通常攻撃がクソ強くて格好いい爆乳お姉さんは好きですか?
「おーおー、如何にも悪役っぽいことを言うじゃないか。こんなに可憐でかわいい女子をミンチにするだなんて、血も涙もない奴だね」
ゴリラのような風貌になったロレンスからの脅しを受けても、アンヘルは飄々とした態度を崩さないでいる。
これは敢えて挑発をすることで彼の意識を自分にのみ向けさせようという彼女の思惑であり、短気なロレンスは見事にその思惑に嵌っていた。
(ぶっ殺す! リーチもパワーも俺の方が上なんだ! たとえぶん殴られようとも、その後でこいつをギタギタにしてやる!!)
散々殴られたおかげで、アンヘルのパンチの威力もわかってきた。
痛いし苦しいが、受け入れようと思えば我慢することだってできる。その後でこちらの攻撃を叩き込めると考えれば、パンチの一発くらいは食らってやろうではないか。
「死ねっ! 死ねっ! 死ねぇぇぇぇっ!!」
咆哮、からの突進。学ばないと言えばそれまでだが、今回はロレンスも攻撃に全ての意識を傾けているわけではない。
一発は耐える。そこから、お返しの一撃を叩き込む。
無茶苦茶ではあるが、頑強な肉体とそこから一段変質させた剛腕を持つ彼にとってはこの上なく効率的な戦法なのかもしれない。
(さあ、来い! もうお前のパンチには慣れた! 耐え切って、お返しの一撃で沈めてやるっ!!)
アンヘルのパンチは重いが、それが故に連撃では繰り出せない。
一発、ただ一発耐えるだけでいい。それで自分の勝ちが決まる。
警戒してガードを固めるのならそれでもいい。その上から、この拳で叩き潰すまで。
カウンターを狙ったとしても、拳のリーチならこちらが上だ。つまり自分が負けることなんて、絶対にありえない。
あらゆるルートにおいての対策とその先に続く勝ちパターンを想定したロレンスは、握り締めた拳を思い切り振り上げた。
後はこれを振り下ろし、訪れるかもしれない痛みに耐えながら目の前の憎い女をぶん殴るだけ。
勝った……! そう、心の底から思ったロレンスは勝利を確信すると共に拳を繰り出し、そして――!!
「ぽぐぇ……っ!? お、ぽ……?」
――次の瞬間、くぐもった呻きを上げながら動きを止めた。
その間抜けな声がどこから発せられたものなのか、彼には理解できなかった。
一拍遅れて、腹部に鈍い激痛が走ったことに気付いた彼は、覚悟を決めていたはずの自分が痛みによって動きを止め、今の情けない呻きを上げたことにも気付く。
「……一つ、言い忘れてた。アタシの【
そう語るアンヘルは、半身になってミドルキックを繰り出している格好で止まっていた。
突き出された右脚がロレンスの腹に深々と突き刺さり、彼に甚大なダメージを与えている。
「【
「こ、の……っ! おげぇっ!?」
ゴムでできた長靴のように黒く輝くブーツの効果を見せつけたアンヘルが、得意気に笑いながら言う。
自分が切り札を切ったように、彼女もまた見せていなかったカードがあったことを理解したロレンスだが、もうこの時点でほぼ決着はついていた。
アンヘルの言うように、脚の力は腕の三倍。単純計算で、ロレンスは耐えようと思っていた攻撃の三倍の痛みに襲われたことになる。
そして、アンヘルはブーツの力で脚力を強化し、蹴りを繰り出していない側の脚で強く踏ん張っていた。
これにより彼女は一本のつっかえ棒のような状態になり……ロレンスは、自らそこに突っ込んでいった形になったのである。
単純に三倍強い一撃を、自分の突進の勢いを利用したカウンターとして叩き込まれた。
肉体的、精神的にも決定打を受けたロレンスが意識を朦朧とさせる中、隙だらけの彼へと一歩踏み込んだアンヘルが息を吐く。
「ふぅぅぅぅぅ……っ!!」
気を練り、魔力を高め、拳に意識を集中させる。
脳裏に浮かぶのはユーゴからのアドバイス。決定的な一撃を決める際に意識すべき、重要なこと。
『え? パンチの打ち方? う~ん、重心の移動とか脱力とか、色々意識することはあるけどさ……やっぱ大事なのは気合いだな、気合! 特に必殺技を出す時は、絶対に勝つ! って心を燃やしながら、大声で叫ぶのが大事だぜ!!』
ドンッ! と力強い踏み込みを見せ、右拳を固く握り締める。
特訓で学んだこと、教えてもらったことをすべてその拳の中に込めながら、アンヘルは目の前の魔鎧獣へと強烈な一発を叩き込んだ。
「ユーゴ直伝! ブラスター・パァァァンチッ!!」
「ぽげぇぇええぇえええええええぇえっっ!?」
真っ向から顔面をぶん殴られたロレンスが、綺麗に吹っ飛ぶ。
船の壁を突き破り、海上を水切り石のように何度もバウンドし、最終的に砂浜まで吹き飛ばされた彼はごろごろと激しく転がった後で白目を剥いて気絶してしまった。
警備隊が彼の身柄とクリアプレートを確保する中、パンチを繰り出した後のポーズから髪をかき上げながら体を起こしたアンヘルが呟く。
「……しまったな。自分で言うのもなんだが、格好良過ぎる。こりゃあ、純粋な少年たちの性癖が狂っちまうな」
パタパタと、戦いの熱気を排出するようにつなぎ服のチャックを少し下ろしたアンヘルが、仲間たちの中でも随一の大きさを誇る胸の谷間を曝け出しながら振り返る。
そこで固唾を飲んで戦いを見守っていた初等部の男子たちへと視線を向けた彼女は、笑みを浮かべながら彼らへと言った。
「すまんな、子供たち。明日からつなぎ姿の格好いい爆乳お姉さんにしか恋できなくなっちゃうかもしれないが、許してくれよ?」
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