男の、戦い
「ぐっ、っっ……!!」
「ほらほら、どうしたんだよ!? 俺を許さないんだろ!? もっと頑張れよ!! ほらっ!!」
「マルコス……っ!!」
舞台は再び、海岸沿いへ。クリアプレート所持者であるゲラスとの一騎打ちに臨むマルコスのことを、エレナは不安気に見守り続けていた。
硬く重い超重量の肉体と頭部の鋭い角、そして抜群の突進力を活かしたパワフルなゲラスの攻撃を前に、マルコスは苦戦を強いられている。
決定打こそ食らっていないものの、何度もゲラスの突撃を受けてはギガシザースごと吹き飛ばされるマルコスの姿を見ていたエレナは、彼が心配で気が気ではなかった。
「このままじゃマルコスも、ポルルみたいに……っ!!」
愛する家族を奪ったゲラスが、今度はマルコスをも手をかけようとしている。
ゴールデンキャンサーの硬い甲殻すらも打ち破ったゲラスの一撃と、倒れるポルルの姿をフラッシュバックさせて握り締めた拳を震わせたエレナは、またしても吹き飛ばされるマルコスの姿にハッと息を飲んだ。
「ぐっ! くっ……!!」
「マルコスっ! もう、もう……っ!!」
何度もゲラスに突撃され、その度に地べたを転げまわっているマルコスの体は、もうボロボロだ。
土に塗れ、擦り傷が至る所に見受けられる彼の姿に、ポルルの敵討ちなどせずに一緒に逃げようとエレナが叫ぼうとしたところで、ユーゴたちが姿を現す。
「マルコスっ! エレナっ!!」
「良かった! 無事だったんだね!!」
「ユーゴ! お願い、マルコスを助けてっ!!」
マルコスのピンチに駆けつけてくれた仲間たちへと、必死に助力を求めるエレナ。
半泣きの彼女の顔と、その彼女に見守られながら鈍色に輝くサイの魔鎧獣と戦うマルコスの姿を順番に見つめたユーゴたちは、やはりレイナの他にもクリアプレートの所持者がいたのかと考えると共に……地面に倒れて動かなくなったポルルに気が付く。
「ポルル……? そんな、まさか……!?」
「ポルルが私を守るためにやられちゃって……! マルコスは、敵討ちのためにあいつと戦ってるんだよ!!」
「サハギンも人間も魔物たちも関係ない……あの人、この島にいる全員を殺すつもりだ! 放っておくと危険だよ!」
「……ああ。久々に、本気で許せねえ奴と出会ったぜ」
ブルー・エヴァーの計画を利用してシャンディアに被害を与え、しかも全ての命を屠ろうとするゲラスの暴挙に怒りを募らせるユーゴたち。
ちょうどそのタイミングで彼に弾き飛ばされ、自分たちの近くへと吹き飛ばされてきたマルコスに手を貸しながら、ユーゴが言う。
「マルコス、手を貸すぜ。ポルルの弔い合戦、俺にも付き合わせろよ」
「私も! 本気で怒ってるんだから!!」
「ちぇ~……! 三対一か。まあ、いいよ。雑魚がどれだけ束になっても、俺には敵わないからね!」
ユーゴが拳を握り締め、メルトが無数の魔力剣を生成し、宙に浮かべる。
それでもなお余裕を崩さないでいるゲラスへと攻撃を仕掛けようとした二人であったが……ユーゴの手を振り払って立ち上がったマルコスが、静かな声で言った。
「……手を、出すな」
「えっ……!?」
静かな、だがはっきりとしたその声に驚きの表情を浮かべる一同。
そんなユーゴたちに向け、マルコスが再び同じ言葉を繰り返す。
「ポルルの敵討ちをしたいというお前たちの気持ちは痛いほどわかる。だが……これは私の戦いだ。お前たちは手を出すな」
「……!!」
フィーを、メルトを、エレナを、そしてユーゴを……順番に見つめながら手出しは無用だと言い切ったマルコスが、再びゲラスへと向かっていく。
