side:ウォズ&トリン(当たり前の扱いを受けている男たちの話)

「なんでお前と一緒に歩き回らなくちゃならねえんだよ!? エレナはどうした? エレナは!?」


「それはこっちのセリフだ! どうしてお前なんかと……!?」


 時間は過ぎて、今は夜。ユーゴたちお待ちかねの夜間ツアーのお時間がやってきた。

 夜の魔物の姿を間近で見れるツアーであり、肝試しも兼ねたこちらのアトラクションであるが、中には期待を裏切られて落胆している者たちもいる。


 それが誰かなんて、誰もが想像できていることだろう。

 事前に申請し、本日シャンディア島に泊まることになっていたウォズとトリンの二人だ。


 今夜、この島で起きるイベントの内容を把握していた二人は、それに備えて準備をしてきたのだが……蓋を開けてみたら、何故だか悪役のユーゴ率いる御一行様もこの島に残ることになっていた。

 おまけに、自分たちが知らない間に夜のツアーのメンバーも決められていて、夜のツアーは転生者同士で組むことになってしまったというわけである。


(本当だったら今頃エレナと一緒にいるはずだったのに、どうしてこいつと……!?)


(なんでユーゴが残ってるんだよ!? こいつもそうだけど、どいつもこいつも邪魔だなぁ!!)


 彼らの予定では、今頃自分は将来のパーティメンバーとなる美少女のエレナと二人きりで過ごしていたはずだった。

 そのはずが、どうしてだか隣にいるのは彼女を巡って争う憎いライバルの男子という状況になっている。


 何が悲しくて野郎二人で夜の島を巡らなくてはならないのか? 正直、こんな奴と一緒に回るくらいなら、一人で行くと言いたかった。

 しかし……割り振りを決めたエレナから「仲直りのために二人で行ってほしい」と言われたら断ることなんてできない。


 加えて、夜のツアーはこの後に起きるイベントの前座に当たるイベントだ。

 つまり本番はこの後のイベントで、そこでどう動くかによってエレナの好感度も大きく変わるだろう。


 そこに備えての準備はしてある。問題は、最大の障壁となるライバルの存在だ。

 ウォズも、トリンも、エレナを狙っている。彼女を我が物とするために、この後のイベントで全力を尽くすだろう。


 そこに至るまでの間に離れ離れになって、相手から目を離すのはマズい。

 確かに近くにいることで自分の行動を監視されるというデメリットもあるが、それは逆に相手の行動を監視できるメリットにもつながる。

 だったらもう、色々と割り切ってしまった方がいいだろうというのが二人の考えであった。


「くっそぉ……! せめてメルトたちと一緒なら、まだ楽しかっただろうに……!」


「なんでユーゴたちにヒロインを独占されなきゃならないんだ……?」


 そんな事情があるわけだから、一応、ツアーを一緒に巡る相手が大嫌いなライバルであることには納得できた。

 だが、どうしても納得できないこともある。今現在、同じ夜のツアーに参加しているユーゴたちの存在がそれだ。


 腹立たしいことに、本当に腹立たしいことに……彼らは今、人気ヒロインたちを独占している。

 弟のフィーも一緒とはいえ、ユーゴはメルトとグループを組んで彼女と夜の島を巡っているし、リュウガもまた妹のユイ、戦巫女のライハとグループを組んでいた。


 いや、そこはまだ納得できる(納得できるとは言ってない)のだ。ユーゴはゼノンをはじめとした面々がやらかしてから色々とバグってるし、リュウガも本来のストーリーをなぞればライハとのフラグが立っていることに関してはおかしくないのだから。

 問題はマルコスだ。何故あいつが、自分たちが狙っているエレナとグループを組んでいる?


 魔物のポルルが一緒だという部分が救いではあるが、どうして主人公の特権であるヒロインとのイチャラブをただのゲームキャラである彼が味わっているというのだ?


 色々と言いたいことはあるし、なんだったら直接文句を言ってやりたいところであったが……残念ながらそれも難しい。

 今回のツアーはウォズとトリンのチームも含め、五つのグループに分かれている。そのグループが、時間差を作って順番に出発したわけだ。


 最初に出発したのがマルコスたちのグループで、その次がユーゴ、フィー、メルトのグループ。

 そこに続く三番目が自分たちで、後ろにはリュウガたちのグループが続き、最後にアンヘル、セツナ、サクラの三名が組んだグループがやって来る……という感じだ。


 つまり、一言文句を言いにマルコスたちのグループを追う場合、ユーゴたちを追い抜かなければならない。

 認めたくないが、彼は自分たちよりも圧倒的に強いわけで……そんなユーゴがマルコスたちにちょっかいをかけようとする自分たちを見たら、間違いなく止めに入るだろうし、戦いになったらボッコボコにされて負ける未来しか待っていないことはわかっている。

(そもそも文句を言いに行ったりしたらエレナの好感度が下がるだろうから、しない方がいいに決まっているのだが)


 ならばと割り切ってあぶれ者になっているアンヘルたちのグループに合流しようとすれば、今度はリュウガたちのグループと出くわすことになる。

 リュウガは強い。ユーゴと同じくらいに強い。勝てない。絶対に負ける。アンヘルたちに合流する前にやられる未来しか見えない。


 要するに自分たちは今、前門のユーゴ、後門のリュウガという状況になっているわけだ。

 綺麗に挟まれているのは偶然ではなく、警戒されているんだろうなということが読み取れてしまうからなお質が悪い。


「くそっ! なんでこんなところでも冷遇されなくちゃならないんだよ!? っていうか、どうしてユーゴがヒロインたちと仲良くしてる姿を見せつけられなきゃならねえんだ!?」


「知らないよ! こうなったら何が何でもこの後のイベントで活躍して、ユーゴたちの鼻を明かしてやる!! エレナを仲間にするのは僕だ!」


「イキってんじゃねえ! エレナは俺のものだ! なよなよしてるクソガリは引っ込んでろ!」


「お前の方こそ、ギャーギャー騒ぐしかない馬鹿は黙って僕の活躍を見守ってろよ! エレナは僕が手に入れるんだからな!」


 なんでこんな目に遭っているのかと聞かれたら、そりゃあこれまでの行いが悪かったからとしか言いようがないのだが……己の行動を振り返るなんて殊勝な真似を、この二人ができるわけがない。

 順路を行く最中、誰も人がいない場所で言い争う二人は、醜い喧嘩を続けながら、さっさとイベントよ起きてくれと望み続けるのであった。

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