夜のツアーに備えて

「肝、試し……!?」


 エレナの言葉に、はしゃいでいたフィーが一気に顔から血の気を引かせる。

 明らかに具合が悪くなっていそうな彼の反応を全く気にしていないエレナは、にこにこと笑みを浮かべながら話を続けた。


「そうだよ~! とは言っても、驚かせるような仕掛けとか怖~い話があったりするわけじゃないけどね~! でもまあ、暗~い夜の道を歩くわけだし……もしかしたらお化けが出てくる、かも?」


「お、お化け……!?」


 楽しそうに話すエレナとは対照的に、フィーの顔色はどんどん青くなっている。

 よっぽどお化けが苦手なんだろうなと思わせる彼の反応を一同が見守る中、ユーゴが弟へと声をかけた。


「なんだよ、フィー。そんなにお化けが怖いのか?」


「ここここ、怖いわけじゃないよ! た、ただ、もしかしたら怨霊がここの魔物に憑りついて、魔鎧獣になるかもしれないって可能性を危惧しているだけで、別に幽霊そのものを恐れているわけじゃないっていうか……」


「はははっ! まあ、安心しろよ。俺が一緒にいるからさ。それなら安心だろ?」


「う……うん、兄さんが一緒なら、大丈夫だと思う……」


 ぽんぽんと肩を叩きながらの兄の言葉に少しだけ安堵した表情を浮かべるフィー。

 そんな兄弟の会話を聞いていたエレナが、残るメンバーに対してこんな提案をする。


「それじゃあ、今のうちにグループ分けをしておこっか! 肝試しも兼ねてるし、できる限り少人数のグループの方が楽しいだろうしさ!」


「夜の島を周る肝試し……!?」


「少人数の、グループ……!?」


「ということは、つまり……!?」


 エレナがそんな提案をした瞬間、女性陣の間に妙な緊張が走った。

 よくよく考えてみればこのシチュエーション……かなり美味しいのではないだろうか? ということに気付いてしまったからだ。


 フィーが一緒にいるものの、ここでユーゴのグループに参加できたら、それなりに長い時間をライバルに邪魔されずに彼と過ごすことができる。

 フィーと一緒にお化けを怖がるふりをすれば、優しいユーゴのことだから手を繋いだりしてくれるだろうし……なんだったら、ハプニングを装って抱き着いても違和感がないシチュエーションではないか。


 この好機を逃すわけにはいかない。というより、ライバルにこんな美味しいシチュエーションを渡すわけにはいかない。

 メルトとアンヘル、セツナとサクラがそれぞれに気合を高める中、そんな彼女たちの激しいぶつかり合い(じゃんけんとも言う)から一歩退いた位置に立ったリュウガは、エレナへと言う。


「ユーゴがフィーくんに同行するなら、僕は妹と一緒に行くよ。ユイも、それでいいだろう?」


「はい! 構いません!」


「だったら俺たち四人でグループになるか? フィーもユイちゃんが一緒の方がいいだろ?」


「ヘイッ! お前、何言ってんだ!?」


「ユーゴ! それは違う! ダメ、ゼッタイ!」


「空気を読んで、ユーゴ。そして自らの状況を受け入れて」


「とりあえずじゃんけんを続けるでござる! 勝者が決まるまで、今しばらくお待ちを!!」


 ユーゴの言葉に反応したメルトたちが、ぐりんっと体を捻りながら彼にツッコミを入れる。

 そうした後で再び激しい勝負(やっぱりじゃんけんである)を再開した彼女たちをその争いに参加していないメンバーが苦笑気味に見つめる中、ホーロンがこんな提案をしてきた。


「それだったら、エレナとポルルも加えて三人一組のグループを四つ作るっていうのはどうだい? 人数的にもちょうどいいんじゃないかな?」


「ふむ……まあ、それが妥当なところか。あの四人の中から一人がユーゴとフィーのグループに合流し、負けた三人組でもう一つのグループになるとして、残りは――」


「……マルコス、僕たちと一緒に来るかい? 君が一緒ならユイも安心でき――痛っ!?」


 ホーロンの提案に乗っかり、三人一組のグループを作ることに決めた一同がその内訳を考え始める。

 マルコスを自分たちのグループに加えようとしたリュウガであったが、その発言を咎めるようにユイがスリッパで兄の膝を叩き、押し留めてみせた。


「お兄様? ちょっと空気を読みましょうか?」


「そうだぜ、相棒。マルコスはエレナとポルルと組むに決まってんだろ? 流石の俺でもそれはわかるぜ?」


「………」


 妹と相棒からのお言葉に渋い表情を浮かべるリュウガ。

 その一方で、エレナはポルルと一緒に大喜びしていた。


「わ~い! じゃあ、私とポルルはマルコスと一緒ね~! よろしく!」


「カニカニカ~ニ~ッ!」


「……改めて考えて思ったのだが、ポルルを一人とカウントして本当にいいのか?」


「えっと、これで三つグループが完成したから、残っているのは――」


 と、フィーが最後まで余ってしまったのが誰なのかを考えれば、その人物がおずおずとリュウガたちへと声をかけた。


「あ、あの……よろしく、お願いいたします……」


「はい! よろしくお願いしますね、ライハさん!」


「………」


 あぶれ者となったライハがリュウガの様子を窺いながら挨拶をすれば、両者の間に気まずい空気が流れ始めた。

 ただ、彼もこの状況を諦め半分で受け入れつつあるようで……ユイが笑顔でライハを歓迎していることもあって、そこまで重大なすれ違いは起きていないようにも見える。


「よしよし! これでグループは決定だね! じゃあ、夜のツアーまでご飯食べたり、お風呂入ったりして、ゆっくり過ごしておくれよ! 私はツアーの準備があるから、もう行くね! また後で!」


「ありがとうございました! よ~し! そんじゃ、お言葉に甘えてのんびりするか!」


 かくして、背後で熾烈な戦いじゃんけんを繰り広げる女子たちを残し、グループは決定した。

 ユーゴたちはシャンディア島で過ごす夜と魔物たちを見学するツアーを楽しみしながら、思い思いの時間を過ごしていく。


 色々と思うことはあるが、仲間たちと過ごすこの時間はとても楽しいものになると、彼らはそう信じていたのだが――?


―――――――――――――――


唐突にすいません!

今朝方、近況ノートの方に今書いてる新作ホラーのプロローグ部分を試し読みとして投稿させていただきました。(文字数の関係で二つに分割してあります)


コンセプトとして、『怖い話が苦手な人でも読めるホラー』を目標に書いた小説なのです。

本当によろしければなんですが、読んで感想を書いていただけると嬉しいです。

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