ヒーローの勲章
「ロレンスとアムムがやられたか。いい仲間がいるみたいだな」
「………」
舞台は再びサンライト号の甲板へ移る。
そこで戦うユーゴとゴメスは、戦いが決着した雰囲気を感じ取ると共にその勝敗をも理解したようだ。
仲間が倒されたはずなのにどこか嬉し気な様子にすら見えるゴメスを見つめながら、ユーゴはやはり彼が本意からシージャックに手を染めたわけではないということを感じ取るも、ゴメスは戦いの手を止めようとはしない。
「ふふっ……! まあ、そんなことは俺たちには関係ない。あいつらの戦いと俺たちの戦いは、別のものなんだからな」
「っっ!?」
言うが早いが、ゴメスが攻撃を仕掛けてきた。
手にしている武器……長い棒状の得物を一直線に突き出すゴメスの一撃を何とか回避したユーゴは、カウンターとしてパンチを無防備な胴へと叩き込む。
「ふっふっふ……! いいパンチだ。しかし、まだ迷いが見えるな」
「くっ……!」
ゴメスの言った通り、ユーゴが放ったパンチは相当な威力を誇っていた。
並みの相手ならば倒すまではいかずとも、間違いなくよろめかせるくらいはしたはずだ。
しかし、ゴメスはそんなユーゴの一撃を受けても平然としている。
魔鎧獣として強化されたこともあるだろうが、元から強靭を誇る巨体の彼はタフネスも常人離れしているのだ。
流石はウインドアイランドの元ヒーロー、危険な魔物たちと戦いを潜り抜けてきたその実力は尋常ではないということか。
そして、このゴメスのタフさが彼が使用するクリアプレートの能力と抜群の相性を見せている。
「次は、こちらの番だなっ!!」
(マズいっ! また来るっ!!)
そう吠えたゴメスの体から、赤いオーラのようなものが迸る。
まるで殴られた場所から血があふれているような、そんな相手の姿を見たユーゴがとっさに回避行動を取れば、一瞬遅れてそこにゴメスの棒による突き攻撃が繰り出された。
ごしゃっ! という音が響いて、背後の壁に綺麗な穴が開く。
次の瞬間、その穴を中心として強烈な衝撃が走り、壁全体にひびが入ったかと思えば、ガラガラと音を立てて崩れ落ちてしまった。
「ふふふ……! また避けられたな。歳のせいにはしたくないが、魔鎧獣になってもスピードはお前の方が上らしい」
(最悪だ……! ゴメスさんとあのクリアプレート、あまりにも相性が良過ぎる!)
攻撃を避けられたとしても楽し気な態度を見せるゴメスは、再び銛を構えるように武器を持つとユーゴへとその先端を向けた。
そんな彼の姿を見つめながら、ユーゴは心の中でゴメスと彼のクリアプレートとの相性の良さに冷や汗を流す。
Scar……傷跡を意味するその言葉。その力を得たクリアプレートの能力は、ダメージを使用者の力に変えるというものだ。
先の壁を粉々に粉砕した攻撃も、ユーゴから受けたダメージを攻撃力に変換して放ったもの。ただでさえ強力なゴメスの攻撃が、クリアプレートの能力によって威力を上乗せされていると考えただけで寒気が走る。
戦えば戦うほど、相手に攻撃を仕掛ければ仕掛けるほどに……ゴメスは強くなっていく。
ダメージを蓄積させていっても常人離れしたタフネスを誇る彼は簡単に倒れてはくれなくて、彼が立ち続ける限りはクリアプレートの能力で強くなっていって……と、能力と彼自身の特性が文字通りベストマッチしているのだ。
(ゴメスさんはそう簡単に倒れてはくれない。いったい、どうすれば……!?)
先日、戦った炎の魔鎧獣やサイの魔鎧獣とは根底から違う。正真正銘、相性抜群の力を得たゴメスは、彼らとは一線を画す存在だ。
この強敵を相手に、どう立ち向かえばいいのかとユーゴが考える中……小さく笑ったゴメスが彼へと言う。
「何を迷っている、ユーゴ。俺の倒し方なんて、簡単にわかるだろう?」
「……!」
「細かなダメージを重ねていっても意味はない。俺はすぐに回復するし、ダメージを受けた分、強くなる。ならば方法は一つ……強力な攻撃を叩き込み、一撃で倒す。これしかない」
「っっ……!!」
敵であるゴメスからの助言に、ユーゴが息を飲む。
彼が述べた戦い方を思い付いていなかったわけではない。ただ、どうしてもそれをしたくなかったから、選択肢から排除していただけだ。
「……まだ迷っているのか? 俺は犯罪者であり、お前の敵だ。フィーが言う通り、お前がヒーローだというのなら……俺を倒すべきだ。違うか?」
「………」
戦いを始める前にも言った言葉を、繰り返すゴメス。
彼の言葉を受けたユーゴがじっと視線を向けながら押し黙る中、ゴメスはさらに続ける。
「迷うな、ユーゴ。お前が迷えば迷っただけ、戦いが長引く。そうなれば助けられたはずの人間が傷付き、犠牲が出る。相手の事情など考えるな。何事にも動じない、鉄の男になれ。ユーゴ!」
――自分を倒せと、情に流されるなと、そう助言するゴメスを見つめていたユーゴが、握り締めていた拳を解く。
戦いの構えを解いた彼の姿にゴメスが目を細める中、顔を上げたユーゴは何度も首を横に振りながら言った。
「やっぱり俺は、あんたが悪い人だとは思えない。あんたの行動と無意識の全てが、この島とここに生きる人たちを愛してるって叫んでる」
「……急に何を言い出したかと思えば、そんなことか。確かに俺はこの島を愛しているが、魔鎧獣となった今ではそんなこと――」
「違う。魔鎧獣になってもだ。あんたのその姿と能力が、あんた自身の想いを表してる」
黒い体に無数に刻まれた銀色の傷。魔鎧獣へと変身したゴメスの姿を見つめながら、ユーゴはそう言い切った。
その言葉に今度はゴメスが押し黙る中、ユーゴは話をし始める。
「あんたにとってその傷は誇りだ。そうなんだろう、ゴメスさん!?」
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