これが本当のハッピーエンド!
「終わったよ、ポルル……! マルコスが仇を討ってくれたよ……!!」
島民たちの避難及び、上陸しようとしていたサハギンと暴動を起こしていたブルー・エヴァーの構成員たちの制圧も終わった。
シャンディア島を襲った動乱も集結を迎えようとしている中、ユーゴたちは倒れたポルルへと話しかけるエレナを見守っている。
「私もみんなも、無事だよ。あなたが頑張ってくれたおかげだね。本当に……ありがとう、ポルル……!」
「エレナ……」
これだけの騒動にも関わらず、被害は最小限に留められたようだ。
今のところ、シャンディアの島民や魔物たちに大きな被害はなく、怪我人や犠牲者もサハギンに痛めつけられたブルー・エヴァーの人間が大半ということになっている。
ただ、そんな中でもエレナを守るために盾となったポルルという犠牲が出てしまったことを悲しむ一同は、彼の亡骸の前でその冥福を祈っていた。
「すまない、ポルル。私がもっとしっかりしていれば……」
「自分を責めるなよ、マルコス。お前はお前にできることを全力でやったはずだ」
ポルルの死に責任を感じているマルコスが、謝罪の言葉を口にしながら拳を握り締める。
仇は取ったが、それでポルルが帰ってくるわけではないと……悲しむエレナを前に自責の念に駆られる彼を、ユーゴが励ます。
唐突に起きた暴動からのサハギンの襲来。そして、謎の魔道具を使って魔鎧獣と化した人間の出現と、状況は混迷を極めていた。
そんな中でも被害が最小限に留まってくれたのは、マルコスが人々や魔物たちを守って奮闘してくれたからだと、大きな被害を出そうとしていたゲラスを倒し、実質的にこの島の人々と魔物たちを守った彼を慰めるユーゴであったが、マルコスは納得していないようだ。
「確かにお前の言う通りかもしれない。だが、それでも足りなかった。私にもっと力があれば、ポルルだって死ななくて済んだはずだ。少なくとも、お前やリュウガならば犠牲を出さずに乗り切れたと思う」
「俺たちを買い被り過ぎだ。ここにいたのが俺だとしても、結果は変わらなかったと思うぜ」
「そうだよ。悔しいし悲しい気持ちもわかるけど、そんなふうに自分を責め続けたらポルルが安心できないって」
「僕は戦いのことはよくわからないけど……あれだけのパニックの中で被害をここまで食い止められたのは、マルコスさんの奮闘あってのことだと思います。たった一人でここまでやれるだなんて、十分すごいですよ」
「しかし――」
仲間たちから励まされても、マルコスは自分を責めることをやめられないようだ。
なおも何かを言おうとする彼へと、今度はエレナが言う。
「マルコス……大丈夫。私もポルルも、マルコスを責めたりなんかしないよ。むしろ、すっごく感謝してる。私を守ってくれて、ポルルの仇を取ってくれて、本当にありがとう……!」
「エレナ……」
無理して笑ってはいるが、それでもマルコスを元気付けようとしているエレナの言葉に胸を痛めるユーゴたち。
そんな彼らを励ますように、彼女は言葉を続ける。
「そんな顔しないで! ポルルもみんなに、ありがとう! って言ってるはずだよ!」
「カニ、カニ……!」
「ほら! そう言ってたのが聞こえたでしょ!?」
「ああ……確かにそうだな。言葉は通じなかったが、心は通じたよ……」
「俺にも聞こえたぜ。ポルルは、マルコスに感謝してた」
「ポルルも心配してるんだよ。マルコスがそんな調子じゃ、いつまで経っても安心できないって」
「あっ……!? み、見て! 兄さん!!」
しんみりとした空気の中、フィーの驚いた声が響く。
彼の声に顔を上げたマルコスは、自分の傍に立つポルルの姿を目にして、息を飲んだ。
「ポルル……!?」
「カニ、カ~ニ~……!」
「……そうか。私を心配して、会いにきてくれたんだな……」
キラキラと月光を浴びて黄金に輝くその姿はどこか神秘的で、天に昇る前の彼の魂が具現化したように見えた。
