拙者より強い奴に会いに行く
「喰らいなさいっ! オイル・バレット!!」
両腕を開いたアムムが、手の中に細かな油の弾丸を作り出す。
体格とポーズも相まって、まるで相撲取りが土俵入りしているようにも見える動きから攻撃を繰り出す彼女であったが、サクラは慌てずに腕を振り、海の水を利用して作った盾でそれを防いだ。
「なあっ!?」
「先ほども言ったでござろう? 拙者は水の龍を奉る家の人間だと……気を静めなければならぬため、薙刀は振るえないでござるが、周囲にこれだけ大量の水があれば、何も問題はないでござるよ」
「おおっ! いいぞ、姉ちゃん!! その調子でアムムをやっつけちまえ!!」
「格好いいわよ~っ!!」
「こここここ、こんのぉぉ……っ! なんであたしより目立ってるのよ!? 若くてかわいいだけの小娘のくせに! それ以外に取り柄なんてないくせにぃぃぃっ!!」
「いや、拙者は家柄もいいでござるし、お淑やかな大和撫子でござるし、何より強いでござる! 若くてかわいい以外にもいっぱい取り柄があるでござるよ!」
「ムカつくぅぅぅぅっ!! 心の底からそう信じて言ってる感が本当にムカつくぅぅぅぅっ!!」
自堕落かつ乱れた食生活やわがままな性格から生み出される強いストレスによって若い頃の美貌を失ったアムムにとって、若く美しく青春を謳歌しているサクラはこの上ない嫉妬の対象であるようだ。
それに加え、彼女自身の天然っぷりから繰り出される無意識の煽りによって怒りを爆発させたアムムは、全身から垂れ流す油よりもどろりとしているねちっこい嫉妬を燃え上がらせながら叫ぶ。
「調子に乗るんじゃないよ!! 海上に出てきた時点でね、あんたはあたしのテリトリーに入っちまってんのさ!! 足元を見な!!」
「むっっ!?」
そう言われたサクラが自身の足元を見れば、海面が妙な光の反射の仕方をしている様が目に映った。
自分の周囲に、油が散布されているのだと……そう気付いた彼女へと、アムムが得意気に言う。
「ひ~っひっひっひっ! 気付いたかい? もうお前の周囲には、ギットギトの油が大量にばら撒かれてんのさ!」
「醜く肥えた
「いい加減に嫌味を言うのを止めなっ!! 本当に腹立つガキだね……! その減らず口、すぐに叩けなくしてやるよっ!!」
そう言いながら、アムムが指先に炎を灯す。
ライターに灯るような小さな炎であったが、火種としてはそれだけでも十分だ。
「あたしを馬鹿にしたことを後悔させてやる! 燃え尽きろ、クソガキっ!!」
そのまま、アムムがバースデーケーキに刺さったろうそくの炎を吹き消すように息を吹きかけ、炎を自身が放った油へと落とす。
次の瞬間、油に引火した炎が一気に燃え上がり、まるで生き物のようにサクラへと襲い掛かっていった。
「さ、サクラちゃんっ!!」
「あっはっはっはっはっ! 燃えなさい! あたしを馬鹿にする奴は全員こうしてあげる! 次はあんたらの番よ! 全員まとめて船ごと焼き尽くしてあげるわ!」
一瞬にして炎に巻かれ、姿が見えなくなったサクラを嘲笑いながらアムムが叫ぶ。
ごうごうと音を響かせ、抵抗もできないままに燃やされるサクラの姿を楽しんで見つめながらムーンライト号の乗客を脅した彼女は、炎が消えると共にそこにサクラの姿が消えている様を目にすると、鼻を鳴らしながら言った。
「はんっ……! どうやら燃え尽きて灰になっちまったみたいだね! あたしを馬鹿にするからこうなるんだよ! ……うん?」
燃え尽きたサクラは灰になったか、あるいは海に沈んだかどちらかだろうと考え、勝利を確信するアムムであったが……どこからか、妙な気配を感じ、背筋を震わせた。
何かが妙だと思いながら周囲を見回すも、特におかしいところはなくて……しかし、違和感はどんどん強まっていき、嫌な予感もまたそれに比例して強くなっていく。
(な、なんだい、この感覚は? あたしは何に怯えて――!?)
じりじりと何かが迫っていることを感じながら、その正体がわからないことに恐怖するアムムは、きょろきょろと自分に迫る脅威を探ろうとしていたのだが……そこで、ぐらりと足元が揺れた。
地震など起きるはずのない海上で、なぜ足元が揺れたのかと驚いて視線を真下に向けた彼女は、海中から自分を睨む鋭い視線に気付き、息を飲む。
「ひっっ……!?」
「雨宮流体術奥義・
「ごぺええええええええええええっ!?」
アムムがその視線に気付いた時には、何もかもが手遅れだった。
クジラの潮吹き、あるいは間欠泉が吹き上がるように海中から水の柱が立ち昇り、それと同時に繰り出されたサクラの拳が彼女の顔面を捉える。
上昇の勢いに回転も加えた、なんだかどこかで見たことがあるような技を魔鎧獣の顔面に叩き込んだサクラがその勢いのままに宙を舞う中、彼女に殴り飛ばされたアムムもまた綺麗に宙を舞う。
ぽーんと放物線を描いて吹き飛んだ彼女はムーンライト号の船体に叩き付けられ、多くの乗客たちが見守る前で海に浮かんだまま気絶してしまった。
「残念でござったな。海を舞台に戦おうとした時点で、貴様は拙者の領域に踏み込んでいたでござるよ。拙者のホーム、ホー、ホ……あれ? まあ、いっか! とりあえず拙者の勝ちでござる!」
「……多分、ホームグラウンドって言おうとしたんでしょうね」
「ああ、そうだろうな」
海上に仁王立ちし、胸を張って高笑いするサクラを見つめながら、彼女に倒されたアムムとクリアプレートを確保しながら、緩いツッコミを入れるライハとリュウガ。
どこまでも能天気かつ力技で全てを解決した彼女へと呆れた視線を向けるリュウガは、大きなため息をこぼしながら呟くのであった。
「……あれのどこがお淑やかな大和撫子だ。辞書を引いて意味を調べ直してこい」
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