悪夢のブルー・エヴァー


「魔物の飼育及び家畜化、はんた~い! 魔物たちは飼われるのではなく、自然の中で生きるべきだ~!」


「シャンディア島の住民は、自然の摂理に逆らっていることを恥じろ~!」


「あれって、もしかして……?」


「昨日のブルー・エヴァーとかいう過激派環境団体か?」


 手に持つプラカードを掲げながら騒ぎ立て、大声で叫ぶ集団の姿を目にしたユーゴたちは、彼らが昨日のサハギンの事件の際に姿を見せたブルー・エヴァーであることに気付き、渋い表情を浮かべた。


 彼らはホーロンをはじめとしたシャンディア島の人々に詰め寄り、自分たちの勝手な主張を繰り返している。

 魔物との共生を果たし、彼らと力を合わせて生活しているシャンディアの人々だが……ブルー・エヴァーの人間たちにとっては、それは歪なものに見えるようだ。


「魔物は自然界でのびのびと生きるべきだ! 人がその在り方に手を出してはダメなんだ! それなのにこの島ときたら、魔物を飼うだなんて……!!」


「違うよ! 私たちは家族なの! 飼うとかそういうんじゃなくって、協力して生きてるんだよ!」


「そんなものは詭弁だ! やっていることは魔物の家畜化に過ぎない!! 彼らの自由を奪う野蛮な民族の人間は黙っていろ!」


「止せ! 彼女は自分の意見を伝えただけだ! 叩く必要なんてないだろう!!」


「少しはこの島の人たちの話を聞いてくれよ!」


 ブルー・エヴァーの男の言葉に我慢ができなかったエレナが反論を叫べば、彼らは集団で彼女を悪と決め、詰め寄ろうとしてきた。

 エレナと男たちとの間に割って入ったマルコスとユーゴが彼女を庇いながらそう述べるも、彼らの耳にはその言葉は届いていないようだ。


「ともかく! この島の住民は魔物たちを解放し、自然に返すべきだ! 彼らを傷付けて手に入れた素材で生計を立てるだなんて、野蛮が過ぎる!」


「傷付けるだなんて、そんな……! 我々が使っているのは増え過ぎた毛だったり、脱皮した後の殻だったりで、家族である魔物たちを無為に傷付けてまで素材を取ってなんかいませんよ!」


「うるさい! 言い訳をするな!!」


 聞く耳持たず、その言葉がぴったりだろう。

 既にシャンディアの人々を嫌い、悪と断じているブルー・エヴァーの面々にとっては、彼らの言葉に耳を貸す必要などないのだ。


 ホーロンや他の島民たちがなんとか言葉を尽くして説得しようとしても、相手がそれを聞き入れないのだから何の意味もない。

 そうやって騒ぎ続ける環境団体の様子と、一向に落ち着くことのない騒動の様子を見ていた観光客たちは、どうにも気まずい雰囲気に耐え切れなくなってしまったようだ。


「もう、帰ろうか。なんか、ね……?」


「そうね……ここはいいところだけど、こんな騒ぎがあったらね……」


「あっ……!?」


 魔物たちと触れ合っていたり、島の名産品を見ていた観光客たちが、いたたまれない雰囲気に続々と帰り支度を始める。

 残念そうな表情を浮かべて集落から出ていく人々の姿を見たエレナが泣きそうな顔になる中、ユーゴたちはブルー・エヴァーの真の目的に気付き始めていた。


「奴らめ、これが狙いか。シャンディアに粘着し、観光客が来ないようにするつもりだぞ」


 マルコスの言った通り、ブルー・エヴァーは確実にシャンディアの人たちにダメージを与える手段を取ったようだ。

 こうして反対デモを起こし、毎日のように騒ぎ立てれば、観光客が来なくなる。ひいては、この島に対する人々のイメージも悪くなるはずだ。


 同時に自分たちのイメージも悪くなるかもしれないと考えないところが、彼らの独善的な思考を物語っている。

 この世で最も邪悪なのは、自分が悪とは気付いていない悪だという言葉を思い出したユーゴもまた、自分の生まれ故郷であるこの島の良さを知ってもらうために頑張るエレナの想いが踏みにじられたことに悔しい表情を浮かべていたが……その体が、ぴくりと震えた。


「……ユーゴ、どうかしたのか?」


 一気に険しい表情になったユーゴが、鋭い視線で周囲に向け始める様を目にしたマルコスが彼に問う。

 ユーゴはその問いかけに答えるよりも早く、この場を離れようとする男女へと目を向け、彼らの下に駆け寄ると、その肩を叩いて口を開いた。


「すいません。ちょっといいですか?」


「な、なんだ、お前は!?」


「ちょっと! 私に触らないでよ!」


 ユーゴに声をかけられた男女が、焦った様子で彼を拒絶する。

 そんなカップルのような二人組の反応にも一切動じないまま、ユーゴは視線を女性が背負っているリュックサックに向けながらこう続けた。


「……そのリュックの中身、見せてもらえますか? 何もなかったら謝りますから」


「「えっ……!?」」


 ユーゴの言葉に、あからさまに動揺した男女が絶句する。

 先ほどから見せていた焦りの感情を募らせた彼らは、ユーゴに対してさらにヒステリックな態度を見せ始めた。


「な、なんでそんなことをしなくちゃならないんだ!? お前に何の権限がある!?」


「そうよ! 不愉快だわ! さっさとそこをどいてちょうだい!」


「……悪いが、それはできねえ。聞こえたんだ、助けを求める声が。だから、あんたたちをこのまま行かせるわけにはいかない」


 大声で二人から叫ばれても、ユーゴは一切道を譲ることはしない。

 彼に道を塞がれる男女二人組が増々焦りと苛立ちを募らせる中、その背後からユイの叫びが響いた。


「ああっ! お兄様! あの荷物の中に、何か生き物がいます!」


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