さらば、シャンディア!……の前に、なんか忘れてるような……?

「オラッ! きびきび歩け! 列を乱すな!!」


「ひぃん……! どうしてこんなことに……?」


「もうやだぁ……! 助けて、おか~さ~ん……!」


「……これであの連中もおしまいでござるな」


「そうね。でも、騒ぐだけ騒いで暴れられたんだから、彼らも本望でしょう」


「まったくだ。おかげでこっちはとんだ迷惑を被ったよ」


 ――翌日、朝早くに駆け付けたウインドアイランドの警備隊たちによって、拘束されていたブルー・エヴァーの面々は正式に逮捕され、牢屋へと移送されていった。

 彼らは皆、一様に憔悴し切っており、警備隊に確保されて連れて行かれる際も泣き言をこぼし続けている。


 それもそのはずで、彼らは一晩中ずっと不機嫌なリュウガの監視を受けていた。

 少しでも妙な動きをすれば鋭い殺気が飛んでくるし、疑われないように気を張り続けた結果、構成員たちは一睡もできず、一秒たりとも気を休めずに朝を迎えたというわけだ。


 というわけで心身共に疲れ切ったブルー・エヴァーの構成員たちは一切の抵抗をせず、疲弊した状態で連行されていった。

 末端の構成員ではあるが、それでも組織のメンバーの大勢が傷付き、憔悴し、こうして逮捕されたとなっては、ブルー・エヴァーにとって大きなダメージとなるだろう。


 彼らがこのシャンディアでしたことが報道されれば、世間も黙ってはいないはずだ。

 この島で暴れた面々も色んな意味で現実を知ったようだし、仮に短期間で出所できても二度と同じ真似はしないだろう。


「そう遠くない未来、ブルー・エヴァーは崩壊するはずです。それまでに、同じ悲劇が繰り返されないことを祈りましょう」


 ライハの呟きに、話を聞いていた面々が頷く。

 倒壊した家屋や燃やされた木々などの被害はあるが、不幸中の幸いにして島民や魔物たちの命は失われなかった。


 この島に生きる人々が力を合わせれば、復興もすぐに成されるはずだと……そう、強く信じる彼女たちが連行されていくブルー・エヴァーの構成員たちを見守る中、ユーゴは警備隊の責任者に事情の説明とクリアプレートについての話をしていた。


「そうか、これが人を魔鎧獣に変えるプレートか……」


「うっす。色々調べた上で、どうにか壊せないか試してみたんですけど、何をやっても傷一つ付けられなくって……」


 そう話すユーゴは、警備隊長に渡した『R』と『F』と思わしき文字が刻印されたクリアプレートを見つめながら渋い表情を浮かべていた。

 彼の話を聞いている隻眼の警備隊長もまた、険しい表情を浮かべながら口を開く。


「これに関しては詳しい調査が必要だ。破壊できないからくりに関しても調べるべきだろう」


「お願いします。俺たちにできることはここまでなんで、あとは警備隊の皆さんが頼りです」


「任せてくれ。危険な代物だが、勇敢に戦ってくれた君たちからの信頼に応えるためにも、全力を尽くすつもりだ」


 そう言いながら、びしっと敬礼の姿勢を取る警備隊長。

 真面目で落ち着いた雰囲気から察するに、この人物は十分に信用に足る相手だなと感じ取るユーゴへと、彼がこう続ける。


「それにしても、この混乱した状況下で未知の魔鎧獣を撃破するとは、なかなかの有望株だ。できることなら、うちでスカウトしたいくらいだよ」


「ありがとうございます。でも魔鎧獣を倒したのは俺だけじゃなくって、あそこで話してる――」


 そう言いながら、二体目の魔鎧獣を倒した人物であるマルコスを指差すユーゴ。

 彼らの視線の先には、エレナとカルロス、そして脱皮して一回り小さくなったポルルと会話するマルコスの姿があった。


「お前には色々と世話になった。娘を守ってくれたこと、感謝する」


「大したことはしていません。それよりも、大変なのはここからです。島の復興は大丈夫でしょうか?」


「大丈夫だよ~! みんな大きな怪我はしてないし、少しずつ元通りに戻していくからさ! 家族みんなで協力すれば、できないことはないって!」


「カニカ~ニ~ッ!」


「ふっ……! そうだな。力を合わせれば、できないことはないな……!」


 島民や魔物たちの命は失われなかったとはいえ、被害は決して軽くない。

 島の復興には短くはない時間がかかるだろうが……互いに手を取って協力し合えるシャンディアの人々と魔物たちならば大丈夫だと、視線の先で家屋の修復を始めているアイドリマーの親子と島民の姿を見たマルコスは、エレナの言葉に同意しながら頷いた。


「色々と世話になった。私たちは一度本島に戻るが、修学旅行期間中にまた顔を出しに来るつもりだ」


「うん、わかった。こっちこそお世話になりました! ありがとうね、マルコス!」


「カニッ!!」


 名残惜しいが、一度ウインドアイランド本島に戻ってウノたちに状況を報告しなければならない。

 一時のお別れ……といった感じでマルコスたちがあいさつを交わす中、咳払いをしたカルロスが口を開く。


「ところで、だが……マルコス、の感想を聞かせてもらえるか?」


「……あれ? 申し訳ない。あれとはいったい……?」


「いや、だからだ。重量挙げの景品として、お前に証を渡しただろう? それをエレナに見せろと、そう言ったはずだが?」


「あっ……!? あああああああああああああああっ!!」


 意味深なことを言うカルロスの言葉に、きょとんとした反応を見せるマルコス。

 二人の会話を聞いていたエレナは顔を真っ青にすると、両手を合わせて彼らに謝罪し始めた。


「ごめんなさい! 色々あって、マルコスにあれを見せるのを忘れてた!」


「なにぃ……!? エレナ、お前という奴は……!!」


 はぁ~……と大きなため息を吐いたカルロスが頭を抱える。

 そうした後で顔を上げた彼は、マルコスへと向き直るとこう言った。


「まあ、いい。逆にちょうど良かったかもしれないくらいだ。マルコス、出発までまだ時間はあるな?」


「ええ、まあ……」


「なら、少し付き合え。いいものを見せてやる」


 そう言って、カルロスが自身の工房へと歩いて行く。

 マルコスは慌ててその後を追い、昨日も案内された工房へと入っていった。

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