一方その頃、マルコスは……
(改めて考えると、どうしてこうなっているんだという感想しか出てこないな……)
一方その頃、マルコスはエレナとポルルと共に夜のシャンディア島を巡るツアーを堪能しながら、そんなことを思っていた。
眠っている魔物や、逆に夜行性で夜に動き出す魔物たちの姿を見るのはいい経験になったし、純粋に楽しいとも思う。
これぞ修学旅行、という感じの滅多にできないいい学びを得られたというのが彼の感想だ。
だが、しかし……少し冷静になると、色々と違和感を覚えてしまうのも事実。
そんなふうに悩んではいないが少しだけツッコミを入れたくなるようなマルコスの気分を察してか、エレナが声をかけてきた。
「マルコス、どうかした? みんなを見て回るの、つまらなかった?」
「いや、そんなことはない。ただ、この状況が不思議だと思ってな」
「不思議? なにが?」
きょとんとした様子で首を傾げるエレナへと、苦笑を向けるマルコス。
それもそうだろうなと思いながら、彼は彼女へとこう語っていく。
「大したことではないさ。ただ、修学旅行で外泊し、夜の島を現地の少女とその家族である蟹の魔物と一緒に歩き回っているこの状況を改めて振り返ってみたら、なんだか笑えてしまってな」
「あはははは! そっか! マルコスが楽しんでくれてるみたいで、私たちも嬉しいよ!」
「カニカニ~ッ!!」
マルコスの答えに安心を通り越して喜びを感じたエレナとポルルが笑顔を浮かべる。
そんな二人を見た後、夜空へと視線を向けたマルコスは、小さく息を吐くと共に小さな声で呟く。
「本当に……様変わりし過ぎた。どうしてこうなったんだろうな……?」
「ん……?」
「カニィ……?」
首傾げ、再び。マルコスの言葉と様子に再び疑問を抱いたエレナとポルルが、そっくりのポーズを取る。
彼女たちへと視線を戻したマルコスは、ゆっくりと歩きながらこんな話をし始めた。
「お前たちにする話ではないかもしれないがな……私自身、少し前まで自分がこんなふうになるだなんて想像もしていなかった。この状況が、というだけじゃない。自分自身の変化に驚いている……ということだ」
「カニィ?」
「はっ……! 自分で言うのもなんだが、私は随分と嫌われていてな。家の関係で古くからの付き合いがある者以外に親しく接する者なんていなかった。そいつらは大切な部下だが、友達というのとはまた違った存在だったからな。まあ、そんな感じだったんだ」
「そうなの? でも、ユーゴたちとはすっごく仲がいいじゃん! 昨日、会ったばかりの私から見ても、もうずっと昔から友達だったみたいな感じがしたよ!」
「ふふっ……! あいつとまともに関わり始めたのはほんの数か月前だ。それに、お互いに第一印象は最悪だったぞ? なにせ実質初対面で喧嘩までしたんだからな」
「ええ~っ!? そうなの? それなのに、よくそんな仲良くなれたね?」
「本当にそうだな。変な話だ。いや……変な奴、と言った方が正しいかもしれんな」
そう言って、マルコスが少しだけ楽しさをにじませながら笑う。
ほんの数か月前だが、もう何年も前の出来事を振り返るかのようにユーゴとの出会いやそこから続く様々な思い出を思い返していったマルコスは、小さく頷きながらこう述べた。
「私の人生初の友は、とんでもなく変わった男だ。馬鹿正直だが友を信じ、突拍子のない行動を見せたかと思えば己の意思を貫く強さも見せる……そんな変な男に、私は憧れている。奴の友として、好敵手として、並び立てるだけの強さが欲しい……そう思っている自分がいることに驚いているよ」
「大好きなんだね、ユーゴのことが」
「奴には言うなよ? それに、勘違いするな。純粋な好意ではなく、私は奴を超えるべき目標と見ているんだ。今はまだ及ばないが、絶対に私は奴より強くなってみせるぞ! はっはっはっはっは!」
「カ~ニカニカニカニカニ!!」
「ふふふっ……! 変なの!」
胸を張り、夜空を見上げながら、大声で笑うマルコス。
ポルルが彼に倣って共に笑う中、ユーゴのことを変な奴と称したマルコスもまた、十分に変な人間であることを見て取ったエレナがクスクスと笑う。
なんとなく、彼が何を言いたいのかがわかったような気がした。
今、自分はユーゴより下だと、ライバルの方が強いと、そう素直に認めた上でその相手と絆を育めるような人間になっていることが不思議だと、そう言いたいのだろう。
砕けた言い方をすれば、アップライジングというやつだ。
ユーゴという目標を見つけたマルコスが変わり始めた日……そのきっかけを作った存在がユーゴなのだろう。
そういう相手と出会い、切磋琢磨し、友達になって……そうやって変わり続けたからこそ、今、この島でマルコスは自分たちと過ごしている。
ユーゴたちと出会っていなかったら、自分は今、ここでこうして奇妙な体験をしてはいなかったと、そこに繋がるまでのマルコスの考えを理解したエレナは、笑みを浮かべながら頷くと共に彼へと言う。
「……それが、マルコスの始まりなんだね。だったら、今度は私とポルルの始まりを教えてあげる! ねえ、こっちに来て!」
「うおっ!? お、おい! どこへ――!?」
ぐいっ、と腕を掴まれたマルコスがエレナに引かれ、何処かへと連れ去られていく。
少し走った先にあった林を抜けた二人と一匹は、その奥に広がっていた砂浜と海にやって来ると足を止めた。
「えへへっ! とうちゃ~くっ!」
「カニカニカニ~~ッ!!」
「はぁ……? まったく、なんだっていうんだ?」
腕を引っ張られて連れて来られた海岸を見て、そこではしゃぎ始めたポルルの様子も目の当たりにしたマルコスが呟く。
砂浜の一角にあった大きな岩へと歩み寄ったエレナは、その岩を撫でながら彼へと振り返ると、過去を懐かしむような声でこう言った。
「……ここが、私とポルルが出会った場所。私たちの始まりの場所だよ」
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