ゴメスとユーゴ
「こちらユーゴ、無事にサンライト号に到着した。そっちはどうだ、相棒?」
『こちらも問題なくムーンライト号に乗り込めたよ。本番はここからだ、気を引き締めていこう』
ゴメスたちが待つサンライト号に乗り込んだユーゴは、通信機を使ってもう一隻の遊覧船、ムーンライト号に乗り込んだリュウガに連絡を取った。
ここまでは問題なく動けたが、リュウガの言う通り本番はここからだ。
特にユーゴには、ゴメスとの戦いが待っている。
相手は第一線を退いた人物といえど、警備隊の面々からヒーローと称えられている人物だ。決して油断などできない。
それ以外にも、彼の仲間である四名のクリアプレート所有者が船に潜んでいるはずだ。
気を抜く暇なんてありはしないと考えるユーゴへと、同じく船に乗り込んだアンヘルが声をかける。
「ユーゴ、アタシとメルトは人質を探して、船に積まれてる避難用のボートで脱出する。ボートに何か仕掛けられてないか確認するのに時間がかかると思うから、どうにか話を引き延ばして時間を稼いでくれ」
「わかった。マルコス、ついて来てくれるか」
ユーゴ、マルコス、メルト、アンヘル。それが、サンライト号に乗り込んだメンバーだ。
ムーンライト号にはリュウガとサクラ、ライハが乗り込み、セツナはエレナとシーホースの護衛のために海上に残っている。
この少数のメンバーで人質の脱出支援をしつつ、クリアプレート所有者たちの相手をしなければならないユーゴたちにとって、ゴメスとの約束は非常に重要な意味を持っていた。
彼とユーゴとの戦いが始まるまで、他の四名は手を出さない……つまりは戦いが始まる時間が長ければ長いほど、こちらも準備を整えやすくなるというわけだ。
その間に人質を見つけ、警備隊も支援準備を整え、一気に脱出する。
ベストな形を作るためには、できる限り時間を稼ぐ必要があると……その鍵を握っているユーゴは、アンヘルの言葉に頷くと共にマルコスを伴い、ゆっくりと船の甲板を目指して進んでいく。
「やはり、甲板までの道のりに人質を捕えている部屋はないか」
「普通に考えりゃ逆……機関室とかの下の方の部屋だろうな」
緊張を紛らわすための会話を重ねながら、階段を上る二人。
じりじりと伝わってくるプレッシャーから待ち受けるゴメスの力量を悟るユーゴたちは、それを感じながらも甲板につながる扉を開けた。
「……来たか」
扉を開けた先、船の前方でフィーとユイを伴って座していたゴメスは、到着したユーゴの姿を見て静かにそう呟いた。
直後に立ち上がった彼は、改めて二人を見てから目を細め、口を開く。
「……兄弟なのに似てないな。ただ、どっちがユーゴかはわかる。赤髪のお前だろう? もう一人はマルコス・ボルグか。お前もクリアプレートを持ってる奴を倒したんだってな?」
フィーからユーゴだけでなく、マルコスの話も聞いていたであろうゴメスが静かに笑みを浮かべる。
自分と同じ力を持つプレート所有者を倒した二人の若者をまじまじと見つめた彼は、小さく頷きながら言った。
「どちらもいい目をしている。緊張や怖れを感じていないのではなく、それを抑え込む勇気を持っている男の目だ。そういう目をした奴が、お前たちの他に最低でももう一人はいるんだろう?」
「……どうしてそう思うんですか?」
「お前たち二人が最大戦力だというのなら、別々に行動させているはずだ。ムーンライト号の乗客を助けるためにな。お前たちが同じ船に乗り込んでるってことは……あっちの船には、お前たちが信用するだけの強さを持った仲間がいる。違うか?」
そう言いながら、フィーとユイの背中を叩いて二人の下へと送り出すゴメス。
特に問題もなく兄たちの下に辿り着いた彼らを見送った後、ゴメスが口を開く。
「それで? マルコスはいざって時のリザーバーか? それとも、二人がかりで俺を倒すつもりか?」
「弟たちを連れて行ってもらうためについて来てもらっただけです。勝負は約束通り、一対一でやります」
「ふっ……! なら、とっとと連れて行ってもらえ。勝負の邪魔にならない場所にな」
ゴメスの言葉を受けたユーゴが、マルコスへと振り向く。
頷いた彼は視線でユーゴへと「負けるなよ」とエールを送ると共に、フィーとユイの手を取った。
「兄さん、あの人なんだけど……」
「ああ……なんか事情を抱えてるみたいだな。どうにかしてみるよ」
「……うん。あの人のことを助けてあげてね、兄さん」
兄がゴメスに対して何か感じていることを理解したフィーが、安心した様子で頷く。
そのまま、マルコスに連れられて甲板から去っていく彼らを見送った後、ユーゴは再びゴメスへと向き直った。
「さあ、これで二人きりだ。早速、始めようか」
「待ってください。その前に、約束を守ってほしい」
「……人質に手を出さないという約束は守ったはずだが?」
「俺がここに来たら、こんなことをした理由を話す……そう、約束したはずです」
船に乗り込む前の会話を出し、ゴメスの真意を尋ねるユーゴ。
これには時間を稼ぐという理由もあったが、それ以上に本気で何故彼が犯罪に手を染めたのかを知りたいという思いもあった。
律儀に約束を守り、人質たちに手を出さずにいたゴメスが、本物の悪人には思えない。
何か理由があるのでは……と考えるユーゴに対して、ため息を吐いたゴメスが言う。
「……ヒーロー扱いに飽き飽きしていた、それが理由だ」
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