クリアプレートの秘密

「これは君たちがシャンディア島で戦った魔鎧獣の片割れ……女性の方が所持していたプレートだ。奴がどんな能力を持っていたかは覚えているか?」


「もちろん! 炎を使ってましたよね?」


 実際にユーゴとレイナとの戦いを見たメルトがその質問に勢いよく答える。

 彼女の答えに頷いたシェパードは、そうした後で近付いてきた部下にFの文字が刻まれたクリアプレートを渡すと、話を再開した。


「……君たちが戦った魔鎧獣は、炎の力を有していた。我々もこのプレートは使用者に炎を操る能力を与えるものだと思っていたのだが――」


「……!?」


 そう言いながら、シェパードが部下へと目配せする。

 クリアプレートを受け取った男性隊員は頷くと共にそれを自らの体へと突き刺し、魔鎧獣へと変身していき……驚くユーゴたちの前に、さらに驚くべき事実を伝えながら姿を現してみせた。


「うそ……!? 昨日見た魔鎧獣と姿が全然違う!?」


 男性隊員が変身した魔鎧獣の姿を目にしたメルトが驚きに口を押さえながら叫ぶ。

 先日、レイナが変身したのは燃え盛る炎がそのまま人の形になったかのような魔鎧獣であったが、今、自分たちの目の前にいるのはそれとは似ても似つかない姿をしていた。


 青黒い体が特徴的で、両腕から手の甲が巨大なガントレットに覆われ、その中にはライトのようなものが埋め込まれているという男性隊員が変身した魔鎧獣は、炎を操るようには到底思えない。


 男性と女性という違いはあるが、それだけで片付けられるような変化の差とは思えない両者の違いにユーゴたちが驚く中、目を細めたリュウガが口を開いた。


「なるほど……Flashか」


「何かわかったんですか、リュウガさん? ……あっ」


 何かに感付いたようなリュウガの呟きに思わず反応した後、彼に質問してしまったことに気付き、口を押さえるライハ。

 そんな彼女を一瞥した後……本当に珍しく、普段の口癖で返さなかったリュウガは、まともに質問に答えていく。


「両腕の手甲、そこに埋め込まれている物から察するに、あの魔鎧獣は強い光を発する能力を持っている。そして、彼が使用したプレートにはFの文字が刻まれていた」


「Fで光の能力……つまり、閃光を意味するフラッシュ……!!」


「ユーゴが戦った魔鎧獣は炎を操る力を持っていた。それならFire、あるいはFlameみたいなFから始まる炎を意味する言葉があるわ」


「クリアプレートは、そこに刻まれた文字から始まる言葉に由来した能力を使用者に与える……ということでござるか?」


 リュウガの一言から始まったヤマト組の考察に対して、シェパードが肯定の頷きを見せる。

 話のバトンを受け取った彼は、ユーゴたちへとさらに一歩踏み込んだ解説をしていった。


「君たちの言う通りだ。クリアプレートは、使用者によって与える力を変える。先日の彼女が炎、ここにいる私の部下が閃光、というようにな。しかし、完全にランダムに能力を与えているわけでもないんだ」


「どういうことでしょうか?」


「他にも数名の部下にこのプレートを使ってもらった。先日、シャンディア島に私と共に乗り込んだ隊員たちだ。そこで何が起きていたかを知っていた彼らは、全員が確保した女性と同じ、炎の力を持つ魔鎧獣に変身したよ」


 さらなる情報を得たユーゴたちが、一様に顔を見合わせる。

 数名の警備隊員たちが揃ってレイナと同じ炎の力を持つ魔鎧獣に変身したかと思えば、また違う隊員は閃光の力に目覚めた。


 これは何かの規則があるのか? それとも偶然が重なっただけなのか?

 困惑する一同の中で考えこんでいたユーゴが、それについての私見を述べる。


「イメージができた。あるいは、自分にとって最大級に能力が発揮できる力に目覚めたんじゃないか?」


「……どういう意味だ、ユーゴ?」


「炎の魔鎧獣になった警備隊員たちは、そこで何が起きたのかを知ってた……つまり、Fのクリアプレートは炎の力を与えるものだと思ってたわけだろ? そのイメージが固定化されてたから、あの女と同じ炎の魔鎧獣になった。でも、そこの人は――」


「ああ。この隊員はシャンディア島には行っていない。そこで何が起きたのかも知らないし、どんな魔鎧獣が出現したのかも知らなかった。そして、光属性の魔法を得意としている」


「ユーゴの言う通りだ! 自分が一番力を引き出せる魔鎧獣に変身してる!」


 どうやら、ユーゴの考察は当たっているようだ。

 勘が鋭いように見える彼の意見を補足するように、シェパードがこう続けた。


「さらに言うならば、同じ炎の魔鎧獣でも能力に差があった。魔法のように遠距離攻撃を得意とする者もいれば、肉弾戦に特化した魔鎧獣に変身した者もいる。それぞれがそれぞれの適正に合わせた魔鎧獣に変身したというのは、間違いない」


「つまりクリアプレートは、所有者のイメージに合わせた上でその力を最大に発揮できる魔鎧獣に変身させる力を持っているということか。唯一の縛りはプレート自身に刻まれたアルファベットから始まるスペルの能力しか付与できないという点だが――」


「それでも十分強力ですよ。それに、言葉なんて幾らでも言い換えが聞きます。FlashもLightに言い換えられますし――」


「FireもHeatみたいな類義語があるからな。まあ、個人的にはそっちじゃなくて良かったんだけどさ……」


 敬愛するヒーローと同じ力を持つ魔鎧獣と戦うことにならなくて良かったと、心の中で安堵するユーゴであったが……同時に彼は気付いていた。


 アルファベットが刻まれた、使用者を怪物に変異させるアイテム……それが島中にばら撒かれている今の状況は、あの映画の設定に酷似している。

 同時に、このクリアプレートを作った者やウインドアイランドにばら撒いた黒幕の正体もわからないという情報も組み合わせたユーゴは、仲間たちには言えない自分の秘密も組み合わせながら、もう一歩考察を深めていった。


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