戻って早々、騒動が

「エレナ! 俺の武器を見てくれ! いいと思った物は全部買うからさ!」


「いやいや! 僕の方を頼むよ! 僕が使った方がいい宣伝になるはずだ!」


「あ~う~……ホーロンさん、どこ行っちゃったのかな~……?」


 一方その頃、工房のエレナはウォズとトリンから思い切り迫られ、困りに困っていた。

 アンヘルたちと一緒にマルコスが戻ってきた時に見せる武器を選んでいたのだが、ここにない品を取りにこちらまで来てしまったのが運の尽きだったようで、こんなことになってしまっている。


 二人の相手をしていたホーロンの姿もどこかに消えてしまっており、ユーゴたちを呼ぶにも客であるウォズとトリンを放置していくわけにはいかないため、ほとほと困っていた。


 いったい、ホーロンはどこに行ってしまったのだろうか? よく見てみれば、店の周りに人影がないような気もする。

 とにもかくにも二人を落ち着かせなければと考えるエレナであったが、この二人が仲良くお買い物をするのではなく、お互いに彼女を巡って争いをしているという状況が足を引っ張っていた。


「お前、いい加減にしろよ!? 先に声をかけたのは俺なんだから、引っ込んでろって!」


「先に声をかけたのは僕だ! お前の方こそ、引っ込んでろ!!」


「わわわわわ~っ!? 喧嘩はやめて~っ!!」


 ガルルルルル、と気が立っている犬のように唸りながら、いがみ合うウォズとトリンは、今にも取っ組み合いの喧嘩を始めそうだ。

 店の中には武器があるし、それを勝手に使われて争われたりなんかしたらとんでもないことになるため、エレナも二人から目を離せずにいる。


 一体全体どうすればいいのかと、どんどんボルテージが上がっていく二人の様子を見ながら慌てていたエレナであったが、そんな彼女の背後から声が響いた。


「エレナ!」


「あっ! マルコス!!」


 再び工房へとやってきたマルコスが、開口一番にエレナの名前を呼ぶ。

 彼が戻ってきてくれたことにエレナが笑みを浮かべる中、彼女を横から掻っ攫おうとするお邪魔虫の登場に、ウォズとトリンは急に力を合わせ始めた。


「おい、マルコス! お前は引っ込んでろ!!」


「そうだ! 今、エレナは僕たちと話をして――うわぁっ!?」


「カニカニカニーッ! カニニーッ!!」


 エレナは自分たちのものだと、たかがゲームキャラが主人公である自分たちの邪魔をするなと、そんな思いを胸にマルコスを彼女から引き離そうとしたウォズとトリンであったが、その前に巨大な影が飛び出す。

 ガチン、ガチンと威嚇するように鋏を鳴らし、大声で叫ぶポルルの乱入に面食らった彼らは、そのまま固まっている隙に彼に持ち上げられてエレナから引き剥がされてしまった。


「なっ!? この蟹、何をしやがるっ!?」


「僕の邪魔をするっていうのなら、タダじゃ済まさないぞ!!」


 マルコスに続いて、魔物まで自分たちの邪魔をするのかと怒りを覚えたウォズとトリンは、完全にスイッチが入ってしまったようだ。

 武器を取り出し、ポルルを攻撃しようとしたのだが……?


「そこまでにしてもらえるかな?」


「「なっ……!?」」


 とても聞き覚えのある声を耳にした二人が、ビクッと体を震わせて動きを止める。

 驚いた彼らの視線の先には、刀の柄に手を置くリュウガの姿があった。


「りゅ、リュウガ……!?」


「そう怯えないでくれよ。僕だって無意味に事を構えようだなんて思ってない。君たちが大人しくしてくれるのなら、刀を抜く必要はないよ」


 そう言いながらも、妙な威圧感を発しているリュウガは、親しい者以外に見せる好青年モードでしっかり二人のことを牽制している。

 少し前に彼に斬り捨てられた時のことを思い返す二人が怯え、竦む中、ポルルはそんな二人を裏口から放り投げてみせた。


「カニニ~ッ! カニカ~ニッ!!」


「うわあっ!? このっ……!!」


「くぅぅ……っ!!」


 ウォズとトリンを放り投げ、そのまま裏口の扉を閉めるポルル。

 主想いの魔物へとリュウガがこっそりサムズアップを向ける中、エレナとマルコスは二人きりで話をしていた。


「……さっきはすまなかった。お前は一生懸命に武器を選んでくれたというのに、酷い態度を見せてしまったな」


「ううん! 私の方こそ、マルコスにポルルの素材を使った武器を使ってほしくて、良いなって思ってもらいたくて、しっかり合ったものを選べてなかったと思うから……」


 互いに謝罪しつつ、いじらしい空気を作り上げる二人。

 元々、喧嘩していたわけではないが、微妙に存在していたわだかまりのようなものを粉砕したところで、先ほどの出来事を思い出したマルコスがポケットから黄色の紙を取り出しつつ言う。


「そうだ。先ほど、とある男性からこの紙を貰ったんだ。お前に見せろと言っていたが、なんだかわかるか?」


「えっ……? この紙を、渡された?」


「ああ、リアカーを引く大柄な男性からな。どうかしたのか?」


 紙を見せた瞬間、エレナが物々しい反応を見せたことに驚くマルコス。

 彼女がこんなにも驚くなんて、いったいこれはなんなのだろうか……? と考えていたところで、外から大きな音が響いた。


「おい、なんか外が騒がしくねえか? なんかあったのか?」


「ユーゴ、お前も聞こえたか。私にもよくわからないが……」


「ホーロンさんがいなくなったことに何か関係があるのかも。私、ちょっと見てくるよ!」 


 外から聞こえる声に、嫌な何かを覚えたエレナが工房から飛び出していく。

 慌てて彼女の後を追ったユーゴたちは、そこに広がる光景を目の当たりにして、顔を顰めた。

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