いつまでも自責の念に駆られる自分の姿を見ていられなくなった彼が、最期の挨拶に来てくれたのだと……そう思ったマルコスは、目に浮かんだ涙を拭いながらポルルへと言う。
「すまなかった。お前を心配させるつもりはなかったんだ。もう、私は大丈夫だから……安心して、逝ってくれ」
「カニィ……」
これ以上、彼を心配させてはいけない。この世に未練を残した魂として留まらせては、魔鎧獣になってしまう可能性だってある。
もう自分は大丈夫だから、安心して旅立ってほしいと……そう、笑顔で自分に伝えてきたマルコスへと頷いたポルルは、そのまま両腕を広げ――。
「カァァァニィィィィッ!!」
「えっ? うおおおおおおおっ!?」
――そのまま、思い切り彼のことを抱き締めてみせた。
「えっ!? えっ!? ええっ!? ポルルの奴、マルコスに触れてるぞ!?」
「ななななな、なんでっ!?」
「兄さん! だからあれを見て! あれだってば!!」
そうフィーに言われて彼が指差す方を見れば、先ほどまでポルルの亡骸が転がっていた地点に彼の殻が散乱しているではないか。
その外殻たちと、マルコスに抱き着くポルルの姿をユーゴたちが交互に見つめる中、静かで野太い声が響く。
「運が良かったな。どうやら、ポルルの傷は内臓まで達していなかったようだ」
「あっ! パパ!!」
「あっ、あなたは昼間の……!? というより、パパだって!? いや、それよりもポルルの傷が……ええい! どこからツッコめばいい!?」
「すまなかったな。他の場所でサハギンや不届き者たちの相手をしていたら、駆け付けるのが遅くなってしまった」
「カニカ~ニ~ッ!!」
ポルルに抱き締められながら声のした方向へとマルコスが顔を向ければ、そこには昼間、自分とリュウガに重量挙げのゲームを持ち掛けてきた男性の姿があった。
彼のことをパパと呼ぶエレナにも驚いたが、状況全てにツッコミが入れたくなっている彼へと、エレナの父ことカルロスが言う。
「ポルルは死んだんじゃない。攻撃を受けて、びっくりして気絶したんだ。そして、そのまま脱皮の準備に入った。だからピクリとも動かなかったんだ」
「じゃあ、今、ここにいるポルルは――!?」
「お化けでも魂でもないぞ。ポルルは脱皮を終えて、この通り無傷で生きている。それにしても、この黄金の輝き……実にいい。今はまだ柔らかいが、時間が経てば硬度も美しさも超一流の外殻になるだろう」
「カニカニ~! カニニ~ッ!」
「ぽ、ポルル……! ポルル~ッ!!」
「うわ~~~っ!?」
自分へと飛びついてきたエレナを抱き締めるために、今の今まで抱き着いていたマルコスを解放するポルル。
地面に倒れ込んだマルコスは、心配して声をかけてきたユーゴたちへと反応する。
「だ、大丈夫か、マルコス!?」
「平気だ。しかし、生きていただと……!? 人騒がせな奴め……!!」
「ポルル! ポルル~っ! 良かったよ~!!」
「カニカニ~! カッニカニ~ッ!!」
誰もが驚きの復活を遂げたポルルへと毒づくマルコスであったが、先ほどまでとは真逆の意味を持つ涙を流しながらポルルと抱き合うエレナの姿を見るその目は、とても優しかった。
面倒くさそうに頭を掻き、ため息を吐いて立ち上がった彼は、傍に立つユーゴへと言う。
「……まあ、いい。結果として、この上なくいい形になったんだ。お騒がせに関しては不問にしてやるとしよう」
「へへっ……! 男前なこと言うじゃねえの、このぉ~!」
「ふんっ……!」
肘でぐりぐりと自分の脇腹を突きながらのユーゴのからかいの文句に、鼻を鳴らして応えるマルコス。
そんなつっけんどんな態度を取ってはいるが、唯一心に残っていたわだかまりが解けた今の彼の胸中は、この島の美しい海のように澄み切っていた。
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