その傷は誇り
「……ふっ。何を言うかと思えば、そんなことか。だからなんだ? くだらないことを考えている暇があったら、戦いに集中しろ!」
ユーゴの言葉にわずかに押し黙ったゴメスが、そう吠えながら銛を繰り出す。
クリアプレートの能力で強化されたその一突きはかなりの威力を誇っており、直撃すればただでは済まない攻撃であったが……ユーゴはそれを回避せず、真っ向から受け止めてみせた。
「なっ……!?」
ユーゴのまさかの行動を目の当たりにしたゴメスが、手に伝わる衝撃を感じながら目を見開く。
手応えから察するに、彼は直撃したと見せかけて突きの破壊力が最大に高まる寸前で攻撃を受けてみせたと感じ取ったゴメスが、敢えて攻撃を受けるという防御方法に呆気に取られる中、ユーゴは両手でその棒を掴むと、思い切り腕に力を籠めた。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
「うっ!? ぬおおっ!?」
ゴメスの武器を掴んだユーゴが、そのまま背負い投げを繰り出すように棒を振り回す。
その勢いに、力に、体格に優れるはずの自分が力負けし、棒ごと持ち上げられて船の甲板に叩き付けられたことに驚くゴメスは、両手を武器から放してしまった。
甲板をバウンドし、転がった後、急いで体勢を立て直すゴメス。
そんな彼から武器を奪ったユーゴは、それを暫し見つめた後、遠くへと放り投げる。
「……何故、奪った武器を利用しない? そのブラスタには、武器生成機能が付いているだろうに」
ユーゴが使うブラスタの機能については、フィーから話を聞いていた。
彼がその気になれば、ゴメスの武器を剣でも棍にでも変形させて有利な状態で戦いに臨めていたはずだ。
そうしなかったユーゴへと、ゴメスが質問を投げかけてみれば……彼は真っすぐにこちらを見据えながら、こう答えてみせた。
「必要ないからだ。俺は、あんたが何でこんな真似をしたのかを知りたい。それを知らなくちゃいけないんだ」
「………」
ユーゴのその答えに、ゴメスが静かに口を閉ざす。
強引に話を聞きだすのではなく、説得によって話をし、仮にそれが解決可能な問題ならば戦いを止めようという彼の意思が感じ取れる今の言葉にゴメスが目を細める中、ユーゴが言う。
「ゴメスさん……もしもあんたがさっき話したように元ヒーローという立場に飽き飽きしてるっていうのなら、クリアプレートがそんな力を与えるわけがない。現役時代、この島を守るために負った傷を力に変える能力に目覚めるわけがないんだ」
「……!」
「だってそうだろ? ヒーローとしての自分を否定するってことは、その傷を否定するってことのはずだ。でもあんたは今、その傷を力に変えて俺と戦ってる。あんたにとってその傷は、愛する島を守り抜いた証であり、ヒーローとしての誇りなんだよ!」
【S】のクリアプレートを持つゴメスだが、別に
むしろフィッシャーマンである彼ならば、ウインドアイランドを囲む海の力を持つ『Sea』の能力を得ていた方が自然だろう。
しかし、彼はそうならなかった。自分の中のイメージが、彼を受けた傷を力に変える能力に目覚めさせた。
もしもヒーローとしての自分を、その戦いの中で受けた傷を忌み嫌っているのならば、そんな能力を得るはずがない。傷を力に変えるということは、彼はヒーローだった自分を誇りに思っているのだと……そんなユーゴの言葉に、ゴメスは何も言い返せずにいる。
「シェパードさんも、フィーも、この船に乗り合わせた人だって……みんなそうだ。誰もあんたが本気で悪人になったなんて思っちゃいない。誰もがあんたを信じてるんだよ! それは俺も同じだ! なにか理由があるんでしょう!? だったら、それを話してくれよ!!」
「……それを聞いてどうなる? 聞いたところで、何ができるっていうんだ?」
「わからない。だけど俺は、何も知らないままあんたを倒すことなんてできやしない!」
どこまでも真っすぐで甘くて、温い。しかし、これが若さかとユーゴの叫びを聞いたゴメスが小さく笑う。
そうした後、握っていた拳を解いた彼は、ユーゴを見つめ返しながら口を開いた。
「……若いな。そして甘い。そんなお前だからこそ、俺は特に理由を話したくなかった。これを言えば、お前が本気で戦えなくなることがわかっていたからな」
「えっ……!?」
明らかに雰囲気が変わったゴメスの言葉に、ユーゴが目を見開く。
そんな彼に対して、ゴメスは静かに語り続ける。
「お前の言う通りだ。これは、俺の本意じゃあない。このシージャックに関しても、俺は計画した連中に協力させられているだけだ」
「いったい、どうして……!?」
やはりこの悪事はゴメス自身が望んで起こしたものではなかったのだと、そう理解したユーゴが理由を問う。
やりたくもない犯罪行為に、どうして手を貸したのか……? 彼の質問を受けたゴメスは、悲壮感が籠った声でこう答えた。
「……孫娘が、人質に取られている。あの子を助けるためには、こうするしかないんだ」
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