戦友からのアドバイスと謎の男とこれまた謎の力試し

「強さとは、一朝一夕に身につくものじゃない。もしも誰かが爆発的な成長を見せたなら、それはその人が重ねてきた努力が花開いたというだけだ。今、君が言ったように道具の力で強さを得ても、それはその人の本当の強さなんかじゃあない。借り物の力じゃ、本物にはなれないんだ」


「………」


「君のその悩みは、本物になろうとしているが故のものだ。だから、それでいいんだよ。大事なのは、……それを忘れなければ、君の歩みが止まることはないさ」


「今の自分にできることを、全力で……」


 自分の言葉を繰り返し呟いたマルコスへと大きく頷き返したリュウガは、彼と同じく海を眺めながら、どこか楽し気な笑みを浮かべて言う。


「僕もそうだった。迷って、悩んで、苦しんで……それでも一歩ずつ進んできた。自信を持てよ、マルコス。君は強い。そして、今も成長し続けている。君自身は気付いていなくともね」


「……ありがとう。その言葉、心に刻んでおこう」


「そう大したものじゃないさ。お節介な友人からのアドバイス程度に受け止めてくれればいい」


「お前がどう思おうとも、私にとっては大きな助言だ。感謝するぞ、リュウガ」


「……僕のこそ、君に感謝しているさ。君は気付いてないだろうけどね」


 ユーゴと同じだ。マルコスのこの真っすぐさといい意味での鈍さは、リュウガの胸に心地よく響く。

 どこまでも自分に真っ向から接してくれる友人たちと出会えたことに感謝する彼が笑みをこぼす中、気持ちを切り替えるように深く息を吸って吐いたマルコスが大きく伸びをしてから言う。


「そろそろ戻らなくてはな。エレナたちに非礼を詫びなければ」


「そうだね。彼女たちも君を満足させるために別の武器を選んでいる頃だろうさ」


 戻ってまずやることが謝罪とは、なんとも彼らしいなと思うリュウガ。

 工房へと戻ろうとした二人であったが、リアカーを引く男性が目の前に姿を現したことで、その足を止めた。


「……お前たち、観光客か?」


「え、ええ、そうですが……?」


 日に焼けた浅黒い肌と、筋骨隆々とした大柄な体。

 厳つい顔と露出した腕に刻まれた数々の傷を見たマルコスは、不意に声をかけてきたその男性に気圧されながら頷く。


 そうすれば、その男性は引いていたリアカーの荷台の方へと向かいながら二人へとこう言ってきた。


「なら、ちょうどいい。観光客向けに、ちょっとしたゲームをやっている。遊んでいくか?」


「ゲーム、ですか? いったいどんな……?」


 男の言葉にリュウガが質問を返せば、彼は手招きをして二人を自分の方へと呼び寄せてきた。

 その招きに従ってリアカーの方へと向かったマルコスとリュウガは、荷台に乗っている物を目にして小さく息を飲む。


「簡単な力試しだ。ここにある重りを片手で持ち、頭上に掲げることができたら成功。重さに応じた賞品をプレゼント……わかりやすいだろう?」


「ははっ、確かにそうですね」


 リアカーの荷台には、長い棒の先端に重石代わりの岩や鉄が括り付けられたお手製の重りが置いてあった。

 子供用の小さなものから、大人用の大きなものまで取り揃えてあるその品ぞろえを見ながら、リュウガが適当な大きさの棒を掴む。


「じゃあ、僕はこれで。よっ、と……!」


 平均よりも少し大きいサイズの重りを軽々と持ち上げ、頭上にまで掲げるリュウガ。

 それを見た男性は小さく頷くと、重りをリアカーに戻した彼へと賞品を手渡す。


「やるな。賞品をプレゼントだ。木彫りの髪飾りと、この島の近くで採れるサンゴを使ったネックレス……家族か、惚れている女に渡してやるといい。ちなみにどちらも俺のお手製だ」


「あはは……どうも、ありがとうございます」


 どちらも綺麗に作られた、手作りのアクセサリー類を貰ったリュウガが苦笑しながら男に感謝を述べる。

 続いて、マルコスの方を見た男は、彼へと質問を投げかけた。


「それで、お前はどうする? やるか?」


「無論、挑戦させていただこう。ただ、同じ重さを選んでは芸があるまい。こいつより重いものを持ち上げなくてはな」


「……そうか。なら、こいつに挑んでみるか?」


 威勢のいいマルコスの発言を受けた男性が、ガラガラと音を立てながらリアカーを漁る。

 そうして一番奥からかなり巨大な重りを取り出した彼は、それをマルコスへと見せながら口を開いた。


「こいつが一番重い。持ち上げるのは苦労するぞ」


「なるほど、挑戦し甲斐がありそうだ。では、早速――」


 バーベルの重りのようなものが先端部分にいくつも並んで取り付けられているその重りは、確かにかなり重そうだ。

 だが、だからこそ挑戦し甲斐があるとばかりに笑みを浮かべたマルコスは、普段、ギガシザースを構えているおかげで筋力がついている左腕でそれを持ち上げようとしたのだが……?


「……待て。お前、右手で持ち上げてみろ」


「何……?」


 重りを持とうとした瞬間、男に待ったをかけられたマルコスが彼の言葉に眉をひそめる。

 リュウガの時には腕の指定などなかったのに、どうして……? とは思いながらも、それがルールなのだろうかと特に気に留めなかった彼は、言われるがままに右手で重りを掴んだ。


「ゲームマスターからの指示ならば、従うほかあるまい。では、改めて……ふぅ」


 右手で重りを掴んだマルコスは、力むのではなく逆に脱力した。

 男性とリュウガが見守る中、そこから一気に力を込めたマルコスは重りを頭上へと持ち上げてみせる。


「ぬっ……! なかなかの重さだが、私の敵ではない! ふっはっはっはっは!」


 持ち上げる瞬間は多少のぐらつきがあったが、気合を入れてからは特に揺らぐこともなく重りを持ち上げたマルコスが高笑いする。

 男性は、そんなマルコスの姿を目を細めて見つめると、小さくぼそりと呟いた。


「……お前、いいな。なかなかやる」


「は……?」


 不意に発せられた男の言葉に、困惑するマルコス。

 そんな彼の手から重りを受け取ってリアカーへと戻した男は、小さな紙を取り出すとそれをマルコスへと渡した。


「賞品だ。工房にいる、エレナという娘にこれを見せろ」


「あ、はあ……?」


 何も書かれていない、何の変哲もない黄色の紙。

 男性の言葉から察するに、これは何かの引換券なのだろうなと考えたマルコスが彼の顔と受け取った紙を交互に見つめる中、男性はリアカーを引いてどこかへ行ってしまった。


「……リュウガ、これはなんだと思う?」


「さあ? 見てのお楽しみ、ってやつじゃないかな?」


 特に説明もなく渡された紙に関して、話し合う二人。

 とりあえず、唯一聞けたこれをエレナに見せろという指示に従うことにした二人は、元々の予定通り、工房へと戻っていくのであった。

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