急に曲がって、拡散!
「流石だな、セツナ。色々参考になったよ」
「あなたには巫女服の改造案について協力してもらってるし、何より未来の夫になるかもしれない相手だもの。この程度なら、いくらでも力になるわ」
――修学旅行に行く少し前、セツナはユーゴに頼まれて彼の前で射撃を披露していた。
今思えば、これは射撃戦用の鎧である【緑の鎧】を使う参考にするためだったのだろう。
魔道具【龍弦弓】を用いて様々な形での射撃を披露した彼女へと、ユーゴが言う。
「やっぱ風の矢って便利だよな。威力とか速射とか軌道とか、自由自在に変更できるイメージがあるわ」
「そうね。軌道に関しては風で誘導できるし、何より風を矢にするから魔力が切れない限りは射撃を続けられる。そういう利点が大きいかしら」
矢も矢筒も用意しなくていいし、と魔力で矢を作るが故のメリットについて語るセツナ。
メルトの【スワード・リング】もそうだが、魔力で武器を作る魔道具はそれなりに燃費がいいのも特徴で、生成する武器をある程度自在に変化させられるのも大きなメリットだ。
そういう話を聞き、頷いていたユーゴは、ふとあることを思いつくと共に彼女へと質問する。
「なあ、それってさ、作る矢自体になんか仕掛けとかできないのか?」
「矢に仕掛け? メルトが状況に応じて作る剣の形を変える……みたいなことをしているけど、あれと似たようなものかしら?」
ユーゴの意見に対して、やや困惑しながら質問を返すセツナ。
彼女が言ったように、メルトは時折貫通力を重視したレイピアを作ったり、巨大な剣を魔力で生成したりしている。
あれと似たようなことを自分の矢でできるのか? という意味の質問かと思ったのだが、ユーゴは首を左右に振るとこう言った。
「いや、なんつーかな? 風で作った矢を急に爆発させて、砲弾みたいにしたりとか……そういう感じのやつ!」
「……できなくはないわね。扱いは難しくなるでしょうし、使う魔力も増えるでしょうけど」
矢を矢として固定するのではなく、例えば砲弾のように扱う。
我々にわかりやすく言ってしまえば、ボウガンとしてのイメージではなくショットガンやライフルの弾丸のように矢を変化できないかとユーゴは言っているのだ。
それは弓術の正道とはいえない技ではあったが、面白いとセツナは思った。
こう見えて意外と好奇心旺盛な彼女は、湧き上がった興味のままにユーゴへと言う。
「ちょっと面白そうだし、試してみましょうか? あなたの中のイメージを教えてもらえる?」
「おう、いいぜ! 例えばだけど、そうだな……急に
―――――――――――――――
「あの時は言い方が気になったけど、確かに使えるわ。練習しておいて良かったわね」
何故だか妙に伸ばし棒が付いていたようなユーゴの話を思い返しながら、セツナが呟く。
微笑みを浮かべた彼女は再び弓に風の矢を番えると、それを面食らっているグルートへと放った。
「くっ! また……っ!?」
脚を止めたら射抜かれる。回避を続けなければ……!
そう思い、必死に射かけられる矢を飛行して避け続けるグルートであったが、セツナは彼の動きをほぼ完璧に読んでいた。
最高速度と動きの癖から飛行経路を読み、逃げ場を奪うようにして矢を射る。
先ほどと同じようにその矢をギリギリで回避し続けるグルートへと、セツナは少し魔力の質を変えて生み出した矢を放つ。
「そう、そこよ。そこで……拡散」
「ぐおあっ!?」
回避運動を取り続けていたグルートの眼前で、またしても風の矢が弾ける。
少し多めに魔力を使い、太めの矢を作ったセツナは、相手の目前でその矢が爆発して衝撃が広がるように細工をしていた。
無論、そう簡単に扱えるものではないし、使うには癖がある技だ。
しかし、天才的な才能と長年の修練によって弓の扱いを習熟してきた彼女にとっては、この新しいひらめきをものにするのはそう難しいことではない。
「曲がる。拡散。また曲がる。そう、そこで止まるでしょう? そうしたらこの矢が翼に当たるわ」
「ぐっ! ぐううっ!? あがあっ!?」
当てるために矢を射かけるのではない。牽制と誘導を兼ねて射るのだ。
ほぼ無制限に射撃ができるからこそできる作戦。相手を揺さぶり、データを取り、動きを読んで、その上で的確な一手を打つ。
「ぜはぁ……っ! ぜはぁ……っ! くそっ、なんだ? どうして避け切れねえ……!?」
自分は大空という広いフィールドを自由に使い、飛び回れるはずだ。
あんな小さな船に乗っている小娘一人の攻撃を避けることなど、決して難しくないはずだ。
なのに……どうしてか、絶対に避けられない矢がある。気が付けば、体のどこかに痛みが走っている。
理解ができない。おかしい。何かが変だ。
圧倒的優位に立っているはずの自分が、どうして追い詰められている?
「ビラン、まだか? 遊んでないで、とっとと片付けちまえよ……!!」
ビランがリュウガを片付けるまで、遊んでいればいいと思っていた。
しかし、今は彼が戦線に復帰するまで耐えなければならないと思うようになっている。
精神的な余裕を喪失したことで肉体が感じる負担は跳ね上がり、呼吸も口調も荒くなった。
何より、理解ができないということがグルートの不安を掻き立て、彼の精神を徐々に追い詰めている。
「……どうやら、ようやく理解したようね」
そんなふうに明らかに動きが変わった相手の姿を見つめながら、セツナが呟く。
油断なく弓を構え、その狙いを動きが固くなった鳥の魔鎧獣へと向けながら、彼女は言った。
「あなたは狩る側の存在じゃない。狩られる側の、か弱い小鳥よ」
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