助力を断り、たった一人で強大な敵に立ち向かおうとする彼を見ていられなくなったエレナは、目に涙を浮かべながら叫んだ。
「一人で戦うなんて無茶だよ、マルコス! このままじゃあなたが殺されちゃう!!」
「……って、かわい子ちゃんが言ってるけど? 信じられてないねえ、お前ってさ!!」
「ぐっはあ……っ!!」
「マルコスっ!」
エレナの叫びを聞いたゲラスが、マルコスを嘲笑いながら角で突き上げる。
放物線を描いて背後へと放り投げられた彼が地面に叩きつけられる様を目にしたエレナは、悲鳴を上げてマルコスの下に駆け寄ろうとしたのだが、その肩をユーゴが掴んで止めた。
「待つんだ、エレナ」
「ユーゴ……!? なんで見てるの!? マルコスがピンチなんだよ!? あなたとマルコスは友達で、一緒に戦う仲間なんでしょ!? なのに、なんで――!?」
「そうだよ、兄さん。このままじゃマルコスさんが……!!」
「……これはマルコス自身が望んだことだ。あいつの誇りを賭けた、あいつの戦いに、手出しはできねえ」
苦戦するマルコスを助けるべきだと言うエレナとフィーへと、そう言葉を返すユーゴ。
兄の返事に複雑な気分を抱いたフィーがメルトの方を振り返れば、彼女もまた険しい表情を浮かべながらも戦いを見守る姿勢を見せている。
戦いの結果がどうなろうとも、二人は全てを見届けるつもりなのだろう。
そうしている間にもゲラスの突進を受けて吹き飛ばされるマルコスの姿を見ていられなくなったエレナは、ぎゅっと目を閉じると顔を伏せてしまった。
「嫌だよ……! ポルルだけじゃなくってマルコスまでいなくなっちゃうなんて、絶対に嫌……!」
「………」
絞り出すような声で苦し気に呻いたエレナを見つめた後、視線をマルコスの方へと向けるユーゴ。
フィーたちもまたハラハラとした心境でその戦いを見守る中、ゲラスが一気に勝負を決めにかかる。
「可哀想だね、お前。仲間にも見捨てられちゃうだなんて、見てらんないよ。あんまりにも可哀想だからさ……そろそろ、楽にしてあげようかな!!」
「……っ!!」
全身に魔力を漲らせたゲラスが、体勢を低くして構えを取る。
強烈な攻撃が来る……と本能で察知して防御態勢を取ったマルコスへと、ゲラスは猛烈な勢いの突進を繰り出してみせた。
「プレッシャー・ホーンっ!!」
「ぐっ、はあ……っ!!」
「ああっ!? マルコスっ!!」
今までよりも大きく、遠くへ吹き飛ばされるマルコスの姿と苦し気な声に、悲痛な表情を浮かべるエレナ。
彼が地面に叩きつけられると共に、その場にガクリと崩れ落ちた彼女が項垂れる中、振り返ったゲラスが楽し気な声で言う。
「さ~て、まずは雑魚を一匹撃破っと……! 次はお前? それともそっちのかわい子ちゃん? 二人同時でも俺は構わないけど、どうする?」
くいっ、くいっ……と、手招きをしながらわかりやすい挑発をするゲラス。
怒るか、怯えるか、泣き叫ぶか……ユーゴたちがどんな反応を見せるかを楽しみにしている彼は、地面にへたり込みながら呆然と涙を流すエレナの姿を見て、いい気分になっていたのだが、そんなゲラスへと腕を組んだままのユーゴが口を開く。
「……おい、勘違い野郎。お前に一つだけ言っておくぜ」
「は? なに? 命乞いの言葉だったら聞いておいてあげるけど?」
笑いも、泣きも、怒りもしていないユーゴの淡々とした声に若干苛立ちながらも挑発を続けるゲラス。
そんな彼を真っすぐに睨みながら、ユーゴは静かにこう言い放った。
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