紅蓮防衛作戦!
「兄さん! ユイから連絡があったよ! 集落に近い海岸に上陸したサハギンたちは、リュウガさんが食い止めてくれてるって!」
「そうか! あいつが相手してくれてるなら、心配は無用だなっと!!」
背後から響いた弟の声に反応しながら、握り締めた左拳を目の前のサハギンへと叩き込むユーゴ。
そのまま、流れるような動きで魔物の腹に肘打ちを叩き込めば、血を吐いたサハギンが吹き飛ばされると共にぴくりとも動かなくなった。
「ギョッ! ギョッ! ギョッ!」
「ギョラアアアアアアンッ!!」
「もう! 次から次へと……! 折角、ユーゴとデートできる権利を勝ち取ったっていうのに、このお邪魔虫めっ!!」
マルコスやリュウガたちよりも比較的内地の側にいたユーゴたちは、異変に気が付くのが少し遅れた。
島の至る所で上がる火の手に気付き、何が起きたのかと驚いて駆け付けたところで、マルコスのように暴動を起こしているブルー・エヴァーの構成員たちとの揉め事に陥ったのだが、彼らを制圧しかけたところで上陸してきたサハギンとの連戦をする羽目になった、という感じだ。
そのため、他の場所に比べて、敵の数自体は少ないのではあるが……それでも、二人で相手するには少し多い敵が襲来している。
おまけに制圧して倒れているブルー・エヴァーの構成員や、ナイトツアーの案内役として配置されていたシャンディアの人々、観察対象の魔物といった守らなければならない者たちは三か所の中で最も多く、それがユーゴたちを苦戦させていた。
「立てますか? 早くこっちへ!」
「あ、ありがとう、助かったよ……!」
戦うユーゴとメルトを手助けすべく、倒れている人々に声をかけ、退避に手を貸すフィー。
小さな体で必死に動き回る彼であったが、そんなフィーにもサハギンたちの魔の手が迫る。
「ギョガアアアアアアアッ!!」
「し、しまった……っ!」
「フィー! このっ、退けっ! 魚野郎がっ!!」
倒れていた人々を助け起こしたフィーの前に立ちはだかるサハギンたち。
小さく弱い子供は格好の獲物であるとばかりにフィーを狩ろうとする魔物たちであったが、その前に何者かが降り立ち、その顔面を薙ぎ払う。
「ギョロッ!? ギョガッ!?」
「ウッギャアアアアアアアアアッ!! フシャアアアアアアアッ!!」
「ウキキキキキーーッ!!」
「き、君たちはっ!」
フィーを庇うように彼とサハギンたちの間に立ちはだかったのは、アイドリマーの親子であった。
親猿が武器として木の枝を棍棒のように振るってサハギンを薙ぎ倒した後、不意を突かれて動揺する相手を全力で威嚇する。
全身の毛を逆立て、牙を剥き出しにして自分たちを威嚇する相手の出現に、サハギンたちは完全に面食らってしまった。
親猿と、その肩で同じように威嚇してくる子猿のコンビを前に動きを止めたサハギンたちの体に、どこからか飛来してきた魔力の剣が次々と突き刺さっていく。
「フィーくん、ごめん! 怪我はない!?」
「僕は大丈夫です! 君たちも、ありがとう!」
「ウキャキャッ! ウキッ!!」
アイドリマーの親子によって窮地を脱したフィーが、サハギンたちにトドメを刺したメルトに応えながら彼らに感謝を述べる。
先ほどまでの威嚇をしていた恐ろし気な雰囲気を消し去った親子は、そんなフィーへと手を挙げて応えてみせた。
昼間、子供を助けてくれたお礼ということなのだろう。その恩を忘れず、この魔物たちは獰猛なサハギンたちの前に立ちはだかってくれた。
周囲を見てみれば、アイドリマー以外にも開放された魔物たちが共に暮らすシャンディアの人々に手を貸していたり、自分たちの住む島を破壊したブルー・エヴァーの構成員たちをちょっと乱暴に扱いながらも運んでやったりと、人間たちを手助けしてくれていて……戦闘領域から庇うべき人の姿が消えたことを確認したフィーは、大きく頷くと共に兄へと叫ぶ。
「兄さん! みんなの救助は終わったよ! 本気を出しても大丈夫!!」
「一気に決めるでしょ? だったら、これも使っちゃって!」
