ひろがる運命!の輪
何の変哲もないその岩を懐かし気に見つめるエレナ。
そんな彼女の話に耳を傾けるマルコスは、黙ってその続きを聞いていく。
「もうずっと前、私がちっちゃな頃にね、ママが死んじゃったの。温かくて、太陽みたいで、本当に大好きだったから……いなくなっちゃった時は、すごく寂しかった」
「……そうだろうな。大切な人を喪うのは、誰だって寂しく、悲しいものだ」
「うん……それで私、ここに来て泣いてたの。岩陰に隠れて、ぐすぐす泣いて……そこで、同じような鳴き声が聞こえることに気付いて顔を上げたら、浜辺に打ち上げられたポルルがいたんだ」
目を細め、その時のことを思い返しながらエレナが言う。
視線を浜辺ではしゃぐポルルへと向けた彼女に釣られて同じ方向を見たマルコスへと、エレナは話を続けていった。
「初めて会った時、ポルルは子供の私よりも小さな赤ちゃんだった。傷だらけで、つらそうに泣いてたんだ」
「ポルルに仲間はいなかったのか?」
「……多分、近くに住んでる魔物に襲われたんだろうって、そうパパは言ってた。他のゴールデンキャンサーたちの姿も全然見つからなかったしさ」
「そうか……」
エレナ同様、ポルルも家族を喪ってこの島に流れ着いたのだと、その話を聞いたマルコスがはしゃぐあの魔物にもつらい過去があったのだなと思う。
そんな彼へと、エレナはそこからどうなったのかを話し始めた。
「見つけたポルルを家に連れて帰って、傷の手当てをしてね、パパからそう聞かされた時、思ったんだ。ポルルは、私と一緒なんだなって……同じように大切な人を喪って、同じように苦しんでる。そう思ったら、もう放っておけなくなっちゃってさ。ずっと一緒にいようって思ったんだ」
「……それが、お前とポルルが家族になるまでの経緯か」
「うん! それからはずっと一緒! あっという間にポルルも成長して、私よりも大きくなって、そろそろ大人になろうとしてる! それだけの時間、ずっと一緒に過ごしてきた。ママの代わりでもない、仲間の代わりでもない。お互いがお互いに大切に思う、家族としてね」
誇らし気に、少しだけ恥ずかしそうに語るエレナへと、マルコスが優しい笑みを浮かべる。
同じ傷を負った者同士が心を通じ合わせれば、そこに種族の壁なんてないんだろうなと考える彼へと、エレナはこう続けた。
「運命は渦潮。楽しいことも悲しいことも巻き込んで、大きくうねり続ける……そう、パパが言ってた。そうやって大きくなった運命は他の誰かを巻き込んで、その人の運命も変えるんだって」
「面白い言葉だな。確かにそうかもしれん」
「でしょ? 大切な人と離れ離れになった悲しみが、私とポルルを引き合わせてくれた。マルコスも同じ。ユーゴと出会って、その運命に巻き込まれて、変わったんだよね? だから今、私たちはこうして話してる。何か一つでも噛み合わなかったら、こうなってない。そして、こうして出会った私たちの運命も重なって……もっと大きな運命になるかもしれないね」
「ははっ、かもな。そうなったら、きっととんでもない数の人々の運命を変えることになるんだろう」
いい言葉だと、的確に自分たちの状況を指し示していると、マルコスは思った。
それがたとえ小さくとも、確かに変わった運命が渦を巻き、段々と成長していく最中に他の誰かの運命を巻き込んでいく。
ユーゴという人間の運命に巻き込まれた自分の運命が変わり、彼と共に成長する自分がまた誰かの運命を巻き込んで変えられたとしたら……きっと、より多くの人々を巻き込む力強い渦になるのだろう。
この島に来て良かった。求めていた武器とは出会えなかったが、代わりに面白い出会いを経験することができたから。
エレナと見つめ合いながら、そんなことを考えていたマルコスであったが……その耳に、ポルルの声が響く。
「カニッ! カニカ~ニ~ッ!!」
「ポルル? どうしたの、そんなに騒いで?」
「何かあったのか?」
はしゃいでいるとは違う、どこか焦った様子のポルルの声を訝しんだ二人が、その声のする方へと向かっていく。
砂浜の中にある、岩に囲まれて見えない位置にまでやって来たマルコスとエレナは、そこで騒ぐポルルの傍らにある物を見て、目を見開く。
「なに、この船……? こんなの、シャンディアにはないよ……!?」
その岩場に隠されていた、どう見ても新型のボート数隻を見つけたエレナが驚きに声を漏らす。
ボートに近付き、それを調べたマルコスは、妙な魔力の流れを感じてはっとすると共に彼女とポルルをボートたちから引き剥がした。
「危ないっ!」
「きゃあっ!?」
「カ~ニ~ッ!?」
マルコスが二人をボートたちから引き剥がした瞬間、小さな爆発が何度も起こった。
ボートを完全に破壊するような爆発ではなかったが、その航行機能を失わせるには十分な威力を持つそれが収まったことを確認してから、改めてマルコスがボートの調査を行う。
「マルコス、これって……!?」
「……ブルー・エヴァーの連中が乗ってきた船だろう。間違いない。奴らは今、この島に上陸している。しかし、どうして乗ってきた船を破壊するような仕掛けを……?」
こそこそとこの島に乗り込むような真似をする連中なんて、彼ら以外に心当たりがない。
だがしかし、どうしてブルー・エヴァーの連中は自分たちのボートを破壊したのか? と考えていたマルコスであったが、島の方から火の手が上がる様を目にして、その思考を中断させた。
「あっちは魔物たちが沢山住んでる場所だよ! みんなが危ない!」
「行こう! 何が起こっているかわからないが、魔物たちを救わなくては!」
火の手の上がった方向へと、一目散に駆けていく三人。
一刻も早く危機に陥る魔物たちを救わなければと息を切らせながら走り、現場に到着したマルコスたちは、そこで広がっている光景を目の当たりにして、愕然としながら声を詰まらせた。
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