キタキタキタ!北!!
「カルロス殿、私に見せたいというものとは、いったい……?」
「まあまあ! ちょっと見てなって!」
工房の奥、昨日も訪れた試し振りのスペースへとやってきたマルコスは、装備棚を弄るカルロスへと声をかける。
そんな彼をエレナが笑顔を浮かべつつ窘める中、ガチャガチャと棚を操作していたカルロスが動きを止めた。
「よし、これでいい。開くぞ」
「開くって、何が――っ!?」
ガコン、という音が響き、装備棚が大きく左右に開いていく。
大量の装備を収納していたその奥に、さらに隠されていたスペースがあることに気付いたマルコスは、そこに収められていた物を目にして、息を飲んだ。
「どうだ、マルコス。これがお前に見せたかった物だ」
特別な動かし方をしないと開かない装備棚の隠しスペース……そこに収められていたのは、槍だった。
かなり長く、そして太いそれは騎士が馬上で振るうランスのようで、気品と美しさをも持ち合わせている。
穂先から伸びるシャフト、拳を保護するバンプレートも握る部分となるグリップも、石突に至るまでもが白銀に輝いているそれは、武器というより芸術品のようだ。
しかし、丁寧に作り上げられたその槍からは確かな力強さが感じられ、見ているだけで魂が震えるような昂りを覚えてしまう。
「……美しく、力強い。まさか、これほどの名品をお目にかかれるとは……!」
「すごいでしょ? パパの自信作なんだよ!」
決して自分の誇りであるギガシザースを貶すつもりはないが、カルロスの自信作であるこの槍に比肩し得る武具がマルコスには思い当たらなかった。
名刀である【龍王牙】すらも凌ぐのではないかと、そう思いながらごくりと生唾を飲み込んだマルコスは、深く息を吐いてからカルロスへと言う。
「……素晴らしいものを見せていただきました。両親や祖父への十分過ぎるほどの土産話ができた。よろしければ、その槍の銘を教えていただきたい」
「……名前はまだない。さっき、エレナは自信作と言ったが……こいつはまだ未完成だからな」
今でも十分過ぎるほどの完成度を誇っているその槍を撫でたカルロスが、マルコスにそれを持ってみるように促す。
驚きながらも震える手を槍のグリップへと伸ばした彼は、ゆっくりと重いそれを持ち上げると共に感嘆の吐息を漏らした。
「……重い。しかし、軽い。絶妙なバランスで扱いやすさと破壊力を両立させている」
「完成品はもう少し重さが増しているだろう。それでちょうど、お前に持ち上げさせたあの重りと同じくらいになる」
そう述べるカルロスの前で、そっと槍を台座に戻すマルコス。
傑作と呼んで差し支えない武具を握った右手を見つめる彼へと、カルロスが語っていく。
「この槍はエレナが生まれた時から少しずつ作り上げてきた、俺の全てを注いだ作品だ。最後にとある魔物から採れる素材を加えることで、魔道具として完成する」
「その素材を確保する目途は立っているのでしょうか?」
「ああ……! じきにポルルが手に入れるはずだ。奴はそろそろ大人になる。成長したゴールデンキャンサーは、とある魔物を狩ることで自らが大人になったことを証明するんだ。その魔物こそが、この槍の完成に必要な素材を持っている魔物なんだよ」
「ということは、この槍が完成するか否かはポルルにかかっているということか。責任重大だな」
「カニッ! カニカニッ! カ~ニ~ッ!!」
カルロスの説明を受けたマルコスが笑みを浮かべながらポルルへとそう言えば、彼はやる気満々といった様子でシャドーボクシングをしてみせた。
気後れはしていないと、そう言いたいのだろう。
「ふふふ……っ! ポルル、やる気満々だね! 絶対にやってみせる! って思いが見て取れるよ!」
「このやる気に、強い衝撃を受けてから脱皮したことでより強固に育つであろう甲殻があれば、相当な大物を狩れるはずだ。そうなれば、魔物の素材も上物になる。この槍の性能もそれに比例して跳ね上がるだろうな」
「……頑張れよ、ポルル。その時は私はこの島にいないだろうが、応援しているぞ」
「カニッッ!!」
脱皮したての今は甲殻が育ち切っておらず、まだ柔らかい状態。このまま成人の儀式に臨むのは無謀というものだろう。
ポルルの甲殻が育ち、脱皮前を遥かに超える硬度へと成長してから、戦いに臨むのが望ましい。
残念ながら、その頃には自分たちは修学旅行を終え、ルミナス学園に帰還している。成人の儀に臨むポルルを見守ることはできそうにない。
それでも……友として、彼の挑戦を応援するマルコスの想いに応えるようにポルルが大きく頷く中、カルロスが口を開いた。
「マルコス……実はこの槍の完成に必要なものは、素材以外にもう一つあるんだ。それについて、お前に協力してもらいたい」
「私にですか? ……もちろんです。稀代の名槍となる魔道具の製作の役に立てるだなんて、身に余る光栄。このマルコス・ボルグ、どんなことでもお力になりましょう」
「……そうか。なら、安心だな」
素材以外にも槍の完成に必要なものがあると、その部分について自分に協力してほしいと……そうカルロスから言われたマルコスは、特に深く考えることなく了解の意を示す。
彼のその言葉に大きく頷いたカルロスは、真っすぐにマルコスを見つめると……彼に向け、こう言った。
「マルコス……この槍は、お前が使え」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます