エレナの過去と英雄候補
「えっ……!?」
ホーロンの言葉を聞いたユーゴたちが目を見開いて驚く。
彼らの反応を見たホーロンはしまったな、といった表情を浮かべながらも、ここまで話したら同じかとばかりにエレナについて話をしていった。
「もうずっと前、エレナはお母さんを病気で亡くしてね……その時の落ち込みようは、見ていられないほどだったよ。あの子は、お母さんが大好きだったからね……」
「母君を、早くに……そうだったんですか」
「ああ。でも、ちょうどその頃に浜辺に打ち上げられたポルルと出会ってね、あの子の存在がエレナを救ってくれたんだ」
愛する母を喪った直後に出会った、蟹の魔物。
新しい出会いが新たな家族を生み、その存在が哀しみに沈んでいたエレナの心を癒してくれたとホーロンは語る。
「エレナのお父さんはこの島の長だ。あの子も、父親を見習ってこのシャンディア島のために一生懸命に頑張ってくれている。ポルルと一緒にね」
「……今は亡き母君が愛したこの島を、より多くの人たちに愛してもらうため……なのでしょうね」
マルコスの呟きに、ホーロンが無言で頷く。
そうした後、彼らを見ながらこう言葉を続けた。
「実を言えば、エレナのお父さんはエレナがこの島を……いや、ウインドアイランドを出ることを望んでるんだ。こんな狭い島に閉じ籠らず、広い世界を見てほしいと願っているようだが、エレナ自身がそれを望んでいないからね……」
「家族との思い出が詰まったこの島を離れるのが寂しいのでしょう。エレナの気持ちも、尤もです」
「まあ、そうだろうね。ただ、あの子にも君たちみたいな同い年の子と学校生活ってものを送ってもらいたいっていう、お父さんの気持ちもわかるからねえ……」
親を想う子供の心と、子供の未来を想う親の心、そのどちらもを理解しているからこその板挟みに唸るホーロン。
この難しい問題に関して色々と思うことがあるのであろう彼は、顔を上げるとユーゴたちを見つめながら口を開く。
「こんなことを急に言われても困るだろうが、エレナと仲良くしてやってくれ。短い時間かもしれないが、君たちみたいな子たちと過ごすのは、エレナにもいい刺激になるだろうからさ」
「……はい、わかりました」
ホーロンの頼みを聞いたユーゴが、力強く頷く。
その答えに満足したようにホーロンが笑ったところで、エレナが戻ってきた。
「待たせてごめん! 探したんだけど、パパが全然見つからなくってさ~」
「今日、カルロスさんは島中を見て回ってるみたいだしね~……近くにはいないんじゃないかな~?」
「う~ん、そうみたい。探し回ってたら日が暮れちゃうだろうから、先に工房に案内しちゃうね!」
「それがいいよ。もう先に別のお客さんたちも来てたし、一緒に案内してあげよう」
ホーロンとそんな会話を繰り広げた後、エレナはユーゴたちを工房に案内すべく歩き始めた。
その途中、ポルルに引っ付かれているマルコスへと声をかける。
「ねえ、マルコス。私がパパを探してる間、ホーロンさんと何を話してたの?」
「大したことではないさ。それより、お前の父上は魔物の素材を使って武具を作る職人だと言っていたな?」
「うん、そうだよ! 何を隠そう、パパは凄腕の職人なの! 脱皮したポルルの殻や鋏を遣って作った武器や防具もあるから、期待しててね!」
「カニカ~ニ~ッ!」
「ふっ……! そうか。なら、楽しみにしていよう」
エレナの質問を上手く流したマルコスが、はしゃぐ彼女とポルルの反応に笑みを浮かべる。
そのまま、エレナの父の仕事場である工房へとやってきた一行であったが……ユーゴたちが中に入った瞬間、先に到着していた客たちが騒ぎ始めた。
「なっ!? ユーゴ!?」
「どうしてお前たちがここに……!?」
「あん? お前らは確か……」
工房に居た、自分たちと同じ制服を着た男子二人組の顔を見たユーゴが首を傾げる。
どこかで見たような気がするなと二人が誰だったかを思い出そうとする彼へと、リュウガがその答えを教えた。
「名前は覚えていないが、シアンとつるんでいた連中だ。あの犯罪組織が起こした事件の時に君も顔を見たんだろう」
「ああ、言われてみれば……!! あの時の!」
「お前っ! そんな言い方はないだろ!」
「あの後、お前のせいで僕がどんなに大変だったか……!」
警備隊の作戦をぶち壊し、犯罪組織を刺激して被害を拡大させた上でこっそりとその場から逃げたシアンと一緒にいた二人組だと、リュウガに言われて気付いたユーゴが手をポンと叩く。
色々と迷惑をかけられた相手だが、リュウガが犯人グループを撃退する際に誤って(わざとじゃないとは言ってない)一緒に斬ってしまったと聞いていたのでそこまで気にはしていなかったが……まさかこんなところで顔を合わせるとは思わなかった。
そんなユーゴたちの態度に思うところがあったウォズとトリンは怒りに声を上げるが、すぐ近くにエレナがいることに気付き、口を閉ざす。
ウォズもトリンも、目的はエレナの勧誘だ。下手な真似をして、彼女に嫌われたらマズい。
すぐ近くにいるライバルに出し抜かれないようにしながら、エレナを自分のものにしなくては。
(絶対に譲らねえぞ! エレナは俺のもんだ!)
(こんな馬鹿に負けて堪るか! エレナを手に入れるのは僕だ!!)
一瞬、お互いに視線を交わらせ、火花を散らした二人は、そのまま素早い動きで左右から別々にエレナに近付き、彼女に声をかけた。
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