魔鎧獣の連携を崩せ!

「バ~カッ! おせえんだよっ!! キシャシャッシャッ!!」


「っっ!?」


 海中から勢いよく飛び出してきた魔鎧獣……全身緑色の、鋭い牙を生やした魚人が甲高い声で叫ぶ。

 魔鎧獣は乗客たちを落ち着かせるためにボートの上で立って指示を出していたライハに狙いを定めると、鋭利なカッターのようになっているヒレを生やした腕を振り上げながら彼女へと飛び掛かっていき、そして――!!


「ちっ……!」


「りゅ、リュウガさんっ!?」


 ――大きく腕を振りぬいた魔鎧獣であったが、標的であったライハの顔面を切り裂くことはできなかった。

 代わりに、彼女の盾になるように飛び込んできたリュウガの背中を斬り付けると、即座に海の中へと飛び込んでいく。


「リュウガさん! な、なんで私を……!?」


「……僕に質問するな」


「お怪我は!? 傷を負っているのなら、私に見せ――」


「質問するなと言っている。今はそんな状況ではないだろう」


 心配するライハの言葉をバッサリと斬り捨てたリュウガが魚人が消えていった海中を睨む。

 魔力障壁のおかげでダメージはそうでもなかったが、不意を打たれたら人の首くらいは簡単に斬り飛ばせそうだった今の一撃の鋭さを彼が思い返す中、二体の魔鎧獣がゆっくりと並ぶと共に楽し気に会話をし始めた。


「ひひひひひっ! 楽しくなってきたな、ビラン! 逃げ場のない獲物を狩るってのは、本当に楽しいぜ!!」


「だなぁ! 手に入れたこの力、存分に楽しませてもらおうぜ! グルート!!」


「ビランって、まさか……!?」


 自分たちにシージャックを仕掛けたことを報告しにきた緑色のモヒカンヘアーの男、ビラン。

 色合い的に考えて、魚人の方の魔鎧獣が彼なのだろう。


 もう片方の鳥の魔鎧獣が彼の相棒的存在であるグルートで、空中と海中からの攻撃を仕掛けてくる彼らのコンビネーションは抜群だ。


「鳥の方はそのままBirdだろう。魚の方は……サメのSharkか?」


「いや、おそらくピラニアPiranhaだ。サメとは少し、形状が違う」


 彼らが使っているクリアプレートを看破した一同であったが、状況は特に変わらない。

 あの二体の魔鎧獣の相性は抜群で、こちらを着々と追い詰めてきている。


「メルト! 私が牽制するから、今のうちにシーホースたちの怪我を治してあげて!」


「待て! 海中の魔鎧獣を倒さない限り、いたちごっこになるだけだ! まずは奴を倒さないと!」


「ライハ、お前の雷で奴を始末できないか?」


「無理です! それをやると、船を引いてくれているシーホースたちにも攻撃してしまいます!」


「ほらほらほら、どうする!? 考えろ、考えろっ!!」


「時間はどんどんなくなっていくぜ~? 急がないと、手詰まりになっちまうぞ~!」


 空中のグルートに攻撃すると、海中のビランへの攻撃がおざなりになる。

 かといって海中のビランの攻撃をどうにかしようとすると、それをさせじと空中からグルートの攻撃が飛んでくる。


 こちらの攻撃が届きにくい別々の場所から、厄介極まりない手を打ってくる魔鎧獣たちの動きに、マルコスたちは徐々に追い詰められてしまっていた。


「マズいぞ。このままシーホースが力尽きたら、海のど真ん中で身動きが取れなくなる……!!」


 おそらく、警備隊の船はビランによって破壊されている。だから彼らも駆け付けられないのだろう。

 ここでシーホースがダウンすれば、文字通り船は身動きが取れなくなり……逃げ場のない海上で孤立無援の状態になってしまう。


 そうなった時に迎える末路を想像したマルコスが険しい表情を浮かべる中、何かを考えていたリュウガが深いため息を吐くと共に小さな声で呟いた。


「……やるしかない、か」


「え……?」


 ゆっくりと立ち上がったリュウガが、意識を集中させていく。

 海中のビランの気配を探り、敵の位置を突き止めているのだと感じ取ったライハが彼を見つめながら先の呟きの意味を徐々に理解し始める中、リュウガはマルコスへと言った。


「まずは奴らの連携を断つことだ。そうすれば、隙が生まれる。マルコス、僕が魚の相手をするから、その間にシーホースを回復させて、陸地を目指してくれ」


「何……?」


「待ってください、リュウガさん! あなたは、まさか――!?」


 魚の相手をする、そんな彼の発言の意味を悟ったライハが口を開いた次の瞬間、ビランが海中から飛び出してきた。

 乗客たちに襲い掛かろうとした彼であったが、それよりも早くに風のように動いたリュウガがボートを飛び移り、魔鎧獣にタックルを食らわせる。


「ぐあっ!? な、なんだとっ!?」


「リュウガさんっっ!!」


 できる限りボートから引き離すように、強く強く床を蹴ったリュウガがビランと共に海中へと消えていく。

 ざぶん、と音を響かせながら水中に飛び込んだ彼は、自分から離れてこちらを睨むビランの前で刀を抜いた。


「ははっ……! お前、まさか海の中で俺と戦う気か? 勝てると思ってんのかよ!? ええっ!?」


「………」


 どうやらビランはリュウガと違い、水の中でもしゃべれるようだ。

 他にもクリアプレートの力で海中でも呼吸ができる上に機動性も抜群な彼に対して、リュウガは重いハンデを背負って戦うことになる。


 しかし、誰かがこの役目を引き受けるしかなかった。乗客たちを救うためには、二体の魔鎧獣たちの連携を崩す必要があった以上、不利を承知でこうする他ない。

 間違いなく、自分の相棒ならば迷わずに海の中に飛び込んだだろうと思いながら……リュウガは、仲間たちのために無謀な戦いに臨むのであった。

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