蟹も偶には凹んだりする
「すまないが、やはり両手で使う武器はパスだ。ギガシザースとの相性が良くない」
「まあ、そうだろうね。いい武器だとは思うけど、お前には合わないか」
予想できていたことだが、ギガシザースという大型の盾を使うマルコスは、そこにさらにもう一つ武器を持って戦うということは難しいようだ。
ギガシザースを捨てるわけにはいかないし、この判断は妥当だと一同が考える中、第二の案も却下されたエレナが次の武器を漁り始める。
「むむぅ……! じゃあ、ちょっと待ってて! えっと、確かあれがここらへんに……!!」
「……なあ、マルコス。お前、大丈夫か?」
「……何がだ?」
「いや、上手く言えねえんだけど……なんかちょっと顔色が悪いっつーか、らしくないなって思ってさ」
エレナが次の武器を取り出すまでの間、マルコスの様子が気になったユーゴは彼に声をかけていた。
上手く言語化はできないのだが、マルコスらしくない雰囲気を感じ取ったユーゴがそれを彼へとぶつければ、マルコスが無言のまま、視線を逸らす。
やっぱり変だと、何も言わない彼に対しての違和感を膨れ上がらせたユーゴはマルコスを問い詰めようとしたのだが、そのタイミングでエレナが第三の武器を紹介し始めた。
「じゃじゃ~ん! これはどう? ポルルのだけじゃなくって、色んな魔物の素材を使って作った鉄扇だよ!」
そう言いながらエレナが取り出したのは、通常のものよりも二回りほど大きな扇だった。
よく見れば、普通ならば木製である骨組みが金属をはじめとした様々な魔物たちの素材で構築されており、それを受け取ったフィーもずっしりとした重みを持つ鉄扇に驚いているようだ。
「わっ!? 結構重量があるよ、これ!」
「へ、へぇ、面白そうじゃん! よっ
「……う~ん、なんだろう? さっきから兄さんの言葉のどこかに違和感があるような……?」
マルコスの様子が変なのは気になるが、この場の空気を壊すのも良くないだろう。
ここは少しはしゃぎ気味に振る舞って、彼がいつも通りにツッコんでくるのを待った方がいいかもしれない。
そう思いながら三度ポルルが用意した人形を相手に鉄扇を振るう彼のことを見ながら、仲間たちが武器に関する感想を述べていく。
「ああいう武器もあるのね。かなり面白いわ」
「先の双剣と同じく、見た目も美しいでござるな!」
「どちらかといえば暗器としての側面が強そうですね。それにしては、大きい気もしますけど……」
上からセツナ、サクラ、ライハの感想。扇という文化によく触れている彼女たちは、カモフラージュも兼ねたそのデザインに高評価を抱いているようだ。
逆に、メルトとアンヘルは機能という面白い部分に目を付けているようで……?
「これ、面白いね! 閉じてる間は警棒みたいに扱って、敵の攻撃は開いて骨組みで受ける、みたいな使い方ができるんだ!」
「強度も相応のものがある。開閉は魔力を注ぐことでも可能なのか。結構便利だな……!」
閉じればサイズ的にも扱いやすく、振り回しやすい武器として扱うことができ、開くことで敵の意表を突きつつ攻撃を防ぐこともできるという鉄扇の性能に感心するメルトとアンヘル。
なるほど、と子供組が彼女たちの感想に頷く中、模擬演武を終えたユーゴは気になるマルコスの反応を窺ってみたのだが……?
「………」
彼は険しい表情を浮かべたまま、微動だにしていなかった。
ただ、おそらくは扇を振るうユーゴのことを観察はしていたようで、こちらへと視線を釘付けにしている。
「お、おい、マルコス? 大丈夫か? やっぱお前、なんか変だぞ?」
「いや……大丈夫だ。だが、すまない。少し外の空気を吸ってくる」
「あっ……!?」
ユーゴからの指摘を受けてハッとしたマルコスが、首を振りながら言う。
その後で工房を出ていく彼の後姿を見送ったエレナは、しゅんとした様子で口を開いた。
「……マルコス、私が選んだ武器、気に入らなかったのかな? あんまり強そうに思えなかった?」
「そ、そういうわけじゃないさ。今のあいつ、なんか変な感じだしさ! 別にエレナが選んだ武器が悪かったわけじゃ――」
「マルコスは君が選んだ武器が強そうに思えなかったわけじゃない。ただ、相性が良いとは思えなかっただろうけどね」
「お、お兄様! 少し空気を読んだ方が……!!」
どうにか凹むエレナを慰めようとするユーゴであったが、その会話にリュウガが割って入る。
妹が慌てて口を挟むも、彼はそれを無視して自分の意見をエレナへと伝えていった。
「あの鉄扇もいい武器だが、リーチが足りない。それに、威力があるといっても暗器にしては、というレベルだ。マルコスが求めている要素からは、微妙にズレている」
「う……っ」
「りゅ、リュウガ殿、もう少し言葉を選んだ方がいいと思うでござる。エレナ殿も、一生懸命武器を選んでくださったわけですし……」
「……ううん。リュウガの言ってることは間違ってないよ。私、マルコスのことをちゃんと考えてあげられてなかったと思う」
辛辣ではあるが、正論でもあるリュウガの言葉を受けて凹んだエレナが言う。
ただ、少し前向きな感情を取り戻しつつある彼女の横顔を見たアンヘルは、ゆるく笑みを浮かべながら彼女へと言った。
「……今度はアタシも一緒に考えるよ。マルコスの奴が戻ってきた時、あいつを驚かせてやろうじゃないか」
「うん、そうだね! 情報があれば、きっとマルコスが欲しいと思える武器を選び出せるよ!!」
「みんな……! ありがとう……!!」
「カニ、カニィ……!!」
リベンジに協力を申し出てくれたアンヘルたちへと、感謝の言葉を述べるエレナ。
女子組がそうやって盛り上がる中、リュウガは工房の出口へと向かっていく。
「お、おい。どこに行くんだよ、リュウガ? あっ、質問するなはなしだからな?」
「ははっ、大丈夫だよ。ただちょっと、僕も外の空気を吸いに行くだけさ」
小さく笑いながら、手を挙げて応えたリュウガが工房を出ていく。
その背を見送ったユーゴは、なんだかなあといった表情で首を傾げるのであった。
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