お泊まりしよう、そうしよう

「さっきは本当にありがとう! みんなのおかげで、大変なことにならないで済んだよ~!」


「私からも、ありがとうね。あいつらを追い返してくれただけじゃなく、荒らされた集落の片付けまで手伝ってもらっちゃって……」


「いいんすよ! ヒーローとして、困ってる人を助けるのは当然なんで!」


 ブルー・エヴァーを追い返し、彼らが騒いだことで荒れてしまった集落の片付けを終えたユーゴたち一行は、エレナとホーロンから感謝されると共に頭上に広がる空を見上げる。

 エレナの案内を受けてこの島にやってきたのが昼過ぎのこと。その頃には真っ青だった空も、今では夕焼けのオレンジに染まっている。


 名残惜しいが、そろそろホテルに帰る時間だ。

 そのことを伝えようとしたユーゴたちであったが、それよりも早くにぱんっ、と手を叩いたエレナがこんなことを言ってきた。


「そうだ! 折角だし、今日はウチに泊まっていきなよ! ポルルもそれがいいと思うよね!?」


「カ~ニ~ッ!!」


「えっ!?」


 突然の申し出に驚き、目を丸くするユーゴ。

 そのお誘い自体は嬉しいが、修学旅行の最中に外泊だなんてできるのか……? と戸惑ったユーゴたちが視線で仲間たちへとその疑問をぶつけれてみれば、ふーむと唸ったアンヘルがその答えを教えてくれた。


「事前に申請をしておけば、可能っちゃ可能なんだが……流石に直前にお願いしてOKを出してもらえるとは思えないね」


「だよなあ。エレナたちがいいって言っても、学校の規則があるからなぁ……」


「え~っ!? 一回くらいなら大丈夫でしょ~? 楽しいこといっぱいあるよ~! 夜の魔物たちの姿を見るのも勉強になるしさ~! どうにかならない?」


「どうにかと言われても、無理なものは無理だ。残念だが、諦めるしか――」


 決してこの島に残りたくないわけではないのだが、学生である自分たちは規則を守らなければならない。

 エレナを宥めつつ、今日は帰ることを彼女に告げようとしたマルコスであったが、その言葉を遮るようにして手を挙げたホーロンが口を開いた。


「ああ、それなら大丈夫! さっき私が君たちの学校に連絡しておいたからね!」


「えっ!? ええ~っ!?」


 実にいい笑顔を見せながらのホーロンの言葉に、驚きを隠せなかったユーゴたちが声を漏らす。

 対して、エレナの方は満面の笑みを浮かべながら、彼にハイタッチをしてみせた。


「流石ホーロンさん! それで、どうなったの~?」


「こっちで捕まえた悪い奴を見張るのに協力してほしいって言ったら、わかったって言ってもらえたよ! ユーゴくんたちの他にもこの島に泊まる予定の子たちが来てたみたいでね、それもあって許可をくれたみたいだ!」


「ま、マジっすか!?」


「うんうん! マジマジ! ああ、連絡を取った先生からの伝言でね、『お前たちのことは信用しているが、くれぐれも羽目を外すことのないように』……だってさ!」


 その口ぶりから察するに、外泊の許可を出してくれたのはウノだろう。

 厳格ではあるが、融通を利かせてくれるところもある彼の判断に感謝しながら、ユーゴは仲間たちに言う。


「キャッスル先生の許可が下りたっていうんなら心配ないな! 今日はこの島でお世話になる……ってことで、みんなも大丈夫か?」


「異議な~し! お泊まりするの、けって~い!」


「僕たちも大丈夫! それに、夜の魔物の姿を至近距離で観察できる機会なんて滅多にないだろうから、しっかり勉強しなくちゃ!」


「やった~! じゃあ、今日はみんなでお泊まりだね!」


「カニカ~ニ~ッ!!」


 ぴょこん、ぴょこん、と飛び跳ねて喜ぶエレナとポルル。

 ここまで喜んでくれるなら泊まることにして良かったと一同が笑みを浮かべる中、エレナがポンと手を叩いてから口を開いた。


「じゃあ、夜は魔物たちを観察する特別コースに参加するってことでOKだよね!? 寝てたり、逆に活発に動く子たちもいて、昼とはまた違った顔を見れるから楽しいよ~!」


「うわぁ……! すっごいや! 実際に夜の魔物たちの姿を見れるだなんて、夢みたいだ!」


「正に~! ってやつだな!!」


「……なんでだろ。ユーゴの発言が妙に引っかかるような……?」


 夜の魔物観察ツアーの参加に瞳を輝かせて感激するフィーと、そんな弟の反応に大きく頷きながら謎の歌を口ずさむユーゴ。

 弟の方は良しとして、兄の方が妙なことをしている気がしてならないメルトたちが首を傾げる中、リュウガがホーロンに声をかける。


「先ほど言っていましたが、捕まえたブルー・エヴァーの連中の見張りは大丈夫でしょうか? なんでしたら、僕が番をしても構いませんよ?」


「そこは大丈夫! 先生には理由として出したけど、実際はしっかり牢屋に入れた上で監視してるからね~! そんなこと気にしないで、学生さんたちはしっかり遊んじゃいな~!」


「そうそう! なんでもかんでもみんなのお世話にはならないって~! それに、この夜のツアーはただ魔物たちを見るだけじゃなくって……肝試しにもなってるんだからさ~!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る