迎撃せよ!空の魔鎧獣!
「リュウガさん! リュウガさんっ!!」
「ライハ、落ち着いて!!」
「でも、いくらリュウガさんでも海の中であの魔鎧獣と戦うのは無謀だよ! どうにか援護しないと!!」
「落ち着くんだ! リュウガがそう簡単にやられる奴じゃない! あいつが片方の魔鎧獣を引き受けてくれている間に、我々はできることをするんだ!」
一方、リュウガがビランと共に海に飛び込んだ後の海上では、仲間たちが彼を心配しながらももう一体の魔鎧獣であるグルートとの戦いに臨もうとしていた。
上空を旋回し、時折羽の弾丸での遠距離攻撃を仕掛けてくる彼を見つめながら、弓を構え直したセツナが口を開く。
「メルト、今のうちにシーホースたちの治療をお願い。マルコスは相手の攻撃に対処して。ライハ、あなたは海の見張りよ。異変を見逃さないようにして」
ギリリ、と弓弦を引き絞ったセツナが、魔力で作り出した風の矢を番える。
仲間たちの中で遠距離攻撃に最も秀でている彼女は、宙を舞う鳥の魔鎧獣目掛けてその矢を解き放った。
「おおっとぉ!? いい狙いだねぇ、姉ちゃん! だが、俺には当たんねえよ!」
彼女の攻撃に対して、空を飛ぶグルートは軽口を叩きながら回避運動を見せる。
滑空し、スピードを出して宙を舞う彼は、次々と繰り出される風の矢を難なく回避し続けながら自分の取るべき行動を考えていった。
(さてさて、ここで俺の打つべき手だが――)
警備隊の船はビランの破壊工作によって駆け付けることはできない。ボートを引くシーホースも今は治療の真っ最中だ。
今、完全にあのボートたちは動きを止めている。そして、救援はやって来ない。
つまりは無理さえしなければこちらにとって状況が悪くなることはなく……一人で強引に攻撃を仕掛ける理由もないということだ。
(普通に考えりゃ、水の中でビランが負けるはずがねえ。あいつがさっきの野郎をぶちのめすのを待って、二人で攻撃を仕掛けるべきだな)
リュウガが睨んだ通り、この状況での最大の脅威は空中と海中から繰り出されるコンビネーションにあった。
どちらか片方だけならば対処法はある。空からの攻撃は迎撃しながら逃げればいいし、海からの攻撃はシーホースに被弾覚悟で電撃攻撃を叩き込めばいい。
しかし、両方となると話は別だ。お互いの弱点を消すことができるこのコンビネーションこそが、グルートとビランの最大の強みである。
同じギャングの仲間ということもあり、チームワークも抜群。相方の力量も能力も把握しているからこそ、それを踏まえた上で取るべき行動を決めることができる。
そして、この状況でグルートが選択したのは、待ちの判断……つまりはビランがリュウガを仕留め、戦線に復帰してから改めて攻撃を仕掛けようというものであった。
(シーホースの治療にはそれなりに時間がかかる。それまでにビランが敵を仕留めれば何も問題ねえ。俺は、あいつが戻ってきた時に万全の状態で攻撃を再開できるようにしつつ、相手の足止めをしておけばいいんだ)
狂った犯罪者のように見せかけて、意外とクレバーな判断もできるグルートがニヤリと笑う。
彼がそこまで積極的に攻撃を仕掛けずに回避主体での動きを見せていることから、ボートのマルコスたちもその判断に勘付いたようだ。
「奴め、露骨に時間を稼ぎ始めたぞ。リュウガと戦っている相方が戻ってくるのを待つつもりか」
「だとしたらやっぱり、リュウガさんを助けないと……!」
「でも、どうするつもり? 私たち、海の中に対する効果的な攻撃方法なんて持ってないよね?」
折角、リュウガが作ってくれたチャンスだが、相手も一筋縄ではいかない。
無理はせず、相方の復帰を待つというグルートのいやらしい判断を前に、彼の撃退を諦めるマルコスたちであったが……唯一セツナだけが彼らとは違う判断をしていた。
「あら、絶対に諦めないことがヒーローの条件じゃなかったの? ちょっと逃げに回られただけで撃退を諦めるだなんて、私って信頼されてないのね」
「え……?」
そう呟きながら再び弓を構えたセツナが、グルート目掛けて矢を射かける。
また単調な射撃かと滑空してそれを回避する彼であったが……段々と飛来する矢が自分の動きを捉え始めていることに気付き、息を飲んだ。
(なんだ? 急に狙いが正確になって……!?)
「……牽制してたのは敵だけじゃない。さっきまでの射撃は、相手の動きや最高速度を知るための布石。もう十分にデータは取れた」
小回り。動きの癖。最高速度。そういったグルートの情報を短い時間で集めたセツナが、矢を連続して彼に射かける。
徐々に自分の体を捉え始めた矢に対して、プレッシャーを感じるグルートであったが、ギリギリのところで体をよじったりしてどうにか回避を続けていた。
(くそっ! もう少し距離を取るか? いや、そこまでいったら相手へのプレッシャーがなくなる。シーホースの治療どころかビランと戦ってる奴に援護が行くかもしれねえ……!)
今度は彼が判断に迷う番だった。
安全地帯で動いていたはずが、セツナの技量によって組み立てていたプランが崩壊しつつある。
これ以上の距離を取ればボートの面々が自由に動けてしまうし、かといってリスクを抱えた行動をすれば自分が撃墜される可能性が跳ね上がってしまう。
どう動くのかが正解なのかと考えようとしたグルートであったが、そんな思考を吹き飛ばすような衝撃が彼を襲った。
「あっ、ぐああっ!? な、なんだっ!?」
見えた矢を回転して避けたはずが、強い衝撃が体に走った。
思わず悲鳴を上げ、何が起きたのかわからないが故の疑問を口にした彼は、回転しながらどうにか体勢を立て直し、上空へと舞い上がる。
「今の攻撃は、いったい……!?」
明らかに異質な攻撃だった。点を貫くはずの矢での攻撃が、面に叩き付けるような衝撃となって自分の体を襲ったのだ。
まるで急に矢が拡散したような……そんなふうに状況がわからずに徐々に後手に回っていくグルートの姿をボートの上から見つめるセツナは、薄く笑みを浮かべながら呟く。
「流石ね、ユーゴ。あなたのアドバイス、役に立ってるわ」
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