「俺のライバル、舐めんなよ」
「はぁ? お前、なに言って――?」
堂々としたユーゴのその言葉に対して、本当に意味がわからないとゲラスが馬鹿にしたような態度を取る。
しかし、その最中に自分の背後で何かが動く音を聞いた彼が振り返れば、そこには立ち上がってこちらを見やるマルコスの姿があった。
「お前……まだやるつもり? もう限界なんだから、大人しく寝てろって」
「ふぅ……たった今、言われたことの意味もわからないのか? 呆れた理解力のなさだな」
「何だって……?」
やれやれ、と肩をすくめながらのマルコスの挑発にわかりやすく機嫌を悪くするゲラス。
そんな彼へと改めて視線を向けたマルコスは、目を細めながらこう言葉を続けた。
「お前は勘違いが多過ぎる。私は限界でも何でもないし、雑魚でもない。何より……私の友は、私のことを見捨てたりなどしていない。ただ私を信じ、この場を託してくれているだけだ」
「はぁ? なに言っちゃってんの?」
「理解力のないお前のためにわかりやすく言ってやろう。お前は私に勝てない。この場にいる人間の中で私が負けると思っているのは、自らの実力を勘違いしているお前だけ……ということだ」
「……やっぱムカつくわ、お前。そんなボロボロのくせにさ!」
ユーゴに続き、堂々とそう言い放ったマルコスの言葉に、沸点の低いゲラスは簡単に激情した。
再び彼に突撃し、跳ね飛ばしながら、大声で吠える。
「ほらほらっ! 俺に勝てるんだろ!? だったら、少しはやり返してみろよ! 口ばっかりの雑魚がよぉっ!!」
「マルコス……! やっぱり無理だよ! あんな一方的に吹っ飛ばされて、ボロボロになって……!」
「いや……あれでいいんだ。全部、マルコスの計算の内さ」
「えっ……!?」
トドメの一撃を耐えたはいいが、そこからゲラスの突進攻撃に成す術なく吹き飛ばされるマルコスの姿を見たエレナは、やはり彼一人では戦いに勝てないと思い込んでいたのだが……そんな彼女へと、全てはマルコスの戦術だとユーゴが言う。
その言葉に驚いて顔を上げたエレナへ、戦いを見守るメルトが説明をしていった。
「マルコスのギガシザースは受けた衝撃を魔力として吸収する能力を持ってるの。つまり、強力な攻撃を繰り出すにはまず相手の攻撃を盾で防がなくちゃいけない。だからマルコスはわざと相手の突進を真っ向から受けてるんだよ」
「でも、あんなに吹き飛ばされて、ボロボロになって――!」
「それもわざとだよ。マルコスは攻撃を受ける寸前に絶妙にポイントをずらして、上手く威力を殺してる。その上で、自分が派手に吹っ飛ぶことで衝撃を逃がして、最小限のダメージで盾に最大限の魔力を蓄積させてるんだ」
「言われてみれば……! ボロボロになってるのも地面を転がった時についた土や細かな擦り傷だけで、大した怪我は負ってない……!!」
「あんな直線的な攻撃、マルコスなら簡単に受け流せる。あいつは全部、計算ずくでああやってんだよ。言ったろ? 俺のライバルを舐めんな、ってさ」
自分たちの中で最も防御技術に長けているマルコスが、ただ威力と勢いがあるだけの突進を受け流せないわけがない。
だから彼が敢えて攻撃を受けているとしたら、そこには何か理由があると……普段彼と肩を並べて戦っているユーゴたちには、その狙いが簡単に理解できた。
「兄さんは最初からわかってたんだね、マルコスさんが全く追い詰められてないってことに……!」
「まあな。前に話しただろ? ヒーローの戦いはいつだって過酷で、厳しくって、必死にやらなくちゃならない。壊すことよりも守ることの方が何倍も大変だからこそ、見ている人間の目にはヒーローの姿がボロボロに見える。それでも、そんな過酷な戦いを続ける理由は――?」
「――守りたい大切な何かが、後ろにいるから」
そうだ、とばかりに自分の眼差しでの問いに正しい答えを述べたフィーの頭をユーゴが撫でる。
そうした後でエレナへと視線を向けた彼は、自分の話を聞きながら呆然としている彼女へとこう言った。
「エレナにも教えておくよ。ヒーローの条件・その一は……絶対に諦めないこと。自分を信じてくれている奴の前では、特にな」
「諦めない、信じる……!」
「……さっき、マルコスが言ってただろ? この場にいる人間の中で私が負けると思っているのは、あの勘違い野郎だけだ……ってさ。不安かもしれない、怖いかもしれない。でも……マルコスは絶対に勝つよ。エレナとポルルのためにな。だから、あいつを信じてやってくれ。その想いが、大きな力になるから」
「っっ……!」
ユーゴのその言葉を聞いたエレナが、小さく息を飲む。
そうしながら今もまたゲラスの突進を防ぎ、その衝撃を殺すために大きく背後へと吹き飛んでいったマルコスを追って駈け出した彼女は、目に浮かぶ涙を拭うと大きな声で叫んだ。
「マルコスっ!!」
「……!」
視線の先で、ゲラスと向かい合うマルコスの目がエレナを捉える。
自分と家族のために戦うヒーローの勇姿に、彼を信じる友の言葉に勇気付けられたエレナは、大きく息を吸い込むと……その全てを吐き出すようにしながら、想いきり叫んだ。
「そんな奴……やっつけちゃえっ!!」
「ふっ……! 最初からそのつもりだ」
たった一人だけ、されど自分に大きな力を与えてくれる声援にマルコスが笑みをこぼす。
そうして、エレナを追ってやってきたライバルの、小さな頷きと共に向けられる信頼の籠った眼差しを受けた彼は、胸に熱い何かを滾らせると共にゲラスへと視線を向けた。
「……そういうの、ウザいよ? お友達の応援でパワーアップとか、臭過ぎて無理でしかないっつーの!!」
「奇遇だな。私もお前の忌々しい言動に限界を迎えていたところだ」
何度吹き飛ばしても平然と起き上がってくるマルコスの姿に、どこまでも余裕を崩さない彼の態度に怒りを募らせたゲラスが吐き捨てるように言う。
そんなゲラスをさらに挑発しながらギガシザースを構えたマルコスは、呼吸を整えると……静かに、堂々と言い放った。
「そろそろ、決着といこう。来い、貴様に格の違いを教えてやる」
「だからさぁ……! そういうの、ウザいんだよ! 俺に手も足も出ない雑魚が、調子に乗ってんじゃねえよ!!」
ぶちん、と怒りの臨界点を超えて激高したゲラスが、魔力を最大限まで放出する。
自分を散々挑発するマルコスを、お望み通りこの一撃で叩き潰してやると……爆発する怒りと共に究極の一発を繰り出す構えを取ったゲラスは、そのまま猛然と憎き標的目掛けて突撃を繰り出した。
「今度こそ終わりだっ! 俺の角に貫かれて死ねよっ! ギガ・プレッシャー・ホーンっ!!」
「……っ!」
突進の威力を上昇させるべく、先ほど以上の魔力を脚と角に込めて必殺技を繰り出したゲラスへと、マルコスがギガシザースを構える。
黄金の盾に隠れた彼を、その装甲ごと自慢の角で貫いてやると……そう意気込んで突っ込んだゲラスは、彼が構える盾と正面からぶつかり合い、そして――!!
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