急襲!B&P!!
「……おかしい。何かが変だ」
場面は変わり、海上。二隻の遊覧船の乗客たちを引き連れてボートで脱出したリュウガが、陸の方角を見つめながらそう呟く。
現在、二つのグループに分かれて行動していた彼らは一時合流し、ボートをエレナが操るシーホースに引っ張ってもらって陸地を目指している真っ最中だ。
遊覧船の中ではそれぞれアンヘルとサクラが第二陣の脱出準備を進めており、今も予断を許さない状況である。
「おかしいって、どうかした? 何が変なの?」
そんな状況の中でリュウガが呟いた一言に反応したメルトが彼へと問えば、リュウガは険しい表情をしたままこう答える。
「警備隊の船が来ない。僕たちが乗客を連れて脱出したら、あちらも援護のために船を出してくれるという話だったのに、まるでその姿が見えないんだ」
普通にリュウガが質問に答えてくれたことに安堵しつつ、彼の言葉に状況の奇妙さを理解し始める一同。
シーホースたちも頑張ってくれているが、かなりの人数を乗せたボートを数隻引っ張っているせいでスピードもそこまで出ておらず、苦戦しているのは見て明らかだ。
「何かトラブルでもあったのか? しかし、一隻も船が動いていないというのはおかしいが過ぎるぞ」
何か予想外の事態が起きて、警備隊の船が動かなくなったという可能性はある。
しかし、それでも一隻も船が動いていないというのは、偶発的なトラブルが起きた結果というのは考えにくいとマルコスが呟いた瞬間、ボートの頭上に影が走った。
「っっ!? マルコスっ!!」
「わかっているっ!」
直後に走った嫌な予感に即座に反応したリュウガとマルコスがそれぞれの武器を振るう。
リュウガが刀を振り、マルコスが盾を構えれば、甲高い音と共に何かが弾かれる音が二度、連続して響いた。
「い、今のは!?」
「僕に質問をしなくてもわかるだろう。敵の攻撃だ!」
血相を変えたライハの言葉に、警戒を強めながら叫ぶリュウガ。
ハッとした一同が視線を上に向ければ、そこには巨大な翼を羽ばたかせて飛ぶ鳥人の姿があった。
「おいおい、そう簡単に脱出できるとでも思ってたのか? もうちょっと遊んでけよ、なあっ!?」
「……サイ人間に炎女、暴力男に油婆ときて、お次は鳥人間か。まったく、バリエーション豊富で飽きないよ」
全身を茶色の羽毛に覆われたその鳥人間は、鋭く尖ったくちばしを歪めながら不気味に笑っている。
宙に浮かぶ魔鎧獣が広げた羽を閉じ、再び広げれば、そこから無数の羽が弾丸のようにボートへと降り注いできた。
「エレナ! 最大速度でかっ飛ばせっ! 急いで陸まで逃げるんだっ!」
そう吠えたマルコスが盾を構え、そこに溜まった魔力を解き放つ。
黄金の衝撃をギガシザースから放つことで雨のように降り注ぐ羽の弾丸を弾き飛ばした彼の姿に、魔鎧獣は感心したように笑いながら口を開いた。
「ひゅ~っ! なるほどねぇ! 守りはバッチリってか? おおっとっ!?」
攻撃を防がれた直後、自分に向けて飛来した矢と紫の剣を目にした魔鎧獣が大きく回避行動を取る。
ボートの上で構えを取るセツナとメルトは、自分たちの攻撃が避けられたことに悔し気な表情を浮かべていた。
「くっそ~っ! 避けられた!」
「でも、こうして私たちが攻撃を続けていれば、十分な牽制になるはずよ。ボートを守るためにも、撃って撃って撃ちまくりましょう!!」
鳥の魔鎧獣を仕留めることはできずとも、攻撃を続けていれば相手も自由に動けなくなるはず。
威力と射程距離に優れたセツナの矢と、手数に優れたメルトの魔力剣での牽制を繰り出し続ければ、その思惑通りに相手は回避で精一杯になり、先ほどのような羽の弾丸での攻撃を繰り出すことができなくなっていた。
「よし! この調子だ! このまま陸地まで辿り着ければ……!!」
相手の攻撃を妨害しつつの逃走が上手くいっていることに拳を握り締めたマルコスが頷きながら言う。
苦し紛れの攻撃は自分が防げば問題ないと、この調子ならば警備隊の手を借りずともこのボートを安全地帯まで届けることができると、そう確信する彼であったが、リュウガはこの状況に違和感を募らせていた。
(何だ、この違和感は? 何かを見落としているような……?)
ここまでの作戦は警備隊が来ないことを除けば上手くいっている。しかし、何か重大な見落としをしているような気がしてならない。
いったい、自分は何を忘れているのか……? とリュウガが思考を巡らせようとした瞬間、全力疾走していたボートの動きが不意に止まった。
「エレナ、どうした!? ボートが止まっているぞ!?」
「わかんない! 急にみんなが動きを止めっちゃったの!!」
突然、ボートを引いていたシーホースたちが揃って動きを止めたことに困惑するエレナ。
ここまで頑張り過ぎたせいでスタミナが切れたのか……? と一同が困惑する中、リュウガは海中からゆらりと立ち上る赤い血を見て、目を見開いた。
(しまったっ!!)
自分たちが意識を向けてしまっていた鳥の魔鎧獣は、囮だ。本命は別にいる。
犯人グループの数は五人。残りの一名は既に動き出し、救出に動こうとしていた警備隊の船を破壊していたのだ。
そうして、もう一体の魔鎧獣と協力し、ボートに乗る自分たちの意識を上に向けさせた状態で急襲を仕掛ける。
敵の本命は、最後の魔鎧獣の居場所は……と、全てを理解したリュウガが叫ぶのと、ライハのすぐ近くの海面に水柱が立ち昇ったのは同じタイミングだった。
「海中だっ! 水の中にもう一体の魔鎧獣がいるっ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます