side:黒幕(それぞれの思惑を抱く者たち)
「ふむふむふむ! 実にいい! 実にいいですよ~!」
「……楽しそうだね、アビス。そういう顔をしているよ」
――深い暗闇に包まれた、どこか。そこで何かを見ながら嬉しそうに唸るアビスへと、ロストが声をかける。
その声に振り返ったアビスは笑みを浮かべたまま、彼へとこう答えてみせた。
「ええ! とても楽しいですよ! 嬉しいといった方が正しいですがね!」
「その様子を見るに、君が演出を手掛ける舞台は上手くいってるみたいだね」
「もちろん! この私が指揮を執っているのです、上手くいかないわけがないでしょう?」
ニヤリ、と自信に満ちたアビスの笑みを見たロストが不快感に少しだけ眉をひそめる。
そんな相手の胸中を知ってか知らずか、アビスはロストへと状況を解説し始めた。
「現在、私が用意した二十六枚のクリアプレートの内、二十枚近くが所有者の手に渡っています。その半数以上が能力に目覚め、その使い方を把握し始めた頃でしょう」
「へ~……! アイテムをばら撒いてから二日目の時点で、もうそんなに増えたんだ?」
「はい、そうですよ! 私が上機嫌なのも納得がいくでしょう、ドロップ?」
話している間に増えた仲間(?)であるドロップにも笑みを向けるアビス。
彼女の方はロストのようにわかりやすく不快感を示しはせず、意味深な笑みを向け返しながらこんな質問を投げかけた。
「でもさ、その全員が役に立つとは限らないよね? もしかしたら、あなたが望むような進化を遂げてくれないかもしれないよ?」
「ええ、そうですね。しかし、そこがコンダクターたる私の腕の見せ所です! 良いもの、悪いものが誕生するのは想定済み。必要なのはそれを分別することですよ!」
「分別、ねぇ……? どうやってそれをやるつもりだい?」
その質問を待っていたとばかりに、アビスがニタァ……と笑った。
あまりにも得意気なその笑みにはロストもドロップも不快感を超えて若干苛立ちまで覚えていたのだが、アビスはそんな二人の反応を無視すると、盛大に独り言を口にし始める。
「このプレートを拾った者よ! おめでとう、君は選ばれた!! このプレートは、君の中に秘められた素晴らしい力を引き出す! その力を成長させれば、君は神にも悪魔にもなれる!! 私は君の力を伸ばす手助けをする者! 神の使い! さあ、君の力を引き出す試練を与えよう!!」
「クリアプレートを通じてのテレパス、か……」
あの独り言は独り言ではない。アビスが用意したクリアプレート通じて、その所持者に声を届けているのだ。
そう理解したロストたちの前で、アビスはプレートを拾った者たちへと話を続ける。
「本日の試練は三つ! そこでプレートの力を使い、出現した敵を打ち倒そう! その戦いを通じて己の力の使い方を理解し、成長させるんだ! 君たちならばできる! プレートが引き出す自分自身の力を、より強大なものに進化させられるはずだ!!」
プレートの所有者を鼓舞するような言葉を述べながら、試練について話していくアビス。
一つ目、二つ目の試練という名のイベントを語った後で、最後の三つ目の試練について説明し始める。
「そして、最後……試練の場は、シャンディア島だ! 大量の魔物が生息しているその島に、多くの人間がやって来る! そこで起きるイベントに乗じて、人も魔物も蹂躙してしまおう! 以上、三つの試練! どれに挑むも挑まないも、君たちの自由! だが、他のプレート所持者たちが自分の力を伸ばそうとしていることを忘れないでくれよ! では、また会おう!! シーユーアゲイン!!」
そうしてラジオ放送のようなアビスからプレート所持者たちへの話は終わった。
振り返った彼は、自分を見つめるロストへと笑みを向けながらこう話す。
「一応、言っておきますが……あなたへの当てつけではありませんよ? あの島にあなたのお気に入りのヒーローがいることは知っていますが、ただの偶然です。狙ってそこを指定したわけではありません」
「わかってるよ。今夜、あそこでイベントが起こる。それに従って、君はアナウンスしただけだ」
「それに、あの島には英雄候補(笑)もいるからね~。あいつらを放置して、美味しい展開をみすみす見逃すわけにはいかないでしょ」
「ん~っ! その通り! あなたたちが思慮深い方々で助かりましたよ!」
笑顔を浮かべながら、ロストとドロップの肩を叩くアビス。
自分の肩に乗せられた彼の手から腕、そして顔へと視線を移動させていったロストは、静かにその手を払うと口を開く。
「一応、私からも言っておくよ。マイヒーローはこの程度で終わるような存在じゃない。彼は、君の想像を超える力を持っている。もしかしたら、ご自慢の舞台を滅茶苦茶にされるかもしれないよ」
「……ご忠告、どうも。しかし、ご安心ください。あなたが考えているような事態には、万が一にも陥りませんので」
「そう……自信たっぷりでいいことだ。まあ、君がそう言うならばそういうことにしておくよ」
二人の会話を間近で見ているドロップには、その間に静かな火花が散っている様が見えていた。
仲良しに見えて険悪な二人の様子を楽し気に見守る前で踵を返そうとしたロストであったが……その動きを止めると、わざとらしく言う。
「……ああ、そうだ。もう一つ、言うべきことがあった」
「……なんですかね、ロスト?」
お互いに、相手の目を見つめる。いや、睨み合う。
怒りでも憎しみでもない。複雑で形容し難い感情を込めた視線をアビスと交わらせていたロストは、彼に向けてこう言い放った。
「君が嘘を吐いていることは、わかっているからね? それだけは言っておこうと思ったんだ……それじゃあ、シーユーアゲイン」
「……!」
ぴくりと、ロストの言葉を受けたアビスの表情がわずかに引き攣った。
その反応を確かめた後、先ほどの彼のセリフを用いてこの場を立ち去るロストへと、駆け寄ってきたドロップが問いかける。
「ねえ、ロスト。アビスが吐いてる嘘って何? ドロップちゃんにも教えてよ!」
「……そのうち、ね。今はまだ、それを教える必要はない。少しすれば教える機会もやって来るだろうから、それまで待ってくれよ」
「ええ~っ!? ノリ悪くない? っていうか、秘密にされると滅茶苦茶気になるんですけど?」
意味深なロストの言葉に、ドロップが絶叫する。
決して親密とも険悪ともいえない黒幕たちの思惑はそれぞれに絡み合うと共に妨害し合っており……それがまた複雑なドラマを生み出すことを予感させながら、暗闇がこの世界を閉ざすのであった。
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