強くなるために必要なもの
「………」
工房から少し離れたところにある、海の見える高台にマルコスはいた。
無言で広い海を眺めるその表情はどこか寂し気で、悔しそうにも見える。
「らしくないな、ため息なんて。悩み事かい?」
少し視線を落としながらため息を吐いた瞬間、背後から声が響いた。
その声に振り返れば、こちらへと歩いてくるリュウガの姿がある。
そのままマルコスの隣に並んだリュウガは、彼の横顔を一瞥してから視線を前に向けると、海を見つめながら口を開いた。
「……焦る必要はないさ。守破離の破の段階が最も困難で次に進むのが難しい……前に言ったはずだ」
「その通りだ。だが、な……」
「昨日のユーゴの戦いを見て、思うところがあったってところかい?」
自分の方を見てはいないが、その心の内を見透かしているリュウガの言葉にマルコスが小さく頷く。
目の前の柵に腕を乗せ、体重を預けながら、昨日の緑の鎧を使ったユーゴの戦いを振り返ったマルコスは、思っていたことを語り始めた。
「以前、お前と戦い、強くなっていると言われた時は嬉しかった。しかし、私はまだ、自分の殻を破れずにいる。実感がないんだ。自分が強くなっている……お前たちに近付けているという実感が」
自分は強くなっていると、本気でぶつかり合ったリュウガからそう言われた時、マルコスは強く感動した。
自分はユーゴたちに近付いていると、彼のライバルに相応しい存在になりつつあると、ユーゴと同等の強さを持ち、自分も認めているリュウガからの評価に燃え上がったマルコスであったが……しかし、そこから先の進歩が感じられないのだ。
決して、リュウガの言葉を疑っているわけではない。
彼の言う通り、教えを守る段階からそれを破り、自分の型を作るというのは相当に困難なことなのだろう。
しかし……その停滞は、少しでも早く強くなりたいマルコスの心に焦りの感情を生んでいた。
「そんな中、昨日の戦いだ。ユーゴはまた新しいブラスタを作り出し、それを使いこなしていた。弱点であった遠距離戦に関しても切れるカードを手に入れたんだ。あいつはまた強くなり……私は差を広げられてしまった」
「………」
「悔しいんだ、どうしようもなく。かつては同等だった実力が、今では天と地ほどに離れている。そして、あいつに近付く気配すら感じられない。そんな自分が情けなく、もどかしく思えて仕方がないんだ」
拳を、強く握り締める。己の不甲斐なさに、情けなさに、震える感情がその拳の中に詰まっていた。
ユーゴの好敵手として、最大の友として、強くなろうと足掻き続けてきたはずだが……実力は、離されていく一方。
少し前に浮かれていたこともそうだが、それ以上に自分を情けなく思う理由が、今のマルコスにはあった。
「……この島で武器を見せてもらおうと思ったのも、もしかしたら強くなるきっかけが見つかるかもしれないと思ったからだ。昨日の戦いでユーゴが射撃用の武器を使いこなしていたように、私も強い武器があれば……と考えた。しかし、安易な考えだった。武器が強いからユーゴが強いわけではない。あいつの発想と努力があってこそのブラスタであり、それを使いこなすためにユーゴも私が見えないところで研鑽を重ねていたはずだ」
「だが、君の考えは間違ってない。ユーゴのブラスタや僕の【龍王牙】のように、君の強さを引き出してくれる武器があれば、殻を破るきっかけになるはずだ」
「それでもだ。お前もユーゴも、その強さを得るために努力をしてきたはず。強い武器を手に入れただけで手に入る、一朝一夕の強さに価値などない。焦りで周囲が見えなくなっていたせいで、そんなことにも気付けなかった自分が情けなくなって、つい飛び出してしまった」
ユーゴが強いのは、改造を重ねたブラスタを使っているからではない。リュウガが強いのは、名刀である龍王牙のおかげではない。
その強さを得るために努力をし、魔道具の性能を引き出しながら戦う術を習得しているから、二人は並外れた強さを有しているのだ。
今、ここで優れた性能の武器と出会い、それで一気に強さを増させたとしても……それはマルコスが強くなったわけではない。
武器が強いから強くなっただけで、マルコス自身の強さが変わったわけでもなんでもないのだと、そのことに気付いたマルコスは、道具に頼ろうとした自分の不甲斐なさや情けなさに打ちのめされていた。
「……エレナとポルルにも悪いことをした。私のために一生懸命に武器を選んでくれただろうに……」
「マルコス……」
そう言って、再びため息。
自らの浅はかさを情けなく思ったマルコスは、こんな自分に親身になって接してくれたエレナとポルルの好意を無下にしてしまったことを申し訳なく思っているようだ。
そんな彼の姿を見たリュウガは、笑みをこぼしながらこう述べる。
「安心したよ。それがわかっているのなら、君は大丈夫だ」
「えっ……?」
リュウガのその言葉に、驚いたマルコスが顔を上げる。
こちらを見やる彼へと真っすぐに視線を向けながら、微笑みを浮かべるリュウガはこう言葉を続けていった。
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