シージャック、勃発!

(ロスト……この事件の裏で暗躍しているのは、やっぱりあいつなのか?)


 以前、ネイドの事件の際に一度だけ顔を合わせた黒フードの人物……ロスト。

 彼はユーゴが元は呉井雄吾という異世界人であることを知っていた。


 となれば、彼もユーゴと同じ転生者である可能性が高い。転生者であるならば、あの映画の設定も知っていても不思議ではないはずだ。

 何より、彼は前々から人間を魔鎧獣に変えるアイテムをばら撒いていた。ネイドもラッシュも、彼に利用されて魔鎧獣になった犠牲者だ。


 全ての条件が、ロストがこの事件の黒幕であることを示唆している。

 しかし、数々の事件に遭遇してきたユーゴは、ロストの他にも人間を魔鎧獣に変える道具をばら撒くドロップという人物がいることも掴んでいた。


 これらの情報を組み合わせると、色々と見えてくるものがある。

 敵は自分と同じ転生者。しかし、自分と違って徒党を組み、これまで世界の裏で事件を起こすべく暗躍を続けていた。


 今回のクリアプレート事件を計画したのがロストかどうかはわからないが、まず間違いなくこの事件の裏には彼らの影がある。

 ロストたちの目的が何なのかはわからないが、彼らが転生者であるならば、同じ立場の自分がこの世界を守らなくては……と考えるユーゴは、そこでもう一つの疑問を抱いた。


(ちょっと待て。これまで気にしてなかったけど、この世界って何なんだ?)


 ユーゴが気になったこと。それは、この世界で普通にアルファベットが通用していることだ。

 そもそも、【ギガシザース】なんていうまんまな名前の魔道具がある時点で気付くべきだったが、この世界は自分がかつて暮らしていた世界と似通っている部分が多い。


 これまでは異世界転生とはそういうものだと考え、あまり気にしてこなかったが……改めて考えてみると、やはりおかしいではないか。

 ロストたちという自分以外の転生者の存在も含めると、この世界そのものが何か異質な雰囲気があると考えるユーゴであったが、そのタイミングで突然に部屋の扉が開き、息を切らせた警備隊員が飛び込んできた。


「シェパード隊長、大変です!!」


「どうした!? また、クリアプレートを持つ者たちが事件を起こしたのか!?」


「は、はい……っ! 修学旅行に来た学生たちを乗せた遊覧船二隻が、クリアプレート所有者たちにジャックされました!」


「修学旅行の学生たちを乗せた遊覧船って、まさか――!?」


「フィーくんたちが乗ってる船のこと……!!」


 予想だにしていなかった展開に、目を見開いて驚くユーゴたち。

 今すぐにでも飛び出していきたかったが、そのためにも情報を集めないと逸る気持ちを必死に抑える彼らの耳に、シェパードと警備隊員の声が響く。


「現場の状況は!? 担当の警備隊は動いているのか!?」


「湾岸警備隊は船を出し、人質救出と犯人逮捕のために部隊を遊覧船に送り込みました。しかし……クリアプレート所有者たちに撃退され、作戦は失敗したとのことです」


「犯人の数は!? 相手から何か要求は届いていないのか!?」


「戦った警備隊員によれば、犯人グループの数は五名。二隻の船にそれぞれ分かれて乗り込んでいるとのことです。能力は……残念ながら聞き出すことができませんでした。しかし――」


「しかし、どうした?」


 現状をシェパードへと報告していた隊員が、途中で言葉を詰まらせる。

 その反応に何かを感じ取り、話をするよう促すシェパードへと、隊員は沈鬱な表情を浮かべながら言った。


「――犯人グループの一員に、ゴメスさんがいたとの報告があります」


「ゴメス……? まさか、ゴメス・ドゥのことを言っているのか!? 馬鹿な! あの人が犯罪に手を染めるはずが――!!」


「犯人グループと戦闘を行った部隊員が、気絶する前に必死になって訴えていたことです。残念ながら、間違いないかと……」


「そんな……なんということだ……!」


 ここまで冷静に話をしていたシェパードが、愕然とした様子でそう呟く。

 警備隊員もまた険しい表情を浮かべていて、彼らの口から飛び出したゴメスという人物のことが気になったユーゴは、シェパードへとその人物について尋ねてみた。


「シェパードさん、さっきから話に出てるゴメスって人は、いったいどんな人なんですか?」


「……彼は、ゴメス・ドゥは、かつてこのウインドアイランドで英雄……ヒーローとして称えられていた男だ」


「えっ……!?」


 苦し気ながらも、弟が事件に巻き込まれたユーゴが焦っていることを理解しているシェパードが彼の質問に答える。

 その口から飛び出したヒーローという言葉にユーゴが驚く中、シェパードはゴメスについて話をしていった。


「もうずっと昔の話だが、ゴメスさんはウインドアイランドのフィッシャーマンとして活躍していた。船を駆ってはサハギンやクラーケン、ジャイアントシャークのような危険な海の魔物と戦いを繰り広げ、何度もこの島の平和を守ってきた偉大な人物だ。そんな彼が、どうして……!?」


 シェパードの声からは、ゴメスに対する深い尊敬の念が感じられる。

 かなりのやり手らしい雰囲気を放つ彼がここまで尊敬していることからも、ゴメスの偉大さが理解できるだろう。


 既に現役は退いているようだが、間違いなくゴメスはウインドアイランドの人々が誇るヒーローだった。

 そんな彼がどうして、シージャック事件に犯人グループとして参加しているのか……? と、話を聞いたユーゴたちもまたショックを受ける中、また新たな警備隊員が部屋に飛び込んでくると共に、シェパードへと言う。


「報告します! 犯人グループから……ゴメスさんから、要求が届きました!」


「……彼はいったい、何を要求してきた?」


 ピリピリとした緊張感が室内を満たす。

 かつてのヒーローが犯罪に手を染め、警備隊に要求をしてきた。その内容は如何なるものなのかと全員が身構える中、飛び込んできた隊員が口にしたのは、予想外の言葉であった。


「犯人グループの一員、ゴメス・ドゥの要求は……自分が乗る船に、ユーゴ・クレイという学生を連れてこいとのことです!」

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