重装のRhinoceros
「あ、もう始める? 確かにそろそろ頃合いだしね」
「げ、ゲラスくん? レイナくん? な、なにを言って……?」
「なんだ? 仲間割れか……?」
ここまで自分に忠実だったゲラスが急に暴力を振るってきたことや、そんな彼の意味深な発言にこれまた意味深な言葉を返すレイナの姿に驚きを隠せないでいるリーダー。
ブルー・エヴァーの面子同士が争っているように見える場面を目の当たりにしたマルコスがサハギンたちの相手をしながら彼らを見守る中、ゲラスは懐から何かを取り出した。
「さ~て……! ブルー・エヴァーの奴らも、この島の連中も、サハギンたちも、全員まとめて皆殺しだ~っ!!」
楽しそうに……実に楽しそうに、そんな物騒なことを言ったゲラスが手にしているのは、四角いプレートだった。
何か文字が書かれているように見える正方形のそれを手裏剣でも放るように自分の左肩へとゲラスが投げれば、なんとプレートが彼の体の中に吸い込まれていったではないか。
「なんだ? 今、何をした……!?」
一瞬だけ見えたプレートが、何か禍々しい雰囲気を放っていたことを見て取ったマルコスが嫌な予感を覚えながらゲラスへと注目する。
そんな中、プレートを突き刺したゲラスの肉体が光ったかと思えば、一瞬にしてその肉体を大きく変化させてみせた。
「ふぅ~……っ! ホント、最高の力を手に入れたぜ。この力は、マジで最高だ!」
「わ、わ、わ……っ!? げ、ゲラスくんが、ま、魔物に……!?」
細くひょろっとしていた体型から一変、丸太のように太い四肢とそれで支えるに相応しい肉厚な巨体を誇るようになったゲラスが、鈍色の装甲に包まれた体を揺らす。
がっしりとした太い首から続き、手前から奥へと伸びる長い頭部。そして、その額に輝く鋭く大きな角。
一言で言うならば、人型のサイ……明らかに人間ではなくなった彼の姿を目にしたリーダーが錯乱する中、ゲラスはくるりと振り向くと、視線の先にいたブルー・エヴァーの構成員と彼らを追うサハギンの群れへと突っ込んでいく。
「オラオラオラ! いっちゃうよ~んっ!!」
「えっ!? あっ!? えっ!?」
「ギョオッ!?」
ズシン、ズシン……と、その場で足を踏み鳴らした後、タックルの構えを取るゲラス。
そのまま一気に駆け出した彼は、全身の装甲を炎で照らしながら標的へと突撃していく。
凶暴な魔物に襲われる仲間たちを助けるため……などではない。
ゲラスは、人間も魔物も関係なく硬い装甲に覆われた巨体での突進を叩き込み、彼らをまとめてなぎ倒してみせた。
「ぎゃああああああああああああああっ!!」
「ギョギョガアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
まるでボウリングのピンが弾け飛ぶように、人と魔物が吹き飛ぶ。
まともな受け身を取れなかった人間が地面に叩きつけられてピクリとも動かなくなったり、突進の威力に肉体を崩壊させたサハギンが空中で息絶える中、彼らへと突進を繰り出したゲラスが満足気に叫んだ。
「いや~、マジで最高! 楽し過ぎる!! 誰も俺に逆らえないって、いい気分だな~!」
「ったく、はしゃいじゃって……! しゃ~ない。私は別の場所で狩りをしてくるから、ここの獲物はあんたに全部あげるよ」
「サンキュー! とりあえず、目についた奴らから片っ端に皆殺しにする感じでな~!」
「な、なんで……? ど、どうしてこんなことをするんだ!? か、彼らは同志じゃないか! 自然と魔物たちの自由を守るために共に活動してきた、志を同じくした仲間に、どうしてあんな真似を……!?」
「は? ……ああ! もしかしてあんた、俺たちがガチでそんな馬鹿みたいな考えに賛同してると思っちゃってた系?」
「ば、馬鹿……!?」
どうして仲間を攻撃したとリーダーが問えば、ゲラスは冷酷な嘲笑と共に彼へとそう答えてみせた。
その答えに愕然とするリーダーへと、ゲラスは嘲笑うようにこう言葉を続ける。
「あのさ、俺たちみたいな若者が、そんな痛いこと考えながら馬鹿みたいな真似するわけないじゃん。俺たちはさ、ただ暴れたかっただけなんだよ」
「あ、暴れたかった、だけ……?」
「そう! あんたらと一緒ならさ、正義の名の下に~! って言いながら、適当な連中をボコれるでしょ? 実際、魔物と住民たちの被害を考えずにこうして島を一つ焼き払ったりできてるわけだしさ。それが楽しいから俺らは馬鹿のふりをしてたんだよ。そもそも、本気で自然と魔物を守ろうとしてたら、それをぶっ壊す真似をするわけないじゃん!」
「え? え? え……!?」
「あとさ、俺たちだけがそう思ってるわけじゃないからね? ブルー・エヴァーの代表さんとか、絶対にそんな痛い使命感とか持ってないよ。あの人たちはただ、正義ごっこをしてればスポンサーがついて、そこからお金が貰えるからこんなことをしてるだけ。あんたみたいな馬鹿を上手いこと煽ってね。もう少し現実見た方がいいよ、オッサン!」
「そ、そんな、そんな……!?」
上司も部下も、自然を守ろうだなんてこれっぽっちも考えていなかった。
自分の欲望を満たすためにブルー・エヴァーを、自分たちを利用していたと知ったリーダーは、その現実に打ちのめされている。
ゲラスは、そんな彼を見てニヤリと笑うと共に、先ほどと同じく強烈な突進を繰り出し、彼を轢殺しようとしたのだが――?
「くっ! 馬鹿がっ!!」
「あぁん……?」
リーダーに突進が炸裂する寸前、黄金の盾がその突撃を阻んだ。
標的を庇ったその盾を角で掬いあげるようにして弾き飛ばせば、背後にいたリーダーを掴んだマルコスごと盾は宙を舞い、ゲラスの背後の地面へと二人が激突する。
「き、君は……? なんで、私を……!?」
「力なき者を救うのは貴族として当然のこと。それに、我が友も迷わず私と同じことをしただろう。それが忌々しい相手だとしてもな」
騒動の元凶となった自分を助けに飛び込んだマルコスへとリーダーがそう問いかければ、彼は己の信念に従ったまでと答えを返した。
しかして、ゲラスの一撃を受けた際の衝撃を振り返ったマルコスは、痺れる左腕を押さえながら歯を食いしばる。
(今の突進、すさまじい破壊力だ。そして、人間二人をここまで掬い上げ弾き飛ばす膂力……これまで戦ってきた魔鎧獣よりも間違いなく強い!)
ラッシュが変貌した蟹の魔鎧獣よりも、イザークが変身した蝙蝠の魔鎧獣よりも、目の前にいるあのサイの魔鎧獣は強い。
今の一撃でそのことを理解したマルコスが、謎のプレートを用いて変身した強敵の出現に冷や汗を流す中、ゲラスは次なる標的へと視線を移していた。
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