燃えよ青龍

「私を舐めるのもいい加減にしろっ! お前は、絶対に消し炭にしてやるっ!!」


 そう叫びながら、全身に炎を纏うための構えを取るレイナ。

 炎の砲弾となってユーゴと正面衝突すれば、威力に勝る自分の方が相手に痛手を与えられるはずだ。

 ユーゴが回避するならそれはそれで良し。及び腰になる相手から少しずつ戦いの主導権を奪い返していけばいい。


 捨て身の真っ向勝負を挑むため、体を燃え上がらせようとするレイナであったが……しかし、ユーゴはそんな彼女の考えを読んでいた。

 故に、今度は回避するのではなく、相手が技を発動する隙を作らせないために水流を噴射する。


「なっ……!?」


 攻撃にのみに気をやり、炎を生み出すためにその攻撃の意識にも緩みが生まれたその一瞬を、ユーゴは見逃さなかった。

 背面と脚部から水流を放ち、レイナとの距離を一瞬で消滅させる急接近を見せたユーゴは、その勢いのままに握り締めた棍を突き出す。


「うおりゃあああああああああっ!!」


「ぐあああああっ!?」


 ドスッ、という鈍い音と共に棍の先端がレイナの左胸へと叩き込まれる。

 跳躍の勢い+水属性の魔力+レイナ自身の突進の勢いをカウンターとして活用したことによって、その一発は想像を超えた威力を誇っていた。


「がっ、ああっ……! こ、こんな、馬鹿な……っ! プレートの力を得た、私が――!!」


 決定打にはならなかったものの、打たれた左胸を通じて魔力を注ぎ込まれたレイナは体内に響くダメージによってまともに身動きができないでいる。

 どうにか体勢を立て直そうとする彼女であったが……ユーゴは既に、トドメの一撃を繰り出す準備を整えていた。


「さあ……これで決まりだ!」


 棍を振り回して気力を高めた後、それを地面に突き刺して跳躍の構えを取るユーゴ。

 その背後には青の鎧が持つ水属性の魔力によって巨大な青龍が作り出されている。

 両腕を広げ、体勢を低くし、討つべき敵であるレイナを見据えたユーゴは、彼女目掛けて高くではなく、鋭く一直線に背後の青龍と共に飛び立った。


 ――ここで、改めて青の鎧の特徴について触れておこう。

 この形態の強みは全身に取り付けられた噴水機構による空中でのトリッキーな動きと……というアンバランスな調整だ。


 このおかげで、パンチ力や防御力に関しては大したものは持っていないが、脚力に関してはむしろ他の形態よりも優れているのである。

 つまりはジャンプ力はもちろん、キック力に関しても細身のシルエットに反して相当なものを持つこの青の鎧が、跳躍と蹴りをフル活用して必殺技を繰り出せば……その破壊力は、尋常ではないものになる。


 レイナの眼には、構えを取ったユーゴが地面を蹴った次の瞬間には、自分の目の前に出現していた。

 あまりにも早い跳躍から直撃までの早さにまともな防御態勢すら取れない彼女へと、ユーゴの跳び蹴りが炸裂する。


「ドラゴニック・ブラスタァァッ!!」


「ぎゃあああああああああああっ!?」


 叩き込まれた低空ジャンプからのキックに、レイナが体を大きく仰け反らせながら吹き飛ばされる。

 ユーゴの跳び蹴りに合わせて飛翔した青龍は水で構成された体内に彼女を飲み込むと、大爆発を起こして決定的なダメージを与えてみせた。


「あっ、がっ……! ぐえぇ……!」


「……火遊びはここまでだ。こいつは預かっとくぜ」


「か、返せ……! 私の、プレート……ぐっ」


 爆発の中、魔鎧獣への変身を解除されたレイナから排出されたクリアプレートを拾い上げるユーゴ。

 レイナは最後の足掻きとばかりに手を伸ばすが、既に限界を迎えていた彼女はそこでガクリと倒れ伏し、動かなくなった。


 暴れていた彼女を制圧したユーゴは一息つくと、回収したクリアプレートなるアイテムを観察する。


「クリアプレートって言ってたな? いったいこいつはなんなんだ……?」


 正方形の小さな板に、アルファベットのFの文字が浮かび上がるような形で刻印されているプレートをまじまじと見つめるユーゴ。

 今までも人間を魔鎧獣にする道具はいくつも見てきたが、これはそういった物とは何かが違う気がする。


 というよりも……ユーゴには、これとそっくりのアイテムに心当たりがあった。

 細かな部分こそは違うが、アルファベットが刻まれていて、肉体に挿し込むことで使用者を驚異的な力を持つ異形の怪物に変身させるという特徴は、大好きなヒーロー番組に出てきたあのアイテムと酷似している。


 以前に遭遇したロストのことを思い返し、まさか……と考えていたユーゴへと、駆け寄ってきたフィーとメルトが声をかけてきた。


「兄さん、怪我はない? って、それは――!?」


「そのプレートだよね? この人を魔鎧獣に変えたの……?」


「ああ、そうみたいだ。こいつを詳しく調べるのは後にしよう。それよりも、こいつと同じ物を持ってる奴がいるかもしれない。そっちの方が問題だ」


「アンさんは集落を確保して防衛してるって言ってたし、リュウガさんたちもサハギンたちと戦ってる。となると、残ってるのは……」


「マルコスとエレナ! この女が歩いてきた方角も、そっちの方だよ!」


 クリアプレートを持つ人間が他にもいて、この島のどこかで暴れているのではないか? というユーゴの考えを聞いたフィーとメルトがここまで得た情報を元に推理を進める。

 レイナは仲間と狩場が競合することを嫌がり、その人物がいない場所に移動して狩りをしていたのではないかと……ほぼ完璧に等しい答えを導きだした三人は、マルコスたちがいるであろう方角へと視線を向けた。


「状況が状況だ。マルコスなら心配ないだろうが、エレナや島の人たちもいる。念のため、様子を見に行こう」


「そうだね。フィーくん、悪いんだけどこの位置をアンたちに伝えてもらえるかな? ここの人たちの避難をお願いしなくちゃ」


「わかりました。サハギンたちもリュウガさんが相手をしてくれてるおかげかもう全然姿が見えませんし……アンさんたちが来るまでの安全も問題ないと思います」


 第二のクリアプレート所有者との遭遇を警戒しつつ、ユーゴたちはマルコスたちの下へ向かう準備を整えていく。

 自身の最大の友であり好敵手のことを思いながら、ユーゴは険しい表情で呟くのであった。


「お前なら大丈夫だと思うが……無茶だけはすんなよ、マルコス……!」

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