船上大決戦!ヒーローVS元ヒーロー!

シャンディア島警備隊本部・超常犯罪対策本部

「どうぞ、こちらに。隊長がお待ちです」


「ありがとうございます」


 シャンディア島での戦いの翌々日、一日を休養に当てたユーゴたちは、ウインドアイランドの警備隊員に案内されてその本部へとやって来ていた。

 ちなみにではあるが、フィーとユイの弟妹コンビは初等部の修学旅行カリキュラムに従って、現在遊覧船でのどかに海の景色を楽しんでいる真っ最中である。


 というわけで二人を除いて警備隊本部へと案内されたユーゴたちは、促されるままに会議室へと入っていく。

 その中で待っていたのは先日の騒動の際に自分たちの応対をしてくれた隻眼の隊員で、風格のある彼はビシッと敬礼を取り、ユーゴたちを出迎えてくれた。


「修学旅行の最中に急に呼び立てて申し訳ない。先日のシャンディア島で起きた事件、そこで使用された謎の魔道具であるクリアプレートについて判明したことがあって、君たちにも話すべきだと思ったんだ」


「気にしないでください。俺たちもあのプレートについて、色々と知りたいと思ってたんで」


「そう言ってもらえると助かる。自己紹介が遅れたな。私はシェパード・クルーガー。立ち上げられた対策本部の責任者を任されている」


「対策本部? ということはやはり、我々が戦った連中以外にもプレートの所有者が?」


 改めて挨拶をしてきた隻眼の警備隊員こと、シェパードの発言から良くない状況を読み取ったマルコスが険しい表情を浮かべながら言う。

 対策本部が立てられるということは、あの事件はあれで終わりではなかった。他にもクリアプレートを手にした者たちがいるのかという彼の問いに頷いたシェパードは、部下に指示を出してから話をしていく。


「先日の段階で君たちには言っていなかったのだが……実は、あの日に起きたクリアプレート所有者たちによる犯罪は、シャンディア島での暴動だけではなかったんだ。本島を含む複数のポイントで、同様の魔鎧獣が暴れ回っていたとの報告が上がっている」


「やっぱり一人じゃなかったんですね。それで、そいつらは――?」


「全員を逮捕することはできなかったが、数名は警備隊の手で倒し、クリアプレートを回収した上で身柄を押さえることができた。そして、君たちが倒した犯人たちも含めて取り調べを行った結果、いくつかの情報を聞き出すことができたよ」


 そう言いながら、先ほど指示を出した部下から何かを受け取るシェパード。

 彼は受け取ったそれを机の上に並べ、ユーゴたちに見せる。


 彼が見せてきたのは昨日、ユーゴとマルコスが倒した二人の所有物を含む、合計五枚のクリアプレートで……それを提示しながら、シェパードは話を続けていった。


「見ての通り、ここには五枚のプレートがある。君たちが倒した二名の他に、警備隊が倒した三名の犯人たちが所持していたものを回収したものだ」


「能力に関してはやはり、シャンディア島でユーゴたちが戦った連中と似たようなものだったんでしょうか?」


「それに関しては後で話そう。我々が何よりも知りたかったクリアプレートの入手先だが……全員、拾ったと供述している」


「拾った? 誰かに渡されたとか、買ったとかじゃないんですか?」


「ああ……例えば、君たちが倒した二名だが、船着き場でのデモ活動の後で偶然見つけたと供述している。他の三名も似たようなもので、誰もこのクリアプレートの製作者もそれをばら撒いた者のことを知らないようだ」


「こんな危険な代物が、無造作に島中にばら撒かれているということでござるか!? なんと物騒な……!!」


 サクラの言う通り、これはかなり危険な状況だ。

 一般人を凶悪な魔鎧獣に変えてしまう代物が島のどこかに放置されているということは、それを拾った誰かがその場で犯罪に手を染める可能性だって十分にあり得る。


 つまり、今のウインドアイランドはいつ、どこで危険な犯罪が勃発してもおかしくない、火薬庫状態ということだ。


 そして、この事件の裏で暗躍している黒幕とでもいうべき存在の正体はまるでわかっていない。

 誰が、何の目的でこんなことをしているのかすらもわかっていない状況というのは、かなり不気味としか言いようがなかった。


「……誰かが裏で糸を引いていることは間違いない。今は何もわからないことについて話し合っていても仕方がないだろう。クリアプレートについて、わかっていることを僕たちに教えていただきたい」


 プレートの出所をこれ以上話していても仕方がないというリュウガの発言に、シェパードが頷く。

 彼の言うことに従って、シェパードは一日かけた調査で判明したクリアプレートの情報をユーゴたちに伝えていった。


「まずはこのクリアプレートだが、現時点では破壊は不可能という結果になった。物理と魔法の両方から様々な方法で破壊を試みたが、何をやっても傷一つ付かなかったんだ」


「破壊は不可能とは……材質は? 何で作られているのかはわかったんですか?」


「それに関してもはっきりとはわかっていない。普通の金属に何らかの魔法をかけていることは間違いないが、未知の材料が部分もあるようだ」


「私たちも人が変身した魔鎧獣とは結構戦ってきたけど……そいつらともまた違った感じがするね」


 メルトの言う通り、ユーゴたちも人が変身した魔鎧獣との戦闘経験はかなり積んできた。最初はその存在に驚いたものだが、今ではすっかり慣れたものだ。

 しかし、そんな彼らですら、今回のクリアプレートとそれを使って誕生した魔鎧獣たちに関しては異質なものを感じている。

 これまでは魔鎧獣を倒せば、その力の源とでもいうべき変身アイテムは同時に破壊されていたはずだが……クリアプレートは破壊されないという部分は、やはり気になる点だった。


「もう一つ、クリアプレートに関して重大な事実が判明している。これについても説明させてもらいたい」


 そう言ったシェパードが再び部下を呼ぶ。

 呼ばれた男性隊員が近付いてくる中、シェパードは机の上のクリアプレートの中から一枚を手に取ると、それをユーゴたちに見せつけながら口を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る