲う。


「おっっ!? ぐおおおおっ!?」


 射るのではなく押し潰す。上空から空気の圧で相手を攻撃するという新たな攻撃方法を見せたセツナが、そのまま二度三度と矢を射かける。

 空気に圧し潰されて落下していたグルートがその攻撃を回避することなどできるはずもなく、彼は翼に矢を受け、盛大な悲鳴を上げた。


「がああああっ! いっでぇえええっ!!」


「すごっ……! セツナ、いつの間に攻撃にそんなバリエーションを……!?」


「修学旅行に行く前に話したでしょ? 強くなりたいって。ただ弓を引くだけの自分とはお別れしたかったからね。色々と努力させてもらったわ」


 メルトからの言葉に、笑みを浮かべつつ答えるセツナ。

 実は親友である彼女の技を参考にした部分もあるのだが、それは敢えて黙っておくことにした。


「曲射に拡散弾、上空からの圧殺……正確無比な射撃にそれだけの技が加われば、元々の技巧がさらに引き立つ、ということか」


「強くなっているのはあなたやユーゴだけじゃないってことよ、マルコス」


 そう答えつつ、攻撃を受けたグルートへと視線を向けたセツナが彼の反応を確認する。

 次に相手はどう動くのか? 負けん気の強い相手だ、このままやられっぱなしで終わるとは思えない。


 となると、次の行動は――と彼女が考える中、激高したグルートは忌々し気に吠えると共に翼を大きく広げた。


「なかなかやる……! だがな、おかげで俺もブチ切れたぜ! ビランには悪いが、お前らは俺が始末してやる!!」


 ビュゴウッ、という風の音が響いた。

 次の瞬間にはグルートが動き出し、猛烈な勢いでセツナたちが乗るボートへと突撃してくる。


「は、速いっ!!」


 回避運動を捨て、一直線にこちらへと突っ込むグルートの速度を目の当たりにしたライハは、そのスピードに驚愕していた。

 彼女やメルトが遠距離攻撃を放って牽制するも、相手は速度を緩めることなくこちらへと突き進んでくる。


(お前が俺の速度を見切ったように、俺もお前の攻撃の威力と軌道は見切った! 普通の矢は避けられるし、拡散する矢は被弾しても耐えてやる! 今までのお礼として、そのかわいい顔にでっけえ傷を付けてやるよ!!)


 鳥たちが持つ人間離れした視力と飛行能力を活かし、まるでジェット機のように突き進むグルート。

 もはや、生半可な攻撃では彼を迎撃することは不可能と踏んだマルコスは、ギガシザースを構えながら叫ぶ。


「全員、下がれ! 私が奴を止める!!」


「いいえ、マルコス。あなたが前に出る必要はないわ。むしろ、ちょっと右に避けてもらえるかしら?」


「なに……?」


 あの速度の攻撃を防げるのは、自分しかないない。そう考えて前に出たマルコスを、セツナがやんわりと止める。

 じっくりと魔力を込め、風の矢を生成していく彼女は、こちらへと突っ込んでくるグルートを細めた目で見つめると、静かな声で呟いた。


「そこで……


「がべっっ!? はぁっ!?」


 ――ばちんっ、という大きな音が響く。同時に、あれだけの速度を出して飛行していたグルートが何かにぶち当たったように動きを止めた。

 何もない空中で、あるはずのない壁に真っ向から激突した彼は、自分を急に止めた何かの存在を理解すると共に目を見開く。


「こ、これは、空気の壁……!?」


 先ほど、自分を上空から押し潰した空気の塊とよく似た何かが、目の前にあった。

 重石として作り出していたそれを、今度は目に見えない圧縮された空気の壁として生成して自分の突撃を防いだだけでなく、強烈なカウンターとして利用したセツナの技に驚愕したグルートであったが、そこに彼女が自分の行動を完全に読み切っていたという驚きが上乗せされる。


「そう来ることはわかってた。だから、事前に壁を作っておいたわ。そして……これで詰みよ」


(や、ヤバい……っ!!)


 速度を出していた分、風の壁にぶち当たった時の衝撃が強まっていた。その衝撃と痛みに、グルートは動きを完全に止めてしまった。

 その間に魔力を充填し、最後の一撃を繰り出す準備を終えていたセツナは、番えた風の矢を引き絞ると共に愕然とする魔鎧獣へと放つ。


「【強弓・暴風龍巻】」


「ガッッ!? グアアアアアアッ!!」


 セツナの放った矢は、その形を荒れ狂う竜巻へと変えた。

 緑の暴風へと姿を変えた矢に体を貫かれたグルートが、絶叫を上げながら大爆発する。


 その爆発が収まった後には海に浮かぶ彼とクリアプレートの姿があって、魔鎧獣が倒されたことを悟った乗客たちが安堵のため息を漏らす中、敵を仕留めたセツナは油断せずに仲間たちへと言う。


「一体はどうにかできたわ。でも、もう一体が残ってる」


「リュウガは無事!? まだどっちも浮かんできてないけど……!!」


 リュウガがビランを巻き込んで海に落ちてから、既に数分が経過している。

 その間、彼も魔鎧獣もどちらも目立った動きを見せていないということは、戦いの決着はまだついていないのだろう。


 しかし、不利なのはリュウガの方だ。彼は今も、呼吸のできない水の中で息継ぎもせずに戦っている。

 どうにかして援護ができないか……とマルコスたちが考える中、海を見つめていたライハが大きく深呼吸をすると共に仲間たちへと言った。


「みんな……私、ちょっと行ってきます!」


「行ってきますって……ちょっと、ライハ!?」


 そう言うが早いが、ライハは海の中へと飛び込んでいった。

 マルコスたちは驚くと共に彼女が海面に残した波紋を見つめ、言葉を失ったまま固まっている。


 自分たちも彼女に続くべきか? はたまたもう少し様子を見るべきか?

 そう迷い、戸惑う中、激しい揺れを感じた彼らの目に信じられない光景が飛び込んできた。

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