幸せの島・シャンディア島
「本当にあっという間だったわね。想像以上のスピードだったわ……」
「よ、酔ったでござる……景色を楽しむ余裕もなかったでござる……」
「ふっふっふ~! すごいでしょ~? すっごかったでしょ~!?」
目的地には、本当にあっという間に到着した。
予想だにしていなかったスピードを出した船に乗ったことで若干船酔いしている一同を尻目に、エレナは船を引っ張ってくれたシーホースたちに手を振っている。
今から島の近くにいる他の仲間たちと合流するんだろうなと思いながらシーホースたちを見送ったユーゴ一行へと、変わらぬ笑顔を見せながらエレナ(とポルル)が言う。
「というわけで、改めまして……ようこそ! ここが幸せの島、シャンディア島だよ!」
「カニカニカニッ!!」
今のところ、見えているのは上陸の際に利用した木製の桟橋だけなのだが、少し行った先には緑あふれる自然とその中に作られたが家々の姿が見える。
そこから聞こえる動物たちの声を聞きながら、エレナに案内されて進んでいったユーゴたちを出迎えたのは、シャンディア島に住む人々と魔物たちであった。
「いらっしゃ~い! シャンディアへようこそ~!」
「魔物との触れ合い体験やってるヨ~! 興味があったら遊びに来てネ~!」
「シャンディアの特産品、魔物たちの素材を使ったアクセサリー! どれも素敵だヨ~! ここでしか手に入らない物もいっぱいあるヨ~!」
「うおっ、すげえ活気だな……!!」
「それに、魔物たちがいっぱいいるよ! 本当にたくさんだ!」
声をかけてくる島民たちの活気も驚きだが、それよりも目を引くのはやはり人々と共生している魔物たちの姿だ。
柵の中で島民に餌を与えられている角の生えたウサギのような魔物がいたかと思えば、作業を手伝う二足歩行の犬の魔物もある。
空を見れば、木材を運んで飛ぶ鳥の魔物もいるし、目の前には歓迎の踊りを踊る美しい花の魔物とぽよんぽよんと跳ねるスライムの姿があった。
「家畜のように扱われている魔物もいれば、人間と一緒に作業をする魔物もいる。シャンディア島の人たちと魔物は、色んな形で助け合って生活しているんですね」
「そうだよ! 人も魔物も、みんな家族! お互いに助け合うのは当たり前だよ~!」
「なんかいいね。みんな楽しそうで……きゃあっ!?」
「ぶっっ!?」
人々と魔物の姿を見つめながらしみじみと呟いたメルトの足と足の間を、小さな何かが通る。
そのまま高くジャンプしたその何かは、彼女のスカートの後ろ部分を捲り上げてみせ、突如としてお披露目されたピンク色の下着を目にした男性陣を盛大に噴き出させた。
「ちょっ!? えっ!? なに、今の!?」
「か、風って感じじゃなかったよな? 何かがスカートを捲っていったような……?」
顔を真っ赤にするメルトと、彼女の下着を見てしまったことをどうにかごまかすべく、視線を逸らしながらそう述べるユーゴ。
彼らが微妙な気まずさを漂わせる中、そんな一同の姿を笑うような声が響く。
「ウキキキキキッ!」
「ん? なんだ、この声……?」
響いた声のした方向へとユーゴが顔を向ければ、木の上で楽し気に笑う小さな猿の姿があった。
ぴょこん、ぴょこんと枝から枝へと飛び移った後でユーゴの肩へと降りてきたその猿は、文字通りウキウキと楽しそうに鳴いて笑っている。
「この魔物は……?」
「アイドリマーって魔物の子供だよ。まだ子供で、悪戯が大好きなの。こらっ! ダメでしょ、そんなことしちゃ!!」
「ウキャキャキャキャキャキャ!」
どうやら、アイドリマーの子供はエレナに叱られても全く堪えていないようだ。
無邪気ないたずらっ子の登場に苦笑するユーゴであったが、彼の肩ではしゃぐその子供を背後から伸びてきた手がむんずと掴む。
「ウギャッ! ウキキキキッ!!」
「キャアッ!? ウキャアアッ!?」
「おっ、おおっ? もしかして、こっちのアイドリマー……?」
「この子の、お母さん?」
飛び跳ねていた子供を掴んだ大きなアイドリマーが、その手の中にいる子猿へと鋭い視線をぶつけながら大声で叫ぶ。
先ほどまでの余裕が一変、いきなり焦りだした子供の姿を目にしたユーゴたちは、あれが親アイドリマーによる我が子の躾であることを理解し、笑みを浮かべた。
「こうやって見ると、魔物も俺たちとあんまり変わらねえのかもな。子供がいて、親がいる。人間も同じだしさ」
「そうだね~! ……あっ! ホーロンさん! ちょうど良かった!」
我が子を叱ったアイドリマーが、ぺこりと頭を下げてから立ち去っていく姿を目にしたユーゴが呟く。
その言葉に同意したエレナは、近くを歩く中年の男性へと声をかけた。
「おお、エレナ! お客さんかい?」
「うん! ちょっとだけみんなを任せてもいい? 私、パパを探してくるから!」
「ああ、わかったよ。お客さんたちのことは任せておくれ」
ぐっ、とサムズアップをしたその男性とバトンタッチしたエレナが、ポルルと共に父を探しに駆け足でこの場を立ち去る。
エレナに後を任されたホーロンというその男性は、ユーゴたちの方を見ながら笑顔で話をし始めた。
「かわいい女の子からこんなおじさんにガイドが変わっちゃって悪いねぇ! エレナもすぐに戻ってくるだろうから、少しだけ辛抱しておくれよ!」
「そんな気にしないでくださいよ。おじさんも楽しそうな人ですし、色々話してみたいですから!」
「ありがとうね! でもほら、君みたいな男の子からしてみれば、エレナみたいな女の子のガイドの方がいいだろう? さっき、君と同じ服を着た男の子たちと話をしたけど、二人ともエレナと会いたがってたからね!」
「えっ? エレナに会いたがってた? ルミナス学園の男子が?」
「妙ね。エレナは昨日、海水浴場で私たちと会って別れるまでずっと一緒だったし、どこで彼女のことを知ったのかしら?」
「う~ん……わからないけど、エレナは色んな所でシャンディアの宣伝をしてくれてるからね! どこで知っててもおかしくないよ!」
自分たちが昨日、出会ったばかりのエレナのことを知っていた同級生がいることに驚いたユーゴたちは、なんだかとても嫌な予感を覚えていた。
こういう時、絶対に良くないことが起きる……と、彼らが考える中、少しトーンダウンしたホーロンがしみじみと呟くようにして言う。
「……本当、エレナはこの島のために頑張ってくれてるよ。お母さんを早くに亡くしたっていうのに、そんなことも感じさせないくらいに明るく振舞ってさ」
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