「サンキューな、フィー! メルト! それじゃあ、十秒で決めさせてもらうぜ……超変身っ!!」
フィーから状況を聞き、メルトから魔力剣を受け取ったユーゴが十数体は残っているサハギンたちを見やりながらブラスタの形態を変化させる。
ゴウッ! というジェットエンジンの点火音のような音を響かせながら、首から炎でできたストールを噴き出させた彼は、炎の鎧を発現させると共に魔物たちを睨んだ。
「さあ、今度はこっちの番だ。覚悟しろ!」
「ギョッ――!?」
胸に灯る魔法結晶が放つ紅の輝きと、そこから生み出された魔力を四肢へと送り込むラインの光が闇夜を照らす。
カッ! とブラスタの瞳が光ったかと思った次の瞬間、ユーゴは炎を灯した剣を振るい、超高速でサハギンたちを次々と斬り捨てていった。
「ギョガアアアッ!?」
「ギャオオオオオオッ!?」
一体、また一体とユーゴに斬られ、傷口から噴き出した炎に飲まれて灰と化していくサハギンたち。
仲間たちがやられる様を目の当たりにしたサハギンたちはどうにか逃亡を図ろうとするが、ここで彼らを逃せばまた被害が出ることを理解しているユーゴは、心を鬼にしてそんなサハギンたちを叩き斬る。
「ギョッ!? ギャアアアアアアアッ!!」
「……終わった、か」
そうして最後のサハギンを斬り捨てたユーゴは、炎に巻かれる魔物の姿を見ながら心苦しさを抱き、呻いた。
元々、ブルー・エヴァーの面々が騒ぎを起こさなければ、彼らもこんな暴走などしなくて済んだのかもしれないと思いながら、本当に悪いのはサハギンではなく人間なのだろうと思いながらも今は自分のすべきことをやろうと考えたところで、ガサガサという音と共に近くの草むらから男子生徒が飛び出してくる。
「くそっ! どこだよ、ここ!?」
「お前は……確か、ウォズだったっけか?」
お気に入りのヒーローと名前が被っていたおかげで彼のことを覚えていたユーゴが、唐突に姿を現したウォズへと声をかける。
その声に顔を上げ、サハギンたちやブルー・エヴァーの面々が対峙されている様を目にしたウォズは、忌々し気な表情を浮かべながらがっくりと項垂れた。
「ぜ、全員倒されてる……! 俺の、経験値がぁ……!!」
サハギンたちは別として、今の自分でも楽々倒せるブルー・エヴァーの構成員たちから貰える経験値は、是非とも確保しておきたかったのだが……道に迷っている間に、ユーゴたちに倒されてしまったようだ。
そもそも、自分はエレナたちがいるであろう海岸近くを目指していたというのに、こんな場所に出てしまうだなんてと自らの方向音痴っぷりにショックを受けるウォズへとユーゴが問いかける。
「どうした? どこか具合が悪いのか? お前の相方はどこにいるんだ? はぐれたのか?」
クズのユーゴにここまで心配されるだなんて、それはそれでショックだ。
折角この島に来たというのに、何の成果も挙げられないことにがっくりと項垂れ続けるウォズであったが……その時、唐突に暗闇の中から声が響いた。
「ねえ。あんたたちが探してるのって、もしかしてこいつのこと?」
「「えっ……?」」
ユーゴとウォズが、聞きなれない女性の声を耳にして顔を上げた瞬間、二人の間を何かが通り抜けるようにして飛来してきた。
驚いてそちらへと視線を向けた二人は、飛んできたものの正体を理解すると共に目を見開く。
「と、トリン……!?」
「うぐっ、あ、が……っ」
地べたに転がり、苦しそうに呻くボロ雑巾のようなそれは、傷だらけになったトリンだった。
髪の一部が引き千切られ、全身は打撲の跡でボロボロ。血を流しているところもあれば、青あざができている部分もあり、腕と脚が片方ずつ変な方向に折り曲げられている。
一目で重症とわかる彼の姿に絶句していたユーゴたちであったが……その彼を放り投げた張本人が、闇の中から姿を現した。
「ああ、やっぱそのゴミで合ってたんだ。返すよ、そいつ」
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