工房内での攻防

「エレナだよね? 俺、ウォズ・スター! 君のお父さんが作った武器に興味があるんだ! 是非、見せてほしいな!!」


「僕はトリン・マティス! 僕も魔物の素材で作った武器や防具が欲しいんだよ! とても素晴らしい出来だってきいてるし、ここでしか手に入らない物なんだろう?」


「わ~っ! そんなにパパが作った装備が気になってるんだね! すっごく嬉しいよ!!」


「俺もそう言ってもらえて嬉しいよ! 俺の活躍を通じて、君のお父さんの作品の良さが多くの人に知れ渡るといいね!」


「こう見えて、僕は学校でも有望株として一目置かれてるんだ! 僕が君のお父さんの作った武器や防具を使えば、気になった他の生徒たちがこの島にたくさんやって来るかもしれないよ!」


「おおっ!! それはすごいよ~! そうしたら、シャンディアの良さがみんなにもいっぱい知ってもらえるね~!!」


 左右から結構な勢いでしゃべりかけてくるウォズとトリンの言葉に、無邪気な反応を見せるエレナ。

 この島にたくさんの人々がやって来る光景を想像した彼女が嬉しそうに笑顔を浮かべる中、その背後で話を聞いていたユーゴたちがひそひそと話し合う。


「ねえ……あの二人さ、本当にエレナのお父さんが作った装備が目的だと思う?」


「直感だけどノーね。どこからどう見ても、それより大事な目的があるようにしか見えないわ」


「同じく。あいつらの目には魔物の素材で作った装備なんか映ってないよ」


 エレナとの距離をぐいぐいと詰めるウォズとトリンの顔には、「この島に来た目的は目の前のこの美少女です」とはっきり書かれてあった。

 あまりこの二人のことをよく知らない上に無邪気な性格をしているエレナは気付いていないのだろうが、彼らが彼女に邪な感情を抱いていることは明白だ。


 修学旅行に来てまでやるのが、旅先で出会った女の子を口説くことなのかと……若干呆れるユーゴたちであったが、そんな彼らへとリュウガが呟く。


「……気付いたか、ユーゴ? どうやら、僕たちが思っている以上に厄介なことになりそうだ」


「え……? どういう意味ですか、リュウガさん?」


「僕に質問するな」


 意味深なリュウガの一言に、ユーゴたち全員が眉をひそめる。

 それはどういう意味かとライハが彼に尋ねるが、もはや反射の域に達している速度で彼女への返答を拒んだリュウガへと、妹からの鋭いツッコミが飛んだ。


「お兄様? 自分から意味深なことを言っておいてその反応は流石におかしさの極みとしか思えませんよ?」


「うん。大! 大! 大! 大! 大問題! だな」


「兄さん? なんでそんなに大をいっぱい付けたの? あとなんだか一つ一つの言い方に力が籠ってない?」


「ユイも、その履き物はどこで手に入れた?」


 【なんでやねん!】と書かれたスリッパを振るったユイによる、強烈なツッコミが炸裂する。

 スパーンッ! という小気味いい音を響かせた彼女に続いてユーゴがうんうんと頷く中、その光景を見ていた側も色々とツッコみたくなったようだ。


 ほぼ間違いなく、あの意味不明なスリッパの出所は自分の相棒なんだろうな……と考えながら、リュウガが改めて先のライハの質問に答える。


「あの二人、一緒に行動しているのかと思ったが……どうやらそうじゃないどころか、敵対してるみたいだ」


「えっ!? ど、どうしてそう思うんだ?」


「あの二人、どちらも俺、僕、というふうに自分たちのことを称していない。隣の男と同じ集団ではないと、暗に伝えているんだろう」


「言われてみれば……お互いに争っているような物言いに聞こえるでござるな」


 そう、リュウガに言われて気付いた一同は、どうやらウォズとトリンが仲良く二人でこの島を訪ねたわけではないということを感じ取った。

 同時に、ここまでの彼らの雰囲気から得た情報を組み合わせた一同は、あの二人がエレナを奪い合っていることを理解すると共に苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。


「俺は剣が欲しいんだ! 金はいくらでも払うから、一番いい武器を売ってくれ!」


「僕は武器だけじゃなくって防具も欲しいんだよ! セットで買うから、僕の相手を――!!」


「だったら俺はアクセサリーも買う! だから先に俺の相手をしてくれ!」


「邪魔するなよ! 僕が先に声をかけたんだぞ!」


「いいや、俺が先だ!!」


「わ~! わ~! わ~! け、喧嘩はダメだよ~! みんなで仲良くしないと!」


「カニニニニニニニ……ッ!?」


「どうするよ、あれ? あのままだとエレナが可哀想だろ」


「だけど、一応はあの二人もお客さんだし、私たちが変に口を挟むわけにもいかないしね……」


 段々と激しくなっていくウォズとトリンの諍いに巻き込まれたエレナも、ようやく二人の関係の異質さに気付いたようだ。

 ユーゴたちが彼女を助けられないかと考える中、ここまで成り行きを見守っていたホーロンが彼女たちの下へと歩み寄り、笑顔で言う。


「エレナ、この人たちの相手は私がするから、あっちの子たちを頼めるかい?」


「えっ!? で、でも……!!」


「この人たちは買う物を決めてあるんだろう? だったら、私でも大丈夫だ。あの子たちはまだ何を買うかどころか、どんな商品があるのかもわかってない。カルロスさんが留守にしている以上、装備の説明と紹介ができるのはエレナだけだろう?」


 そうやって話に割って入ったホーロンが、やや強引な説得を行う。

 それでもと迷うエレナの前で彼がポルルへとアイコンタクトをすれば、全てを理解した賢い魔物はエレナの背中を押してユーゴたちの下へと連れていってくれた。


「あっ!? ちょっ、待てよ!!」


「さ、先に話をしていたのは僕なのに――!!」


「いやいや、エレナはお二人さんに会う前からあちらのお客さんたちと話してましたから、その理屈でいえば優先されるべきはあちらの方々になりますよ! まあまあ、大丈夫! シャンディアで作られた装備は超一流! 紹介するのが私でもエレナでも、そこは変わりませんから!」


 笑顔でそう言いながらフレンドリーに肩を組んだホーロンがウォズとトリンを連れて何処かへ連れ去っていく。

 何も言い返せなくなった二人が悔しそうな表情を浮かべると共に振り返り、自分を憎しみを込めた眼差しで睨んでくる様を目にしたユーゴが、まず間違いなく彼らが理不尽な怒りを自分に抱いたんだろうなと確信する中、苦笑を浮かべたエレナが口を開いた。

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